召喚刑事 2
リサリーがようやくオフィスに戻ってこられたのは、先の違法召喚事件から一週間が過ぎてからだった
検疫のためにそれだけの時間を隔離されていたのだが、職場復帰早々に課長室に呼び出されている
部屋にはリサリーと彼女の属する禁呪課「召喚班」の主任キースそして禁呪課の課長ゴードンの三人だけである
彼女は連邦捜査局に配属されるまでエルフとは美形しかいないと思っていたが、二人の例外を知ることになった。
その一人がキースで、エルフの平均身長を大きく超える2メートルの長身であるが体重は平均以下の外見 は、抜身のサーベルのようだ。
リサリーはキースという上司が苦手であった、いつも不機嫌そうな表情で、細い目を更に細めている所為 か近くにいると何かと落ち着かない。
彼は自他共に認める優秀な人材である、それは良いのだが、優秀であるが故に他者にも同じ成果を求める傾向にあった。
400歳近い高齢だがいまだに捜査長程度の役職なのは上層部にうとまれているせいだともっぱらの噂だが、あながち間違っているともおもえない。
そして課長室のディスクの向こうに居座る大男、ゴードンこそ、リサリーが知る、二人目のエルフらしく ないエルフだ。
リサリーが何かと問題を起こすたびに(もちろんリサリー本人は問題などと思ってはいない)呼び出されているが、多くのエルフに見受けられる傲慢さがゴードンにはない
ハーフオークと陰口を云われるほどに肥満した巨体を揺らしながら小さなハンカチで頬を伝う汗をせっせと拭き続けている姿はしがない中間管理職そのものだった。
「マキャフリー君、また時間凍結術式を使用したらしいね…君も解かっているとは思うが在れも禁呪すれすれの術式なんだから…あまり多用されると…」
「禁呪捜査官の特権として許可されたものです、捜査報告書を読む限りにおいて、彼女の判断は適切であったと思われます」
リサリーが答える前にキースが口をはさむ、彼の立ち位置は課長の横ではなくリサリーのやや右前方、彼女の盾のように不動の姿勢をとっていた。
あまりの意外さにリサリーは呆気にとられたように口をあけたまま上司の後ろ姿を見つめているだけだ
「しかし、彼女の抱える案件は班の同僚と比べてもそれほど多くないだろう?上からは問題が多すぎると……」
「事案の解決件数が考慮されていません。他の者は長く抱えている案件が多いだけですよ。
180年前の事件では召喚された生物の皮膚に付着していた数匹の蚊が媒介した伝染病によって740名 のエルフが犠牲になっています
エルフの種族的特質として問題の先送りがあります、他種族に比べ寿命の長さがそうさせる要因でしょう が、禁呪において後対応は命取りです。
ハーフリンクである彼女の即断即決の行動力は召喚班に必要不可欠な戦力です」
キースの眼光に圧された様に身をのけぞらせながらもゴードンは口をひらく
「協力下にある州警官を巻きこんだ上、犯人の半数は取り逃がしている、しかも警官の一人は行方不明では…」
「その警官は昨夜ロゼが遺体で発見しました、報告書はすでに送ってありますが」
「外部協力者から犠牲が出るなんて……」
キースの指摘にゴードンがあわてて端末から情報を引き出すが、これはゴードンに非は無いだろう彼のもとに送られてくる報告は毎日膨大な数になる
その一端を担うキースは彼を責めることは無い。ただ頭を抱えるゴードンにキースはいつものように抑揚のない声で云う
「殺された警官は召喚組織のスパイですよ」
「証拠はあるのかい…」
ゴードンの台詞は縋るような弱弱しさだ
「それはこれから立証します」
「………」
リサリーとキースはすでに課長室をあとにして通路を進んでいる
「どうした、私の顔に何かついているか」
「いえ、主任が擁護してくれるとは思わなかったもので」
「擁護などしていない、正当な評価をしただけだ。警官がスパイだと判断していたのは君の報告書だろう」
「可能性を示唆しましたが、確証があるわけでは…ただ先の事件では星霊の流脈を停止するために配置していたゴーレム二名が真っ先に排除されました。
タイミングといい現場の者の手引きがあったとしか考えられません…」
そこまで話してリサリーは口をつぐむ、あとに続く『我々禁呪課の手はずを熟知している人物がいることもあり得る…』いう言葉はあえて云わなかった
課の同僚を疑いたくはなかったし、キースがそのことに気がつかない訳もないはずだった。
「鑑識にロゼを待機させている、警官の司法解剖の結果を確認しておけ。
それから警察病院のコルム医師から連絡が入っている、
かの医師はこの都市でも5本の指に入る名医だ名指しで仕事を頼むものなどそうはいないぞ、同郷のよしみとはいえあまり頼りすぎないようにな」
「今回召喚された生物は特別です、コルムの力が必要だと判断しました」
「特別だと?どうしてそう思った」
「衣服を着ていました、こちらの呼びかけに反応していたと思われ、明らかに知性を持っている様子でした」
「この2000年間に知的生物が召喚されたという記録など無い」
事後処理にあたった鑑識班からの報告はキースの元に上がっている筈で、当然彼も召喚された生物がナイフによって致命傷を負っていたことは知っているだろう
時間凍結の解除後すぐにリサリーは召喚された生物の治療をコルム医師に最優先で依頼している、検査の隔離中でも外部と連絡が取れるためロゼを通じ色々指示を出してはいた
キースもそれは把握しているがリサリーのこだわりには納得がいかないようだ。
「これは私の勘に過ぎません、しかし彼の召喚には何かしらの作為を感じるのです」
「召喚術式は不完全な術式だ、特定の生物を狙って召喚などできようはずがない」
キースの云う通り禁呪とはそもそも研究すら禁じられている、5000年以上前に起こった戦争で人類とハイエルフに絶滅の要因をもたらせたためだ。
今や当時の召喚術式を正しく受け継ぐものは誰もいないはずだった。
「…そうだな君の判断に任せよう」
上司の同意を得たところでエレベーターが到着しリサリーは乗り込んでいった。




