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チェシャ猫との取引 その3

久しぶりの更新になりました。あまりの放置ぶりにもう笑うしかないですね。

「ここが客間だ」



広い廊下をしばらく歩いてからようやく客間にたどり着いた。



相変わらず俺の両隣ではバカ二人が騒いでいるが、もう気にしない事にした。



無視だ。無視。



こんな奴らしるか。



客間は予想通りと言うか、さすがと言うか、やはり豪華な部屋だ。



侯爵という地位はやはりだてではない。



ふかふかの椅子に俺達が座ったと同時に可愛いメイド達が入ってきて、お茶の準備をしだす。



あっという間にテーブルには紅茶の入ったティーポットとティーカップ、そして皿いっぱいの茶菓子が並べられた。



「帽子屋は確かストレート派だったね。アリスは砂糖をいれるかい?」




「いや、俺もいいです」



「へえ? アリスは砂糖入れないんだ。コーヒーとかも入れなかったりする?」



「ああ」



「甘いの苦手?」



「苦手って程じゃないが、甘すぎるのはあと味が残って不愉快だ」



「えぇ~、僕は甘いの好きだけどな」



「だろうな」



そのふざけた顔を見てればなんとなくわかる。



そう思っていると隣にいたレノが俺の服の裾をつかみ、軽くひく。



「アリス! そんなバカ猫の質問にいちいち答えるな! バカがうつるだろう!」



「バカ猫だなんて酷いよ。帽子屋さんの意地悪。アリス、こんなふうに帽子屋さんにいじめられる僕がかわいそうでしょう?」




「アリスがお前なんかをかわいそうに思うかよ!」



「思うよ。アリスは僕の事が好きだからね」



「ふざけるな! アリスが好きなのは俺なんだよ!」



「え~、本当かな?」



「そうだよな、アリス!」



二人の視線がいっせいに向けられる。



が、俺はその視線を軽く無視した。



「どうして俺をお茶に招いてくれたんですか?」



未だに何か言ってるレノ達を無視して、侯爵にそう尋ねる。



侯爵は少し困ったように笑うが、すぐに質問に答えてくれた。



「特に理由はないんだ。ただ、新しいアリスがどんな子か見ておきたくてね。ゲームが本格的に始まってしまったら、こうしてゆっくりとお茶を飲む機会もないだろうから」



つまり死ぬ前に一度顔を見ておこうと言う訳か。



俺のその考えをよみとったのかチェシャ猫がすぐに付け足す。



「アリスを心配してるんだよ。旦那様は殺し合いが好きじゃないんだ」



チェシャ猫が笑いながら、砂糖を紅茶の中にどんどん入れていく。



待て、その量はいったい何だ?



恐ろしい程の砂糖の量。



それを平気な顔して入れるとチェシャ猫はスプーンで無理やりかき混ぜる。



が、当然ながら砂糖は完全に溶けきれず、紅茶の底にどんどん沈んでいってる。




混ぜる度に底にたまった砂糖にスプーンがあたり、じゃりじゃりと音がする。



チェシャ猫はそんな事一切気にせず、完全に混ざりきらない紅茶をそのままにスプーンを置き、カップを持ち上げる。



おい、まさかそれを飲むのか?



その状態のまま飲むのか?



有り得ないが有り得ないことをするのがこいつだ。



チェシャ猫は何の躊躇いもなく、そのまま紅茶を口に運んだ。



「う゛……」



「うん? どうしたの、アリス?」



「いや……」



あの量の砂糖が入った紅茶を何の躊躇いもなく飲むとか……甘いどころじゃないだろう。



見てるだけで気持ち悪い。



「アリス? 大丈夫かい?」




顔色を悪くした俺に侯爵までもが心配して声をかけてくる。



それに俺が答える前にチェシャ猫が答える。



「大丈夫だよね。アリスが変なのはいつもの事だし」



「どういう意味だ?」



俺がいつ、変になった?



と言うかお前らに比べればずっとましだろう?



「アリス。そんな怖い顔で僕を睨まないでよ。僕、怖くて泣いちゃう」



お前が泣くだと?



それこそありえない。



「うるせえぞ! 猫は黙ってろ! アリス…大丈夫か?」



「うわー、帽子屋さんのいじわる。そんなあからさまに態度変えるとか性格悪いよ」



「うるせえな! 黙ってろ! 撃つぞ! 今すぐ撃ち殺すぞ!」




懐から銃を取り出そとしたレノの手をつかみ、無理やり止める。



いくら知り合いとは言え、客として招かれた以上、銃を取り出すのはさすがに悪い気がした。



「な、何で止めるんだよ……」



「お茶を飲んでる横で銃を出されたら誰だっていい気しないだろう」



「別にアリスに向ける訳じゃ……」



「それでも駄目だ。レノ、銃をしまえ」



そう言って軽く睨むとレノは僅かにしゅんとし、大人しく銃から手をはなした。



その様子を見て、侯爵は何を思ったのかくすりと笑う。



「帽子屋でもアリスの言う事はちゃんと聞くんだね」



「何か文句あんのか?」



「いや、微笑ましい事だと思ってね」




「お前……」



「レノ」



さすがに侯爵に銃を向けさせる訳にはいかない。



何かする前に軽く睨めば、レノは軽く舌打ちして、むくれた様子でお茶を飲みほす。



やっと静かになった。



ようやくお茶を楽しむ余裕が出てきた頃、おもむろに侯爵が口を開いた。



「実はね、アリス。もう1人、君に会って欲しい人がいるんだ」



侯爵のその一言にチェシャ猫がぴくりと反応する。



「もう1人って……」



チェシャ猫の言葉に侯爵が困ったように笑う。



その顔をチェシャ猫は静かに見返す。



「そっか、うん、いいんじゃないかな」




まあ、もちろんアリスしだいだけど。



そう言ってチェシャ猫は俺の方を見る。



気のせいか、その顔がいつもより若干ひきつって見えた。



他に会わせたい人?



思い当たる人物は1人しかいない。



「もしかして、侯爵夫人か?」




レノがそう言うと侯爵が頷く。



「侯爵夫人に会ってくれるかい、アリス?」



侯爵が微笑む。



その顔を見るかぎり特に何かある訳でもなさそうだ。



断る理由はない。



黙って頷けば、隣にいたレノが僅かに厳しい表情をした。

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