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帰ってきたアリス その12

序章長いよ! いい加減にしろよ!


そう言わずにもう少し付き合って下さい。今回は新キャラも登場です。

美しい。誰かがそれを見て確かそんな事を言っていた。



あれは誰だったのだろうか?



白ウサギは顔を上げ、目の前にそびえ立つ城をゆっくりと見た。



確かに綺麗という言葉はあながち外れていないな。



一流の職人達が必死になって作り上げたそれは正に芸術品。豪華かつ繊細で綺麗だ。



でも……



僕にとっては単なる牢獄にすぎない。



「……っ」



帽子屋に撃たれた腕がちょっぴり痛む。



見れば、思ったよりも出血がひどく、服の袖を真っ赤に汚していた。



後で洗わなきゃ……



せっかくの服が台無しだ。思わず、ため息が出る。



城の門をくぐり抜け、城の中へと入る。




本来ならいなければいけない門番の姿がどこにもない。



また、さぼりか。



まあ、いいや。どうせそこは僕の管轄じゃないし。



彼らがいないのは別に珍しい事じゃない。



それに門番がいなかったとしてもこの城に近ずく奴なんかそうそういない。



この城に入るのはよほどの変わり者か、嫌でもここに来なきゃいけない理由のある者だけだ。



僕は残念ながら後者だ。



それにしても今回は長かったな。



前にアリスが来てからもう数年。



ようやく、新しいアリスがやってきた。



綺麗な金髪の髪。澄み切った青い瞳。整った顔立ち。



一目見て思った。



彼女にそっくりだと。



今までだって彼女によく似たアリスは何人もいた。



彼女にわざと自分を似せて、彼女になりきろうとしたアリスも多くいた。



でも、やっぱり全然違う。



僕は白ウサギだからすぐにわかるんだ。



どんなに似ていても所詮は偽物。本物じゃない。



僕は白ウサギだからその事がよくわかるんだ。



そうわかっている。



僕だけがわかっている。



それなのに……



いらいらと傷ついた腕を見る。



あの……イカレた帽子屋め。



数年前から姿が見えないとは思ってたんだ。



あんな奴、どうでも良かった。



どうせいくらアリスを切望したとしてもアリスが奴を受け入れるはずがない。





そう思っていたのに……



『俺は帽子屋の……レノのアリスだ』



アリスの一言を思い出し、余計に気分が重くなる。



悔しい……スッゴく悔しい……



あんな奴にこの僕が負けるなんて……



「あんな奴……殺してやる……」



そして僕は今度こそアリスを手に入れてみせる。



「シャロル様! シャロル様!」



城の廊下に足を踏み入れた瞬間、わあっと赤と黒の何とも言えない服を着た、男達が僕を囲む。



おそろいの制服。どれが誰の物かわかるように袖口と胸に数字が縫われてある。



彼らには悪いが、僕に支給されている服が彼らの物とは違って良かったと心の底から思う。




あんな格好悪い服じゃ、どこにも行けないよ。



あっても邪魔なだけだと思っていた地位もこうして見れば悪くない。



「シャロル様がお怪我をなさっているぞ! すぐさま医者を呼べ!」



彼らの一人がそう叫び、心配そうに傷口を見てくる。



変な感じだ。



僕は彼らの顔も名前さえ知らないのに彼らは僕の事を知っている。



僕は彼らが誰か知らない。



唯一知っている事は彼らがトランプ兵と呼ばれている存在だということ。



使い捨ての城の兵士達。



それらをトランプに見たてて誰かがトランプ兵と呼ぶ。



そう誰かに教わった。



あれは……誰だっけ?



駄目だ。思い出せない。




最近、記憶がやたらとあやふやで、何か大事な事を忘れている気がする。



「シャロル様、今すぐ医務室へ……」



「うるさい……」



僕に構うな。



さっさと横を通り過ぎて、歩き出せば、慌てた彼らの声が聞こえる。



「お待ち下さい、シャロル様!」



「お怪我をなさっています! 治療せねば!」



ああ……本当にうるさい。



どうせ使い捨ての駒なくせに。



一睨みすれば、さんざん騒いでいた奴らが皆、大人しくなる。



さっきまでとは打って変わった静けさ。



「命令だ。僕に構うな」



お前らなんかに心配してもらうほど僕は落ちぶれていない。



さっさと足を進める。




もう誰も、何も言わない。



やっと静かになった。



あんな奴らに構まっている時間はない。



そうだ、これでいい。



「えらくご機嫌斜めだな、白ウサギ」



ようやくいなくなったと思ったら、また目障りな奴がやってきた。



こちらをバカにしたような、気に障る声。



すぐに誰だかわかる。



足を止め、声の方へと顔を向ける。



暗褐色の髪。淡い紫色の瞳。すらりとした長身。見た目はなかなかよいが、口元には嘲笑したような笑みが浮かべられ、こちらを見る目はとても冷めたい。



「まさか、我が城きっての優秀な兵士である、白ウサギ様が怪我をして帰ってくるとはな」




皮肉のつもりか。冷たいその目を負けずに睨み返す。



「何のようだ、トカゲ」



「別に。お前が執務を放り出して、いなくなったって聞いてな。今度は何をしでかしたのかと思って、楽しみにしてたんだ」



トカゲはニヤリと笑って、腕を組んだまま壁に寄りかかる。



要するに僕が何かしでかすのを期待して、その事を笑ってやろうとそこでずっと帰ってくるのを待っていたってことか。



相変わらず、嫌な奴め。



「暇人……」



「誤解するな。俺はお前と違って自分の仕事は全て終わらせてある」



何が終わらせてあるだ。どうせそこらのトランプ兵にでも全て押しつけてしまったくせに。




こんな奴と話すだけ時間の無駄だ。



無視を決め込み、さっさと通り過ぎる。



「ああ、そうだ、そうだ。白ウサギ、今度のアリスはどうだった?」



今度のアリス?



ばっと振り返り、トカゲを睨みつける。



トカゲはにやにやとした嫌な笑みを浮かべる。



「会ってきたんだろう? 新しいアリスに」



「お前……何で……」



何でそれを知ってるんだ?



誰にも言ってないはずなのに……



「わからないと思ったか? お前が突然姿を消す理由なんて一つだろう?」



「……っ!」



まずい、知られた。



とっさに腰に下げている剣に手がのびる。



どうする?




このままひと思いにここでこいつを消してしまおうか?



よぎったその考えを読みとったのかトカゲが可笑しそうに笑う。



「何だ? この俺とやり合う気か?」



トカゲの手がゆっくりと自分の腰にある剣へと伸びる。



駄目だ……。



例えやり合ったとしても相手が相手だ。



怪我をおっているこの状況で僕に勝ち目なんかない。



仕方なく、相手を睨みつけるだけにする。



それを見て、トカゲは感心したように目を細める。



「懸命な判断だな。なに、そんな顔するな。俺は別にお前を責める気はない。ただ、あの帽子屋が新しいアリスに執着してるって聞いてな。少し興味がわいただけだ」



こいつ……



どこでそんな情報を手に入れたんだ?



まさかこいつ、僕がアリスに気づく前からその存在に気づいていたのか?



「まあ、慌てなくてもそのうち会えるか。何せ、うちの女王様が知ったらすぐに首をはねるよう俺達に命令だすだろうからな」



そうだ。あの女がアリスの存在を知ったら間違いなく、アリスを殺しにかかるだろう。



何せ……あの女は……



「女性様はアリスが大嫌いだからな」



可笑しそうに声を出して笑うトカゲを黙って睨みつける。



それにトカゲは肩をすくめる。



「そんなに怒る事ないだろう? 全く、お前らはどうしてアリスの事になるとそうやってすぐに感情的になるんだ? 俺にはお前らがどうしてそこまでアリスにこだわるのかさっぱりわからねえよ」



「お前なんかにわかってたまるか!」



そうだ。アリスの本当の価値なんて誰にもわかるはずがない。



僕以外には。



僕だけが、僕だけがアリスの本当の価値を知っている。



ねえ、そうでしょう?



アリス……


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