召喚刑事 3
「やあ久し振りだね」
白衣を着た子供のエルフのような美少年がリサリーを出迎えた、
天真爛漫な無邪気さを体現したハーフリングの青年、コルム医師だ。
コルムは人類が絶滅するまでの間に発達させた医学・免疫学・遺伝子工学・異世界生物学の権威であり、世界有数の術式医でもあった。
本来であれば警察病院程度の器に収まっているような才能ではない、彼が今の地位にいるのはひとえに異世界生物学の研鑽のためである。
研究すら禁止されている召喚術式で呼び出される異世界生物を研究するには、取り締まる側にいるのが最も手っ取り早いという考えがあってのことだ。
「検査で一週間も動けなかったんだって?僕なら一日あれば十分なのに」
「上司に釘を刺されたばかりよ。そんなことより頼んでおいた…」
「彼は凄いね!」
リサリーの言葉をさえぎるようにコルムが陽気な声をあげる
「高い知能と冷静な判断力、そして忍耐力、彼のような人間が召喚されたことは奇跡的だと言っていいん じゃないかな、もしも僕が異世界に召喚されてもあれほど理性的に振る舞えるかどうか」
「人間?…彼は人間なの」
「そうだ3000年も前に絶滅したとされる我ら(ハーフリンク)の善き隣人、彼は人類に間違いない」
「でも、過去の生物が召喚されたなんて話は聞いたことがないわ…」
「ああっ。誤解しないでたしかに彼は絶滅した人類と同じ遺伝子情報を持つ、絶滅した人類の生き残りと云われても信じられるぐらいだ、けれど彼がこの世界の住人ではない証拠もある。
ハーフリンクは人類と共に暮らしていた、それによって僕らの持つミトコンドリアは絶滅した人類と同じ 起源を持っているのだけれど、驚くことに彼の持つミトコンドリアは僕たちとは違う起源を持つ異世界種だ」
コルムの早口の説明にリサリーは眉をひそめる
「君の心配は解かるが、僕を誰だと思っているんだい。彼の体内や体表の微生物まで全て検査済みだよ、
少なくとも彼の存在がこちらの世界(生態系)に悪影響を与えることは無いよでも、それは生物としてであり、意思を持つ人としてどの程度の社会的影響を与えるかは未知数だね」
実に楽しそうなコルムの声を聴きながらもリサリーは慎重に考えを巡らせる
「偶然。彼のような存在が召喚されることがあり得ると思う」
「さあ?僕は医療術式に関しては優秀だと自負しているけど。禁呪については召喚された生物の検疫などの検査をするのがせいぜいだし正直今回のような特殊な事例にどう対処していいか解からないんだ、明らかに知的生命体である彼を、ただ単に危険生物とみなし殺処分するのは反対だ。
それにもし君の考える通りこの召喚が今までとは違うものならば彼との意思疎通は絶対に不可欠だろうね」
「どの程度まで会話できそう?」
「かなり複雑な言語体系を持っていそうだけれど僕は言語学者ではないから、自律人形相手に向こうも色々と話しかけたりして単語の蓄積は出来てきているけれど会話できるほどではない
彼の世界には術式の概念がなくて別の技術系統で発展してきたんだろうね、こちらの術式を使った対応に全く反応できていない」
「鑑識班からの報告書にもそんなことが書いてあったわ、彼の所持品には高度な技術で造られたものがあるらしいけど術式に対応していなくて動力源が解からないとか…
とにかくこちらで、翻訳術式を用意してきたから、いままであなたが蓄積している情報をロゼに送って頂戴」
リサリーの要望にコルムは助手のゴーレムにデーターの転送を命じると
それまで静かにリサリーのの背後に立っていたロゼが翻訳術式にデーターの転送を確認したと答え、それをうけリサリーはコルムに問う
「すぐに面会はできるの」
「もちろんだとも…彼の名前は『永倉』というらしい。きっと彼も新しい展開を望んでいるだろう、出来ることであれば、彼がこの世界で生きるチャンスになることを願うよ」
リサリーとロゼが案内された病室は地下の隔離病棟であった。
通常の病院施設と異なり連邦政府により建築されたこの病院は警察関係者や事件の被害者等の治療を行う 地上部分と凶悪犯罪者の治療や伝染病患者や召喚された生物の研究を扱う地下部分にわかれていて、地下施設に入るには連邦捜査官とはいえ本来であれば許可が必要なのだがすでに話は通っている、二人は長い通路を目的地へと進みながら会話していた
「リサリー捜査官ずいぶんと前倒しで色々な許可を取っているようですが、それらが必要になると考えているのですか」
「さっきコルムが自分は医療術式が専門だから禁呪の事は判らないといっていたが、私を含めた禁呪捜査官にどれだけ召喚術式のことを理解している者がいるのだろうか?」
「禁呪は研究することすら禁止されています」
ロゼの言葉は捜査官であれば誰もがいう言い訳じみた文言だった
「私とコルムはハーフリンクの中では天才的な術式の才を持っていた。と自負している」
リサリーの独白にロゼは静かに首肯してみせる
「しかしだ、いざエルフの都市に来てみれば、私程度の実力者など掃いて捨てるほどいる。
その中でコルムは腐ることなく努力を続け、今の地位を手にしたが。
私は連邦捜査官としてあまりにも凡庸だ、術式にしたところでロゼの支援なくしてはエルフの犯罪者に対抗できない」
「リサリー捜査官の優秀さはキース班長も認めています、私はリサリー捜査官の長所は何事にもうたがいの 視点を持つところだと考えます」
「褒めている様には聴こえないな」
ロゼの台詞にリサリーはため息をつつも、内心では認めている
「しかし『永倉』か…召喚されたこの世界が彼の味方とは限らないのに、彼に協力を求めるのは難しか?」
「被召喚者の知能によって変わってくると思いますが、どの程度を話すつもりですか」
ロゼの質問に目的地の扉の前で振り返って答える
「すべてだ、私の知ることは全て話す、彼には知る権利がある」




