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第一章 憂鬱な日々の始まり その1

第一章スタート!


まだまだ道のりは遠い……。何だかんだ言って、アリスとチェシャ猫はなかなか仲がよさそうです。

目覚めは規則通りにやってきた。



窓から入ってきた光りが頬にかかる。眩しいそれに目を細め、アリスはゆっくりと体をベッドから起こす。



「やってしまった……」



ちらりと横を見て、大きくため息をつく。



隣ですやすやと寝入るレノ。



そおっと手を伸ばし、綺麗な漆黒の髪を軽くすいてやる。



普段なら身じろぎぐらいはするんだが、今はぐっすりと寝入っているためか、全く反応しない。



昨日少し無理をしすぎたな……



甘やかすと言っておきながら、結局は俺がいい思いして終わったしな。



そう思うと若干罪悪感を感じる。



起きたら後でまたあーだ、こーだ騒ぎたてるのだろう。苦笑しつつ、レノの寝顔を見つめる。



それにしても本当によく寝てるな。



どうせ起きないだろうと思い、さっさとベッドから抜け出す。



そのさいに僅かにだが布団がずれ、レノの体があらわになった。



「……っ!?」



白い肌に昨夜自分がつけた、無数の赤い跡が視界にうつる。



途端にどうしようもない感情にかられ、かっと顔が熱くなる。



慌てて布団をかけなおして、それを隠す。



まずい……体温が上がってきた……



しばらくじっと耐え、体の熱が冷めるのを待つ。



そうゆう時に限って脳裏に昨夜の光景がよぎる。



落ち着け……落ち着くんだ……俺。





どうにか抑えこむと、立ち上がり、クローゼットから適当な服をとって、さっさと着替える。



俺とした事が……



あんなに簡単に誘いにのってしまうとは……



昨夜の事を思い出して、ため息をつく。



いや、俺は悪くない。誘ってきたのはあっちだからな。



あんな目で色っぽくやろうなんて言われた日には俺じゃなくたってああなった。



俺は悪くない。理性を吹き飛ばすような事をいちいちするレノがいけない。



「……ちっ」



言い訳するなんて、俺もまだまだ子供だな。



これじゃあ、下手にレノをバカにできないじゃないか。



レノが眠っているのをもう一度確かめてから、寝室を出る。




いつものように洗面台に向かい、顔を洗う。



ジャブジャブと数回洗った後、タオルをとり、顔をふく。



顔を上げれば鏡に自分の顔が写る。



気に入らない。



眼鏡をかけていないせいか若干若く見える。それが妙に気に入らない。



「年の差か……」



実はそれを気にしているのはレノだけじゃない。



むしろ俺の方が深刻だ。



これでもレノ以上に俺はそれを気にしてる。



少しでも大人びて見せようとそれ程視力も悪くないのに眼鏡をかけたり、感情的にならないように無駄に冷静を装ったりしている。




それをあの猫め……



『帽子屋さんとアリスじゃ年の差だいぶあるし』



嫌みなくらい眩しい笑顔でそう言ったチェシャ猫を思い出し、無意識に目つきがいつも以上に悪くなる。



あの野郎……人が気にしてる事をよくもずけずけと……



「だいたいチェシャ猫って何なんだ? どう見たって猫には見えないだろうが……」



「え~、そんな事ないと思うけどな?」



やたらと耳につく、やる気のない声。



幻聴か? 遂に苛立ちが限界にまできて幻聴が聞こえてきてるのか?



不意にぽんと肩を軽く叩かれる。



鏡に目に痛い赤紫が写る。



「アリス、おはよう~」




相変わらずの笑顔。



ああ、俺も遂にとち狂ったか……



「幻聴のうえに……幻覚まできたか……」



「あれ? アリス、何言ってるのさ? 僕だよ、僕。チェシャ猫だよ。昨日会ったでしょう? もう、アリスったらこんなに可愛い僕を忘れるなんて……」



自分で可愛い言うな。気持ち悪い。



いや、気にするところはそこじゃないな。



「何でお前がここにいるんだ!?」



慌てて振り返えり、その手を払いのける。



昨日の今日だ。



白ウサギのように明確な殺意を向けてきたりはしないが、いまいち信用できない。



案の定、信用できない答えを返してきた。




「何でって……アリスの事で僕が知らない事があるわけないでしょう」



きゃっと楽しそうに声を上げるチェシャ猫。



楽しそうでなによりだが、俺は楽しいどころかそれを見て、ますます気分が下がっていく。



俺の事で知らない事はないだと?



お前はどこのストーカーだ!



犯罪者か!?



「ああ……くっそ……」



頭が……痛い。



何で朝からこんな変な奴と関わらないといけないんだ?



「どうしたの、アリス? 元気ないよ?」



チェシャ猫がわざとらしく心配する。



「大丈夫?」



そう言いつつ、顔は笑ってる。



まずいな……



万が一レノがこいつを見たらまた弾丸の嵐だ。




何とかして、レノが起きる前に帰さないと……



「何しにきたんだ?」



「何しにきたって、そんな来て欲しくなかったみたいに言わないでよ」



来て欲しくなかったに決まってるだろう。



お前が来るだけでレノの機嫌が悪くなるんだからな。



とりあえず胸ポケットから眼鏡を取り出し、かける。



チェシャ猫がそれを見て、あっと言う。



「何だよ?」



「眼鏡ない方がかっこいいのに勿体無い」



何だそれは……



眼鏡があってないって言いたいのか?



誰にどう言われようと平気だが、こいつに言われると妙に頭にくる。



「眼鏡かけようがかけまいが俺の勝手だろう」




「う~ん、そうなんだけど、僕はない方が好みなんだよな」



そんな事知るか。お前の好みなんかどうでもいい。



「お前……それを言いにわざわざやって来たのか?」



「まさか。僕だってそれ程暇じゃないよ」



どう見ても暇そうにしか見えないんだが……



「それに用があるのは僕だけじゃないでしょう?」



「……どういう意味だ?」



「どうって、アリスだって僕に用があるはずだよ」



チェシャ猫が笑顔のまま僅かに顔を近づける。



そのまま耳元にチェシャ猫は唇を近づけ、そっと囁く。



「帽子屋さんから全て教えて貰ってないんでしょう?」



チェシャ猫の息が耳にかかる。



鬱陶しくて、チェシャ猫を睨みつけるとにんまりとした笑顔を返される。



「ねえ、アリス。真実を知りたくないの?」



くっそ……



悔しいがその通りだ。



俺はもっとよくゲームについて、アリスについて知りたい。



知りたいが、昨日のあの反応を見るかぎり、レノから話を聞くのは無理だろう。



となれば、後説明できそうなのはこの胡散臭さそうな猫をおいて他にいない。



「アリス、どうしたの?」



チェシャ猫がニヤニヤと笑う。



こいつ……わかってるな。



わかってるからこそここにやって来たという事か。



「用件は何だ?」



「うん? 何?」





わざとチェシャ猫は俺にわからないふりをして見せる。



本当にむかつく奴だ。



「俺に何かやって貰いたい事とかあるんだろう? お前の事だ。何の代償もなしに教えてくれるような親切な奴じゃない。そうだろう?」



「さっすが、アリス! 賢いね。話が早くて助かるよ」



何が賢いだ。そんな事、思ってもいないくせに。



「アリスの知りたい事は僕が何でも教えてあげる。そのかわりにね、僕の家に来て旦那様に会って欲しいんだ」



「旦那様?」



誰だ……?



いや、待て。旦那様と言う事はこんな奴でも誰かに仕えてるって事か?



「お前……どこかの使用人だったのか?」




「使用人? この僕が? まさか、そんな訳ないでしょう」



だよな。その格好で使用人だと言われても到底信じられない。



「僕はペットだよ」



なるほど……こいつはペットなのか……どおりで暇そうなはずだ……



うん? ペット?



ゆっくりとチェシャ猫の姿を見る。



服は奇抜だが顔は至って普通の青年である。



それをペットに?



こんな奴をペットにしている旦那様とか言う奴は大丈夫なのだろうか?



俺は思わず、会った事もない相手を本気で心配してしまった。

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