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帰ってきたアリス その3

基本的話はアリス×帽子屋です。そのうち色んなキャラが出てきますが基本はこれです。



帽子屋が異常なほど乙女ですがそれは笑って、許して下さい。

カチャカチと音をたてる食器。黙々と口に運ぶ、朝食。



「なあ、アリス~? 聞いてんのか?」



聞いてない。



小さなテーブルに向き合うように腰かけ、レノと食事をとる。



寝起きの頃とは違い、今はちゃんと髪を整え、しわ一つない黒い服をレノは着ている。



もちろん、それは自分が用意したもので、髪のセットもやってやった。



言わずともわかるがレノはずぼらな性格だ。一からやってやらなければ、全く身だしなみなど気にもしない。



何も返さなければ、それが不満だったのかレノが頬をふくらませ、拗ねる。



「何だよ……無視しなくてもいいだろう」




完全にふてくされたレノは目玉焼きをわり、ぐちゃぐちゃときみをくずす。



全く、いい大人がすぐ子供みたいにいじけた態度をとる。



いや、どうやら子供じみているのは態度だけではないようだ。



胸ポケットから今朝アイロンをかけたばかりのハンカチを取り出し、レノの口元に押し付け、ごしごしとわざと乱暴にふく。



「いっ……、いてっ!? アリス!?」



「動くな、ふきにくい」



そう言ってもレノはじたばたともがき、なかなか上手くふけない。



しばらく格闘した後、ようやく口のはしについていたソースをハンカチでぬぐいさる事ができた。



全く、年上のくせに本当に世話がやける。




しかもせっかくふいてやったのに、その顔は実に不服そうだ。



「何だよ」



「普通は……」



「あ?」



「普通は……ついてるよとか言って、なめとってくれるもんだろう! 何でハンカチでふくんだよ!?」



こいつは……



本当に……ばかだ。



「俺はそうやってもらいたかった!」



やってほしかっただと?



誰がやるか!



どう考えてもそれは普通じゃないし、逆に今どきそんな事してる奴らなんか誰もいない。



って言うかどこでそんな事覚えてきたんだよ。言われたこっちの方が恥ずかしいだろうが!



「アリス、聞いてんのか!?」




聞いていないし、見てもいない。そんなばかみたいな事誰がやるか。



「アリス……何か最近、俺に冷たくないか?」



「これだけお前の戯言につきやってやってるのにどこが優しくないんだ?」



「どこって、全部! もっと俺を甘やかしたっていいだろう!」



「お前、自分で何恥ずかしい事言ってるんだ……」



呆れてもう何も言えない。こちらが黙り込んでもこりずに相手はまだ何か言ってくる。



「だいたい、アリスはいっつも不機嫌そうな顔してて…」



不機嫌そうな顔は生まれつきだ。目つきが悪くて悪かったな。



「俺の話、全然聞いないし」




お前の話を聞いてると頭が痛くなってくるんだよ。



「一緒にいるのに全然嬉しそうじゃないし……」




徐々にレノの声が弱々しくなる。全く、本当に面倒くさい奴だ。



「なあ、アリスは……俺と一緒にいても……楽しくないのか?」



そんな顔をして、縋るように俺を見るな。



冷たいように見える態度も、言動もわざとではない。



もとよりどこか冷めた性格なのだ。



問いかけに答えず、朝食を食べかけの状態で立ち上がる。



「アリス?」



どこか不安そうな顔でレノがこちらを見てくる。



「新聞……取ってくる」




ぶっきらぼうにそう答えるとレノがうんと、どこか暗い顔をして頷く。



だからそんな顔をするな。



「レノ」



部屋から出る前に呼びかける。するとレノはすぐにこちらを見る。



「言っておくけどな。一緒にいて嫌な奴と誰が同居なんかするんだ?」




途端に今にも泣きそうだったレノの表情がぱっと明るくなる。全く、本当に単純な奴だ。



呆れつつ新聞をとるため、廊下に出て玄関に向かう。



玄関の扉の取っ手に手をかけ、僅かに開けたその時、突然腕を引かれた。



振り返ればそこには満面の笑みを浮かべたレノが立っている。



嫌な予感がした。




そしてそのとおり、レノはそのまま勢いよく、抱きついてきた。



「……っ!?」




いくら細身とは言え大の大人に突然抱きつかれてはその体を支えきれず、そのまま後ろに倒れ込む。



同時に扉が全開に開いた。



最悪だ。そのままレノに抱きつかれた姿勢で外に倒れ、体を床にまともにたたきつける。




痛みに顔をしかめつつ、顔を上げれば自分の上に未だに抱きついたまま倒れ込むレノと目があう。その顔が妙に嬉しそうで余計に腹立たしい。



「お前なあ! 何考えて……」




怒鳴りつけてやろうとしたその時、がちゃりと音がした。



慌てて音の方を見ればそこにはお隣のメイベルさんが新聞を片手にこちらを見ている。



おそらくメイベルさんも新聞を取りに外に出てきたんだろう。




倒れこむ自分達を見て、驚きに固まるメイベルさん。



ひょっとして……これはまずい状況なのでは?



「レノ! さっさと起きろ! どけ!」


「何だよ! そんなに怒鳴ることないだろう!?」



「いいから早くどけ!」



ちらりと確認すれば何かをさとったようにメイベルさんが笑う。



「お幸せに……」



がちゃりと閉まる扉の音。残された自分はどうする事もできずに、顔を青ざめる。




「アリス? どうした?」



急に大人しくなって不思議に思ったのかレノが顔を覗きこんでくる。



「どうした? アリス?」



悪気のない無邪気な笑顔。



「アリス?」



「この……」



「うん?」



「この、大バカやろー!!」



思いっきりその頭を叩いてやれば、レノがいたっと声を上げ、頭を抑える。



「何すんだよ!?」



「何するんだだと!? こっちが言いたい! 人前でお前という奴は何してくれてんだ!?」



「あ、あのお隣さんか? 大丈夫、あの人はとっくの前に俺達の関係に気づいて……」



「そのどこが大丈夫なんだ!? ああ!? そのどこが!?」




その笑顔がやたらと腹立だしく、レノの肩をつかむと激しく揺すってやる。



がくがくとわざと大きく揺すれば、レノが悲鳴を上げる。



「ア、アリス!? ちょ、ちょっと……落ちついて……」




「うるさい! どうするんだ!? 明日からご近所にどんな顔して会えばいいんだ!? この大バカ!」



レノが力無く笑い、そっと自分の腕をつかむ。



若干顔色が悪いが、いい気味だ。



「あのな、アリス……」



「何だ……」



レノがやや困ったような顔をして、言いにくそうに口を開く。



「実は……もう結構有名なんだ」



「何がだ?」



「何がって……俺達のこと」




その一言に固まる。



有名って……どういう事だ!? 今まで一度だって外でそれらしい態度をとらなかったはずだ。それがいったい何で……



「何で?」



「えっと……その、言っちゃった」



はあ? 今、何て言った?



「その……ついつい自慢したくなって、アリスのこと言っちゃった」



笑顔でそう言って、レノは照れる。



「うん、やっぱりな、恋人がかっこいいと自慢したくなっちゃんだよな。アリスは俺のだって言いたくなっちゃんだよな。大丈夫、大丈夫、近所の人にしか言ってないから安心して……って、あれ? アリス? 大丈夫か?」




大丈夫な訳あるか。大バカやろー!!



「あ、ちょっと!? アリス! く、首しめるなって!? 俺、し、死ぬ、死んじゃうから……や、めて……」



誰が止めるか!! そのまま死んでしまえ!



必死に抵抗するレノに構わず、無理やりつかみ上げるとそのまま家の中へと放り込んだ。

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