召喚刑事 4
隔離病棟の一室で異世界からの召喚されたその人物は、一見優雅に過ごしているようだった。
ゆったりとしたソファーに腰を掛け、数学パズル本を片手に、問題に取り組んでいる、リサリーの知識の中にしか存在しない人間と云う生物は、外見上はエルフに似ていた。
もっとも種族全体が美形でありスレンダーな体型のエルフは男女の区別が分かりづらいが、かの人物は一目で男性と判別できた。
オークやドワーフのような武骨さはないが、精悍な顔立ちにある黒い瞳には思量深さがうかがえる「もしこの男が犯罪者だとしたら、かなり拙いことになるかもしれないな」
そう思いつつもリサリーにはそんなことには成らないだろうと云う確信じみた想いがあった。
「リサリー捜査官。彼には術式端末の登録がありません、翻訳術式には相手側にも端末が必要ですが?」
ロゼの疑問に軽く頷いて見せる、異世界から召喚された人物が術式のという技術の存在しない世界から来たことは所持品から推測出来ていた
そして今もこの部屋の術式を起動できずに、コルムの差し入れた古美術品ともいえる紙の本を読んでいただけだが、その視線もいまはリサリー達に向けられている
おそらく彼が召喚されてから面識のある者はハーフリンクであるコルム以外は医療用ゴーレムだけであろう、そこに現れたハーフリンクのリサリーとゴーレムのロゼの二人組をどのように分析しているのか、
言葉が通じないとしてもこれけだけ外見が似ていればそれなりに情報修得方法はあるだろう、「彼の観察眼がどれほどのものか判れば協力者として頼りになるのだが」とリサリーはそう考えていた。
「ロゼ。コルムからの情報と翻訳術式を使って通訳をたのむ」
「了解」
小さな咳払いのあとリサリーは今回の事件の被害者とも云える人物に向かい声を掛ける
「私は連邦捜査局禁呪課捜査官のリサリーです。貴方は違法術式によってこの世界とは異なる別の世界から召喚されました。禁呪法が制定されてからいままでに知的生命体が召喚された記録は無く、今回の特殊な事例の調査のため貴方には証人として同行してほしいのですが。それにあたり翻訳術式を使用するために貴方に術式端末を付ける必要があるのです」
リサリーは云ったん言葉を切り、相手の反応をうかがう、彼は自分と同じ言語を使うロゼに驚いていたようだがその台詞の内容を聴き慎重に考えを巡らせている様子だった。
とはいえ、ここに至って彼には選択肢は無いようなものだ、おそらく自分の立場の再確認と云ったところだろう。
さして長考もなく彼は頷き何事かをリサリーに話しかける
「同行に関してどの程度の自由意思を持てるのか確認していますが」
ロゼが通訳することばを聴きながらの彼から視線を外すことはしない、すると相手はリサリーとロゼの両方を視界におさめたまま油断なくこちらの動きを観察していた
「貴方の質問には出来る限り答えるつもりだが、自由行動はできない。貴方に付ける術式端末も犯罪者の術式使用を制限するための拘束具であるし、私のそばを離れる事は許されない。
この世界に置いて貴方が異分子で在ることを自覚してほしい、しかしそのためにも貴方にはこの世界を知る権利があると私は考えている」
「この考えに同意できるなら、これを首に付けてほしい」
差し出されたそれを彼は目前にかざすようにして調べているようだった。
リサリーの用意していたチョーカー型の拘束具は連邦捜査官が使用するモノで一般の警察官が使うモノよりコンパクトであまり目立たないシンプルなデザインのモノだったがレベルの高い術式使いを相手にするため性能ははるかに優れている。もっとも、術式の概念がない異世界の住人である彼にとっては通訳機能のある只の首輪でしかないが。
目視確認をしたところで仕方がないと諦めたのか、あっさりとチョーカーを首に巻きつける
「対象者の術式端末の着用を確認しました、これより私を通じ対象者を術式ネットワークへの登録および翻訳術式の実行を行います」
ロゼはリサリーに軽く首肯してみせる、準備は整ったようすだった。
『改めて自己紹介させてもらおう。私はハーフリンク(半妖精)で連邦捜査官のリサリー・マキャフリー、隣のゴーレム(自律人形)は捜査補佐官のロゼ。』
『貴方はこの世界にとって招かれざる客人であるが、それでも云わせてもらおう、ようこそハイエルフ(始祖妖精)の統治するアルカディア連邦国へ、この世界の法と秩序を順守する限りにおいて私は貴方の見方でいよう』
『俺は警視庁組織犯罪対策総務課、違法薬物取締係、永倉匡一郎巡査部長だ。』




