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憂鬱な日々の始まり その4

なかなか区切れなくていつもより1ページ多いです。


長いとかは言わずに、読んで下さいね。

「俺がイカレてたらどうなんだ?」



それで何かお前に支障でもあるのか?



俺がイカレていようとどうなっていようとお前に責められるいわれはない。



「もちろん、アリスがイカレてても僕は全然構わないよ。この国にやってきたアリスのほとんどは最後にはみんな狂ってしまうんだ。だから最初っから狂ってたって全然構わないよ」



チェシャ猫が笑う。



「ずっと不思議に思っていたんだよね。何で君だけ帽子屋さんの狂愛を受け入れられたのかって。そっか、君も狂っていたんだね。僕らと同類だ。やっぱりもっと仲良くしよう、ね?」



何がねっだ。ふざけるな。誰がお前みたいな奴と仲良くするか。



それとさっきからイカレてるだの狂ってるだの連呼するな!



俺の気分が滅入る!



「帽子屋さんを受け入れたのは無難な選択だね。もし拒否してたら今頃殺されてたよ」



「はあ?」



レノに俺が殺されてた?



待て、どういう事だ?



そんな事聞いてないぞ?



「何、驚いてるのさ。当たり前でしょう? 帽子屋さんは狂ってるんだ。彼は既に自分を拒んだアリスを2人殺してるよ?」



「レノが?」



レノが殺した? あのレノが人を殺した?



少し考えて、ため息をつく。



俺は何を焦っているんだ?




始終、銃を持ち歩いてる男だぞ?



今さら誰か1人や2人、殺していたとしても不思議じゃない。



たいした事じゃない。どうせ他人だ。たいした事なんかじゃない。



チェシャ猫がふと俺に近づき、俺の顔を覗き込んでくる。



「何だよ?」



「うん、やっぱり君は面白いね。スッゴく不思議」



「そうか。どうでもいいからどけ。鬱陶しい」



どけと言っているのにチェシャ猫は全く動かない。



こいつ……どく気ないな。



「おい、邪魔だ……」



「ねえ、アリス。僕を抱いてみない?」



あまりの唐突な一言に体が固まった。



ああ、今幻聴が聞こえたな。絶対に幻聴だったな。間違えなく幻聴だったな。



俺も幻聴を聞くとはついに年か?



いや、まだ若いぞ? こう見えても俺はまだ19だ。



まだまだ元気だと健康体だとつい最近まで思っていたが、どうやらそれを改める必要がありそうだな。



今度、真面目に医者に行こう。



「ねえ、アリス、聞いてる?」



「聞いてない! さっさと離れろ!」



「え~、駄目」



チェシャ猫の手が伸びる。



あっと思った時には遅く、情けない事に為す術もなく、床に押し倒される。



「……っ!?」



当然のように俺の上に乗るチェシャ猫。



おいおい、冗談じゃないぞ?



チェシャ猫の白い手が俺のワイシャツのボタンを外し始める。




「お、おい! 何する気だ!」



「何って見てわからない? ここまできたらやることは一つでしょう?」



チェシャ猫がにっこりと笑う。



ヤバい。真面目にヤバいぞ?



こいつは……本気だ……



「ふざけるな! 何でお前とそういう事をしなきゃいけないんだ!?」



「何でって、僕はもっとアリスの事知りたいし」



相手の事が知りたいからっていきなりこういう事に持ち込む奴がいるか!?



普通、ちげーだろう!?



これはお互いを知り合ってから最後にするもんだろう!?



チェシャ猫の腕を捕まえ、必死にボタンを外す手を止める。



「いいじゃん、初めてじゃないんだし」




「ふざけるな。俺は年上好きなんだ……若い奴より少し年のいった綺麗なのが好みなんだよ」



「なるほど。だから、帽子屋さんね。納得。でもさ、試してみたら意外と若いのもいいかもよ?」



「よくない。俺はレノ意外抱かない。だいち、こんな所をレノに見られたらどうするんだよ」



確実に2人とも殺される。



「あははは、アリスにいい事教えてあげるよ」



チェシャ猫がそっと自分の胸を俺の顔に押し付ける。



「……っ!? 何するんだ!?」



もはやレノに見つかったら殺されるどころの騒ぎじゃない。



跡形もなく消される……



「離れろ!」




「ねえ、アリス。本当はわかってるんでしょう? 毎日こうやって、帽子屋さんを抱いてるなら嫌でもわかるよね?」



ふざけるな!



いくら俺だって毎日抱いてる訳がないだろう?



だいたい、そうゆうのはたいていの場合俺じゃなくて、レノから誘ってくる訳で……



だいたいさっきからわかる、わかるって何の事だ?



チェシャ猫が笑いながら胸を押しつけてくる。



「まだわからない? しょうがないな。ほらよく胸に耳を押しつけて、僕と帽子屋さんになくてアリスにあるものなんだ?」



俺にあって、レノとチェシャ猫にないもの?



しばらく考えて、ようやくチェシャ猫の言いたい事がわかった。




ああ、なるほど。



そういう事か。



「鼓動の音がしない」



俺の答えにチェシャ猫がにっこりと笑う。



「正解」



チェシャ猫の薄っぺらい胸から、本来するはずの鼓動の音が全く聞こえない。



「やっぱり、すぐにわかるんだ」



当たり前だ。レノと何年一緒にいると思っているんだ?



初めてそれに気づいたのはレノを抱きしめた時だった。



やや体温の低い体をゆっくりと抱きしめ、その細くて、華奢な体に触れた。



可笑しいとは思いつつも、俺はその事に触れなかった。



レノも何も言わなかった。



それだけだ。たったそれだけの事だ。



「これもアリスが名前といっしょに僕らにくれたものでね。僕らは年をとらないし、死なない、言わば不老不死の存在なんだよ」



不老不死だと?



アリスから名前をもらった住人達全員が不老不死だとこいつは言いたいのか?



「……」



「……アリス、その顔。絶対に信じてないでしょう?」



「まあな……」



はっきり言って嘘臭い。



だいち、チェシャ猫が言っている時点でもはや信じられるものじゃない。



「有り得ないとは言いきらないが……いきなりそう言われて信じられるほど俺は人を信用していない」



特に変な服を着て、人を押し倒して、平気で誘うような男を俺は絶対に信用したりはしない。




チェシャ猫は相変わらずの笑顔で俺の言葉に頷く。



「そうだね。アリスの言うとおり、何事も自分の目で見なきゃ信じられないよね」



チェシャ猫がゆっくりと自らの腕を差し出す。



そこにはぐるぐると包帯が巻かれていた。



「……なんだ?」



「これ、君が白ウサギに会った時に帽子屋さんに撃たれたんだ」



撃たれただと!?



いつかやると思っていたが、あのバカ、本気で撃ったのか!?



そう言われればあの時チェシャ猫の服に血がついていた気もする。



「あれ、結構痛かったんだよね」



何が痛かっただ。撃たれたんだから痛くて当たり前だろう?



何でこいつはこんなにも呑気にしてるんだ?





「でも、よく見てね、アリス」



チェシャ猫が包帯をとる。



怪我したはずの腕があらわになる。



「……ない」



「そう、ないんだ」



傷がない……。



いや、よくよく見れば小さな傷後が見える。



しかしそんなもの一見見ただけでは気づかないし、昨日撃たれたとしたら1日やそこらでここまで治るとは考えにくい。



どうなってんだ?



「不思議?」



「ああ、不思議だ」



本当に不思議だ。



「僕らは死なないから大抵の傷は勝手に治っちゃうんだ」




「大抵の傷って……何もしなくても治るものなのか?」




「うん。だから僕らは平気で相手と撃ち合ったりするんだ。どうせ死なないからね」



おいおい、冗談だろう?



「じゃあ、何か? お前らは心臓を刺されても死なないって事か?」



「そうだよ。僕らは絶対に死なない。万が一、致命傷を負ったとしても僕らは眠るだけ、死にはしない」



眠るだと?



「眠るって、普通に眠るだけなのか?」



「そうだよ。普通に眠るだけ。致命傷を負っても僕らは眠りにつくだけで死にはしない。個人差はあるけど眠りについた住人は大抵2、3年眠れば目を覚ます。まあ、眠りから覚めるタイミングは人それぞれだけどね」



人それぞれって……お前、何を呑気に……



チェシャ猫の傷をもう一度見る。



すっかり治った傷。確かにそう言われれば理屈はとおる。



「まだ信じられない? 帽子屋さんだって怪我してもすぐに治ってたでしょう? 少しは可笑しいなとか思わなかった?」



「バカは治りが早いのかと思って……」



「……それ本気で言ってるの? だとしたら僕、帽子屋さんに同情しちゃうよ?」



チェシャ猫が珍しく笑みをひきつらせる。



まあ、本当にそう思っていた訳ではないが、そんなものかぐらいに考えていた。



「ねえ、アリス。信じてくれた?」




まあ、ここまで言われたら信じるしかないだろう。



チェシャ猫に言いくるめられたかと思うとしゃくだが、信じない訳にはいかない。



「わかった、信じてやる。お前らは不死身だ。これでいいか?」



チェシャ猫が笑う。



何故だかもの凄く嫌な予感がした。

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