召喚刑事 14
ハイウエイを法定速度で走り、ようやく螺旋状の外殻を持つ都市につく
「ここからは乗り換えだ」リサリーの言葉通り内壁側に今迄の移動車両は明らかに異なる車両が待機していた
「捜査局の専用車両だロゼの義体の修理を行う」
形状こそ流線形ではあるが、永倉が立ったまま搭乗できるほどのサイズがあった、
今迄この世界で見かけた建造物や乗り物は全て乳白色で素材の色がそのままに反映されてだけかと考えていたが、例外もあったようだ。
捜査局の特殊車両は艶のない闇夜のような黒であった
永倉の主観的にはトランクにあたる部分が大きく開かれ人型の窪みが現れる。リサリーはそこにロゼを横たえると、サイドの昇降口から永倉を内部に招き入れる
「最新の義体を用意させておいたが、しかし、他の自律人形達とリンクを張ると傍受されるだろう」リサリーは腕を組み考える。今更通信を暗号化している時間はない
ロゼには自分の部下の自律人形だけと閉鎖的ネットワークを構築してもらうぐらいしかできないだろう。
「永倉。鮫崎という異世界人はどれ程の策略を巡らせていると思う?」
「こうして表舞台に出てきたということは逃げ切る自信があるということだろう。奴にとっての最優先事項は元の世界に戻ることだ…君たちにとっては最悪の事態を想像しておくべきだな」
言って永倉は目つきを鋭くする
「奴を逃がしてはいけない必ず俺の手で決着を付ける」
リサリー達が病院前に到着した時。キースは病院外部に張り巡らされた隔離障壁の術式を解除する為に奔走していた。
彼がこれほど慌てている姿をリサリーは今迄一度もみたことがなかった。
「状況確認をお願いします」部下達に檄を飛ばすキースにリサリーは近づき声を掛ける
「すまん、後れを取った。君らから連絡を受けた直後に警察病院が襲撃を受けたと通報が入った」そこで、キースは声量をやや落とし
「ヴォルフォス捜査官以外にも内通者がいるかもしれない状況で人員を選ぶ暇もなかった」と苦い表情を見せる
「鮫崎という異世界人が現れたのは、ほんの数分前だ。別働部隊が先んじて確保した警察病院の職員を盾にされ、堂々と内部への侵入を許してしまった」
「警備管理室を抑えられている、現在は対テロ用の隔離障壁術式をを展開され外部からの侵入を遮断され、正面玄関の解術に手間取っているところだ
占拠された施設が病院だけに施設全体の星霊流脈を切る事は出来ん」
「すべて入念な計画の下に行われる予定だったのでしょうが。既にほころびが出ていると私は思います」
「何故かね」リサリー言葉をキースは慰めと取ったようだ
「恐らく鮫崎は一切表立って行動しないまま異世界人の存在を隠して全てを終わらせようとしていたはずです」リサリーは確信を持って云う
「永倉の存在が禁呪捜査課(私達)に衝撃を与えたように鮫崎の属する犯罪組織にも同様の効果があったと思われます。鮫崎に敵対する派閥が永倉を確保する前に彼を始末する事を優先したと思われます」
キースは部下の意見に永倉を見たが当の本人はこちらの話を聞いていなかったのかあらぬ方向へと視線を向けている。視線を追うと異世界人の乗ってきた奇妙な機械を見ているようだ。
「何か気になることでもあるのか?」キースはリサリーに尋ねるがリサリーに翻訳術式が制限解除されていると説明されて改めて永倉に向き直る
「バイクは一台だけなのか?もう一人、黒い自律人形が一緒ではなかったか」
「否。ここに来たのは異世界人だけだ。報告にあった違法自律人形らしきモノは確認されていない」キースの説明が終わるころに、一人の女性妖怪が近づき声を掛ける
「術式鑑定は不発ですね~。あのよな~機械は~鑑識より、考古学者の領分でしょ~」鑑識班の班長であるタニスが緊張感のない声で告げる
「もう一人の召喚生物。お話してみたかったわ~あんな物を造らせる知識を持っているのってすごくない~」
「確かにそうだな、…考古学者の領分…この世界にもあったんだろ。術式以外にも科学技術が」永倉の問い掛けにリサリーとロゼは顔を見合わせキースは鋭い目つきを更に険しくさせる
「…」キースが何かを言いかけた時、背後からレイモンドが報告に入る
「部分的に隔離術式を解術するのは時間的にかなり厳しそうです。技術班長は星霊流脈を切断を提案しています。
俺も同意見です、このまま手をこまねいていても、職員に危険が及ぶ可能性が増えるだけです。互いに術式使用に制限がある状態での作戦こそ禁呪課の得意分野でしょうが」
キースは顎に片手を充てて考え込む僅かな迷いが鋭い眼光の中に揺らいでいる様だった。
「永倉の考えはどうだろうか」リサリーの問いに永倉は
「鮫崎は銃を持っていた…まあそれは予想できた、俺の所持品がこの世界の技術で再現されていた事を思えば当然だろう。しかし…」
鑑識らしき妖精達が集まる先、バイクを眺め「術式に制限が掛かると不利になるのはリサリー達かもしれない」そしてキースが先程から背を向けている。指揮車らしき大型車両を見、云う
「物理的に破壊出来ないのか、アレをぶつけるのはどうだ?」
異世界人の短絡な考えに失望したようにキースはため息をつく
「確かに壁の強度はそれほどでもないが。術式で制御されている物体を故意に事故らせる事など出来ない、そのように術式回路が組まれているからな、それらを書き換えている時間はないぞ」
キースの説明に永倉は一つ頷き。おもむろに鑑識班が集まる鮫崎のバイクを指差す
「それはそうと、俺なら鮫崎が乗り捨てたバイクには近づかないがな」
「!鑑識班作業を中止して。その機械装置から離れろ」
キースの怒鳴り声に慌てて鑑識達がバイクから離れるが、その動きとは逆に永倉は真っ直ぐにバイクに近づいて行く
悠然と燃料タンクのキャップをはずし残量を確認するとネクタイをほどき給油口に押し込む。
キース等が呆然とその様子を見ているなか、エンジンを始動させ車体を施設の入り口へと向ける
「永倉!何をする気だ」ポケットから取り出したライターでネクタイの端に火をつけるのを確認したリサリーがようやく我に返り叫ぶが、既に永倉の操るバイクは爆音を響かせながら走り出していた。
それほど十分な助走距離があったわけではなかったが。永倉が途中、飛び降りた後もバイクは減速することなく施設の入り口を守る隔壁にぶち当たり炎上した。
術式ににはない物理的な爆発にキース等、妖精の面々が耳を塞いだが、施設の機能は正常に作動し、床や壁から湧き出るようにきめの細かい消火剤を含んだ泡が可燃物を包み込んでゆく。
キースが何かを言おうとする間もなく火災は消火されたが、施設の入り口には永倉がくぐり抜けて行くには十分な亀裂が生じていた。
そして何の躊躇もなく永倉は施設内部に入り込む
「あいつを止めろ」キースが叫ぶが即座に動いたのはリサリーとロゼだけであった。
「確保に向かいます」とだけ答え亀裂を潜り抜けて行く。
「お前達はここで待て」慌ててキースが呼び止めようとするが既に二人の姿は見えなくなっていた。
「勝手なことを…」短く舌打ちし、現場に残る部下達に檄を飛ばす
「こうなっては、仕方ない各班。突入しろ」




