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召喚刑事  作者: 肺腸
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召喚刑事 9

少々考え事をしたいから喫煙できるところを教えてくれと永倉はリサリーに頼み込み

捜査本部内の唯一の喫煙所に案内されていた。

案内をしてきたのはロゼで、リサリーとタニスは鑑識課でまだ話し合っている。

『お一人でいたいのであればせきをはずしますが』

『いいのかい』と永倉の言葉にロゼは自らの首をゆるりと撫でる動作をして見せる

そのしぐさに永倉は立場を思い出し、ロゼは返答を待つまでもなくその場をはなれた。

永倉は改めて喫煙所を見渡すと、そこは屋内とは思えないほど整備された公園のような場所で一見すると中庭のように思えたが、そうではないと五感がつげている。

屋外というには空調があまりにも整いすぎていた。

頭上に視線を向けると、青い空と緩やかに流れる雲が見て取れるが、距離感がまるで掴めない、圧迫感はないが広がりを感じなかった。

それは永倉が今日まで隔離されていた部屋を思い出させた。

それでも奥行きはあるらしく、数メートル先のベンチにこちらに背を向けている人影が見て取れる。

『先客が居たか』

永倉が近づいて行くと緩やかに紫煙をくねらせていた人物はこちらに気づいたらしく、立ち上がり振り向く、

先客はエルフの男で、永倉から見て女性と見紛う程の美形であったが、身長は高く190センチは優にあると思われた。

おそらくは男性エルフの平均身長だろうが、色素の薄い金髪碧眼、ギリシャ神話の神々をモティーフにしたカメオの彫刻のように整った目鼻立ちが人工的な美を感じさせた。間近で見ると芸術作品のように均整の取れた体躯がより人間ではない別の種族であると実感させられる。

男が先程まで吸っていたであろうタバコは既に、片手にあると携帯灰皿のようなものに収められている。

エルフがどのようなタバコを常用しているのか興味はあったが、残念ながら確かめるチャンスは失われたらしい。

『すまない、邪魔する気はなかった。少し一服させてもらってもいいかい』

言葉は通じないであろうが、永倉は手に持ったタバコとジッポライターを相手によく見えるように掲げて近づく。

場所柄を考えるに、彼はリサリーと同じ捜査官の可能性が高いが、エルフの男は先ず首の拘束具を確認し、そして永倉の顔を一瞥すると無言で先程まで座っていたベンチを譲るように数歩下がった。

永倉は出来るだけ刺激しないようにゆっくりと腰を下ろし手に持ったタバコに火をつける。

久しぶりに吸うタバコは随分と苦く感じたが、この世界の複製品のせいではないだろう、そのまましばし紫煙を吐き出しているとエルフの男の視線を感じる。

彼は永倉を見張っている訳ではなくどうやらタバコの方に興味がある様子だった。

リサリーに連れられて歩き回っていたときはすれ違うエルフは永倉に奇異の視線を向けても近づいて来る者はいなかったが、彼はかなりの好奇心をタバコに対して持っているようだった。

試しに永倉は一本のタバコを彼に差し出してみた。

するとエルフの男はタバコを受け取り、代わりに懐から取り出したシガーケースからタバコを一本、永倉に差し出した。

『こんな形で異世界文化交流がなされるとはな』

ベンチの前にある丸テーブルは中央が皿のようにくぼんでいて、きめ細かい砂が敷き詰められている、どうやらこれが灰皿のようだが、先客のエルフは携帯灰皿を使用していた。

永倉が戸惑っていると、彼は永倉のタバコと灰皿を交互に指差して見せた。

永倉は銜えていたタバコを灰皿に入れ、エルフと交換した異世界のタバコに火をつけてみた、その永倉の前ではエルフの男も同じように交換したタバコを銜えている。

彼は大きく息を吸い鼻から紫煙を吐き出す外見に見合わないおっさん臭いしぐさをみせるが、どれほどその味を理解しているのか表情からは判別できない。

一方で永倉は浅く息を吸い、先ずは舌の上で味を確かめるように恐る恐る吸ってみる。

しかし永倉には全く味を感じることはできなかった、霞を吸ってるようなものだった。

エルフは人間より遥かに長生きらしいから害が蓄積するようなタバコを嗜むことはないのかもしれないが、それにしては目の前のエルフは永倉のタバコを当たり前のように吸っている。

『ひょっとするとかなりのヘビースモーカーなのかもしれないな』

感慨深く永倉が思っているとリサリーとロゼが連れ立って現れた。

『ヴォルフォス上級捜査官』

エルフの男性を確認したリサリーとロゼは揃って左胸に右手の掌を当てるようなしぐさをする、永倉はおそらくそれがこの世界の警官の敬礼であると考る。

当のヴォルフォスと呼ばれた捜査官は小さく頷いただけで声すら発しない。

それでもリサリーとロゼは気にしたそぶりもなく永倉に向き直る

『永倉、来てくれ君を召還した容疑者に面会してもらう』

「こいつが召喚された知的生命体なのだろう。言葉を理解しているのか」

それまでまるで他者を無視しているようだったヴォルフォスがはじめて声を発した

『拘束具の機能を利用して、翻訳術式を使用しています。私とロゼに限定していますが、意思疎通は出来ています』

「…ほう」とヴォルフォスは永倉を一瞥すると「せいぜい足元をすくわれないようにな」と誰いうとなく呟きその場を立ち去る

『彼は、君たちの上司なのかい?』

エルフの捜査官が何と言っていたの解らずとも、永倉は幾ばくかの警戒心を抱いたことを自覚しながら2人に訪ねてみた

『同じ禁呪課ではあるが、ヴォルフォス上級捜査官は洗脳術式捜査係の長だ、私たちの直接の上司ではない、彼と私たちの共通の上司にキース主任がいるが、君の処遇に関して私に全権を与えてくれた理解ある人物だ。いずれ合わせる機会があればいいのだが、知己になっていて損のない人物だ。』

そう云いつつも、あまり近づいてこないリサリーの様子に永倉は自分がまだタバコをてにしたままであることに気付き、慌てて灰皿に押し付ける

移動しつつ連邦捜査局について少しだけ話を訊くと組織自体は永倉にも理解しやすい縦割り構造だった。

捜査局内には幾つかの部門がありリサリーが所属するのは術式犯罪捜査部内の禁呪捜査課。

禁呪課はそれぞれ「召喚術式捜査係」「洗脳術式捜査係」「蘇生術式捜査係」3係に分かれており、召喚係は係長の下に4班に分かれてリサリーは第4班の班長らしい

『第4班は州警察の警官だったリサリー捜査官がキース主任に引き抜かれ新設された班です、通常では考えられない抜擢です。』

『とは言え、私の部下は自律人形のみの遊撃部隊扱いだがな』

ロゼの説明に照れ隠しのようにリサリーは付け足すが、彼女が自律人形に対して負の感情を抱いていないのは付き合いの浅い永倉にも理解できることだった。

『ヴォルフォス上級捜査官は係ごとに情報が共有されていなかった為に、術式犯罪組織の動きを追い切れていないことを指摘して、

各課の自律人形の記憶情報の共有化を提唱し捜査の効率化に貢献した有能な捜査官だ。

私自身連邦捜査局に配属されて間もない新人であり、私の部下は自律人形ばかりだから情報の共有化には随分と助けられたものだった。』

リサリーはヴォルフォスの事を随分と高く評価しているようだが相棒のロゼの方は印象がやや異なるようで

『ヴォルフォス上級捜査官は100年近く捜査局に務めいますが、自律人形の情報共有を進めだしたのは5年ほど前、リサリー捜査官が配属されたころとほぼ同時期です。

彼の人物が有能なことは認めますが、エルフ至上主義者であり、他種族全てを見下しています。能力至上主義者のキース主任がまだましですね』

と辛らつなことを言っている。

『自律人形のロゼは連邦捜査局ではかなりの古株なんだ、うわさによるとキース主任より年上らしい』

こっそりとリサリーが永倉に教える、ほくそ笑む様な彼女の表情を見ながらロゼは随分と過保護らしいと永倉は思った。

 



 

 

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