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帰ってきたアリス その4

不思議の国のアリスの主人公は純粋で素直で好奇心が旺盛で可愛いですよね。それがどうしてこの話ではこんなにふてぶてしいアリスになっちゃったんでしょうか?

賑わう街中。うんざりするほどの人波。歩くのさえ困難で、早くもこんな所に来た事を後悔した。



「おい、アリス! そんなつまらなそうな顔してどうしたんだ?」



「レノ、抱きつくな。ただでさえ歩きにくいのにいっそう歩きにくい」



べったりと腕に抱きつく相手をうっとうしげに見ると案の定相手はすぐにふてくされたような顔をする。



「これぐらいいいだろう。ケチケチすんなって。それにどうせ……誰も見てねえよ」



「お前の目は節穴か? さっきから何人もこっちをちらちらと見てきてるだろう」



「何だ? 照れてるのか? アリスは可愛いな」



「黙れ。殴られたくなきゃ、さっさと離れろ」




腕からレノを無理やり引き剥がし、わざとため息を大きくつく。



「だいたい、お前が外に出かけたいなんて言うからこんな事に……」



「いいじゃねえか! 多少無理にでも連れ出さねえとアリスなんて俺と一緒に出かけてくれねえだろう」



「お前と出かけるとやたら疲れるからな」



「なっ!? いくら何でも酷いだろう!!」



「本当の事だ」



人前であるにも関わらずやたらとくっつくし、かと思えば少し目を離しただけで消えるし、気づいたらいらない物まで大量に買わされているし、とにかくレノと出かけるといい事が何もない。



そんなんだったら最初から一人で買い物に来た方が楽だ。




今日だってレノと一緒に出かける気など全くなかったが、何時間もすねられ、仕方なく出てきたんだ。



本当に仕方なくだ。



「もう、十分だろう? さっさと帰るぞ」



「まだ来たばかりだろう!」



「もう30分もいるだろう」



「たった30分だ!」



レノはそう言ってこちらを睨みつける。もっともそんなもの睨んでいるうちにもはいらないようなものなのだが。



「あ、こら! 帰んな!」



「もう十分だろう?」



「全然十分じゃねえよ!」



「うるさい! 耳元で騒ぐな!」



子供みたいにギャーギャー騒ぎ立てるレノを鬱陶しげに見れば、僅かに顔を歪ませる。





「アリス! お前は付き合いわるすぎだ! 恋人が一緒に出かけたいって言ってるんだぞ? 普通、そこは泣いて喜ぶところだろうが!?」



ありえない。前々から思っていたがレノの普通の基準が俺にはわからない。この前といい、レノの普通は明らかに可笑しい。



「もっと手とか繋いでキャーキャー言えよ!」



誰が言うか。お前のその頭が痛すぎるんだ。



「全く、アリスは可愛げがねえぞ!」



「もとからだ」



「そんな事ねえよ! 会った当初はもう少し可愛いげがあった!」



本当に……うるさい。



どうやってこの口を黙らせてやろうかぼんやりと考える。その間もレノはまだ騒いでいる。




本当によくこんだけ騒いで疲れないな。



「レノ、こうゆうのはどうだ?」



「何だ……?」



「とりあえずもう家に帰る。それで……」



「却下! まだ遊びたりない!」



話は最後まで聞け。人の話の途中でしゃべるな。



殴り飛ばしたくなったが人前だという事を思い出し、我慢する。



「いいから帰るんだ」



「やだ!」



「うるさい! 帰るって言ってるだろう! そのかわりに帰ったらお前を甘やかしてやる!」



その言葉にレノが目を丸くし、黙り込む。



頑なに帰らないと言い張っていたレノの目が僅かに揺らいだ。



「そ、そんな見え透いた嘘をそう簡単に俺が信じると思ってんのか?」





「信じられないなら、いい。今のは、なしだ」



「ま、待てよ! その、甘やかすって……例えばどれぐらい?」



「普段しないくらい」



適当に答えたのだが、これはなかなか効果的だったようだ。レノは明らかに迷い始めた。



甘やかす気などさらさら無いが、ここで上手く言いくるめて早く家に帰りたい。



抱きつかれるにしても、人目のない家でなら許してやってもいい。



「本当に……普段しないぐらい甘やかすのか?」



「ああ」



「じゃあ、仕方ねえな」



そう言いつつ、全く仕方なくなさそうにレノは俺の腕に抱きつく。



だから、人前ではそうゆうのやめろって言ってるだろうが。




睨めば、レノはうーとかえーとか言いながらも渋々腕を放した。



人波を逆流し、来た道を引き返す。



気のせいか、さっきよりも人が増えた気がする。



心配になって振り向けば、案の定レノは少し離れたところを歩いていた。



あいつはいったい何をしているんだ。



「おい、レノ……」



早く来いと言いかけたその時、突然横から腕をつかまれた。



「えっ?」



そのまま凄まじい力で引かれ、強制的に連れて行かれる。人が多すぎて、腕をつかんでいる相手がどんな奴か全く見えない。



ただ、自分の腕をつかむ、やたらと白い手だけが見える。




まともな抵抗さえできずに引っ張られるままについて行くとやがて人波から抜け出し、人通りの全然ない場所へと連れてこられた。



ようやく腕を放され、自分の腕をつかんでいた相手を見る。



「なっ……」



何だ……こいつ?



赤、いや赤紫色の髪にすらりとした体格。首には首輪がつけられ、ご丁寧にそこには鈴がつけられている。着ている服もなかなか変わっていて、到底自分には理解できるものではない。



変な奴。それが真っ先に抱いた印象だ。



自分より年下と思われる青年は先ほどから自分の顔を見ては気持ち悪いほどににこにこと笑っている。



こいつ、誰だ?



はっきり言ってこんな変な知り合いはいない。




見たこともない。それでも相手はまるで遠くにいた親友に会えたぐらい嬉しそうな顔をして、笑っている。



「こんな所まで連れきて俺に何の用だ? 人違いならさっさと謝ってくれ、早く連れを探しに行かないと行けないんだ」



そう言って青年を睨みつける。たいていはそれだけで相手は怯えるのだが青年はそれでも笑顔を崩さない。



にこにこと鬱陶しい。変な奴に捕まってしまった。小さく舌打ちをすると相手がようやく口を開いた。



「人違いなんかじゃないよ。君はアリスでしょう? ほら、間違いじゃない」



金色の瞳が静かにこちらを見つめる。その目が猫によく似ている。



「クロイド」



「うん?」






「アリス・クロイドそれが俺の名前だ」



青年は一瞬きょとんとしてからああと頷く。



「帽子屋さんがそうつけたんだね。全く、帽子屋さんには困った者だよ。みんなのアリスを自分のものにしようとするなんて」




帽子屋? ふと聞いたことあるそれに反応する。確か……誰かがそう言っていたな……



『ここはいかれた帽子屋の、つまり俺の領土だ』



思い出されたその言葉にはっとする。



「レノの事か?」



「レノ?」



青年はわざとらしく首を傾げる。苛立たしげにその顔を睨むと青年はああと笑いながら頷いた。



「そっか、そっか。帽子屋さんの名前って確かそんなんだったね。ごめん、ごめん。僕らは名前なんか気にしないから、そうゆうのあんまり覚えていないんだ」



言ってる事はよくわからないが、いちよこの青年はレノの知り合いのようだ。



「お前……レノの知り合いなのか?」



「う~ん、そうであってそうでない感じかな?」



曖昧な答え方にいらいらする。



いったい何だと言うんだ。レノの知り合いなら俺ではなく、レノまえてくるべきだろう。



「これだから出かけるの嫌なんだ」



ろくな事にならない。



そんな事を考えていたら、無意識に目がきつくなっていたのだろう。青年は僅かに首をすくめる。



「そんな怖い顔しないでよ、アリス」




「別に。もとから俺は目つきが悪いんだ。わざとじゃない」




青年はそれに声を出して笑う。その顔が余計にむかついた。

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