召喚刑事 16
真っ直ぐな通路を誰にも邪魔される事なく、永倉は走る。
幾つかの区画へ繋がる扉はあったが全て無視し
突き進むとやがて開けた空間が現れる。
本物の空が見えるその場所は永倉にヘリポートを連想させた
都市の外殻を移動するための乗り物だろうか
四角いコンテナの様な物の隣りに鮫崎は立っていた
永倉に気付き振り返る。
差して驚いた様子もなく、当たり前のように
ベルトに挟んでいた拳銃を引き抜き永倉に向けると発砲した。。
しかし、永倉は走る速度を緩めるることはない、
彼我との差は10メートルをまだ超えるが被弾も覚悟の上だった。
視界には鮫崎以外の姿はなく、味方もいない、
故に一切の躊躇なく踏み込む。
逃げを打ったのは鮫崎の方であった、
自身の使う拳銃の精度の悪さは良く分かっていた、
動く標的に対しての命中射程は2メートルもない。
永倉の持つ竹刀の一撃を余裕を持って躱すと拳銃を投げつける、
永倉はそれを受け止めることもなく竹刀ではじくが。
鮫崎が銃を手放したことで一瞬の間が生まれた
素手になった相手に油断があった。
既に鮫崎との距離は一呼吸では届かないほど開いている
しかし、永倉と鮫崎の立ち位置は入れ替わっていた
逃走用の移動手段は永倉の背後にある。
「思ったよりも早かったな
やはりヴォルフォスじゃ時間稼ぎにもならなかったか」
鮫崎はわざとらしく左手首に付けた腕時計を見ながら笑う
召喚されたときに身に着けていた愛用の
18金にダイヤを散りばめたロレックスで
元の世界の時間を刻み続けている。
「その右手のためにどれだけの犠牲を出し続けるつもりだ」
職員を人質として使うつもりもなく
この病院を占拠している部下も使い捨てるつもりだろう
永倉の問いに鮫崎はあきれたように
「おい、おい、おい、おい、おい。
俺は勝手に召喚された被害者だぜ。
この世界の法に従ってやる義理はねーぜ
俺が捕まれば…永倉だってノアの塔に送られる
そうなれば元の世界に戻る事は不可能だ
俺達はこの世界からしてみればウイルスみたいなもんだ
生き物の腹んなかに居るうちは良いが
試験官に入れられちまったら何もできねー
標本にされんのは御免だぜ」
「鮫島の意見はもっともだと思うが
それはお前が善人で在ればの話だ
正直に告白しよう
ここで、お前を私刑にできるのであれば
俺はこの世界の法で裁かれるのも構わないと」
「私刑か、イカレてやがる
それが、永倉の素か…」
鮫崎は懐から金属片を取り出し左手の指輪に共鳴させる
右手に現れたのは刃渡り二尺ほどの日本刀…いや長ドスだった。
「いやいや、ここに来てあんたと意気投合出来るとはなぁ。
邪魔の入らないうちに存分に殺し合おうじゃあねーか」
鮫崎は心から楽しそうに笑い。永倉は何の感情も表さない
正眼に構える永倉に対し、鮫崎は右手に持った長ドスを肩に担ぐようにして
リズムを取るように軽く動かし続けている。
実に落ち着きのない所作に見えるが、永倉は迂闊は踏み込まない
無造作に降ろされた左手に僅かに違和感を覚える
つい先ほど付け直された右手にどれほどの自信を持っているのか
鮫崎は見た目とは裏腹に不安要素は確実に潰すタイプだ
剣道において格上の自分に対し余裕などある筈がない。
まだ拳銃を隠し持っているにしても
この至近距離で在れば抜き打つ暇もない筈だそんな思考がよぎった時に、
先に仕掛けたのは鮫島であった
右肩に背負うように持っていた長ドスを勢い良く投げつけるが
永倉は冷静に、縦回転しつつ飛来する刃に向かい逆に踏み込んでいく
長ドスの柄を竹刀で跳ね上げ、構えを上段に変化させて更に踏み込む。
そのまま振り下ろせば勝負が決まると思えた瞬間に、鮫崎の左手に長ドスが出現した。
互いに怯むことなく距離を詰めた結果
鮫崎は竹刀の鍔本近くを額で受け止め、永倉は横腹に長ドスを受けていた。
傷は深くはなく内臓までは達していなかったが、
永倉は出血と痛みに後方とよろけながら距離を取る
一方で鮫崎は片膝をついた姿勢でその場からしばらく動かず、
永倉が息を整える間にゆっくりと立ち上がり顔を上げる
額の皮膚が裂け大量の出血が凄惨な程に鮫崎の笑顔を彩っていた
「お互いに、今の一撃で仕留められなかったのはまずったな
消耗戦だけは避けたかったんだが」
言って鮫崎は腰を低く長ドスを引き寄せた姿勢で構える
対して永倉は傷口を押さえていた右手を竹刀へと戻す
傷は深くはないが、鮫崎が逃げに徹すれば追うことは不可能だろう
こうして、とどめを刺すために立ち止まっていることに内心安堵していた。
「消耗戦になるほど打ち合うつもりなどない」
もとよりリサリー捜査官から預かった竹刀が
どれ程の耐久力を持っているのか分からない
ヴォルフォス捜査官との対戦を鑑みるに柔軟性も強度も永倉が使い慣れた
竹刀よりも遥かに高性能のようだが、長ドスと正面から打ち合えるともかぎらない
が相手がそのようなことを考慮しているわけはない
一見でたらめなほどの連撃を放ってくるが
ドスの側面を竹刀で弾くようにして軌道をそらす
一方的に鮫崎が斬撃を重ねるが
永倉は殆どその場から動くこともなく受け流し続けている
両者の距離は僅かづつにだが近づいて行く
笑みの表情とは裏腹に鮫崎は焦っている
想定していたより額からの出血が酷く、
瞬きさえもが命取りになるこの瞬間に視界を赤く染めつつある
既に両者は必殺の間合いにある、一瞬のスキが致命傷に繋がる。
肉体的な反応で血の入った目の瞼が閉じそうになる辛うじてこらえる
と、そこへ
「永倉!」リサリーの声が響く
刹那。鮫崎が動いた
自分に向け振り下ろされる竹刀を感じながら必殺の突きを繰り出た




