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帰ってきたアリス その10

序章のくせに長いな。いつまで続くんだか。


いつまでたっても本編が始まらないです。

「痛むか?」



家についてからレノはそれしか言わない。



ソファーに座る俺。そのすぐ前にレノはしゃがみこみ、怪我した俺の手を優しくつかみ、心配そうに見つめている。



巻かれたスカーフは既に真っ赤に染まり、吸いきれなかった血が腕を伝って床へと落ちていく。



後でふくのが面倒だな。そんな事を考えているとまたレノが言う。



「なあ、痛いか?」



何回目かわからない問いかけ。いい加減にしてくれ。



痛くないか? 痛いに決まっているだろう。こんなに深く切れているんだ。痛くないはずがない。



痛くないはずがない。だが素直に痛いと言えるような性格を自分は持っていない。



「レノ」




「何? やっぱり痛むか?」



「お前は……それしか言えないのか?」



「え?」



「さっきから口を開けばそればっかじゃないか」



「あっ、いや、そんなつもりじゃ……」



そう言いつつ、レノは未だに心配そうに傷ついた手を見ている。



その瞳が潤んでいるように見えるのはあながち気のせいじゃないだろう。



「アリス……本当に痛くないのか?」



繰り返される変わらない質問。



ため息をつきながらそれに答える。



「ああ、さっきからそう言ってるだろう。血は出てるがそれほど酷い怪我じゃない」



「で、でも!」




こうゆう時だけレノは感がいい。おそらく、本当は痛い事などとっくに気づいている。



わかっていながらもあえてそれを聞いてくる。



レノがどんな思いでそんな行動をとっているのか俺だってわかる。



わかっているがつまらない意地が邪魔をする。



そんな顔で俺を見るな。そんな目で見られたら俺がたまらないだろう。



「やっぱり……医者に……」



「却下だ」



「何でだよ!?」



何でかだと? めんどくさいからに決まってるだろうが!



けして病院が嫌いだとか、医者が嫌だとかそんな子供じみた理由じゃないからな。



「だいたいお前は大げさなんだ。これぐらいの傷なめてでもおけばそのうち治るだろう」



もちろんそんな事で治るような傷ならこれほど痛むはずがない。



するりとレノが巻いていたスカーフを取る。



真っ赤に染まった、痛々しい傷口があらわになる。



てっきり手当てするのかと思って見ていれば突然レノは俺の手そっと持ち上げ、そのまま自らの唇を近づける。



止める暇などなかった。レノの赤い舌が傷口をそっとなめる。



生暖かな感触と友に一気に羞恥心にかられる。



「お、おいっ!?」



何やってんだよ!?



慌てて手を引っ込めようとするが、レノはがっちりと俺の手をつかんで、はなさない。



「お前っ!? 何やってんだ!?」



「だって、なめれば治るってアリスが……」



「比喩だ! 比喩! 本当にやるな、バカ!」



「またバカって言ったな」



バカという単語が気に入らなかったようで、レノはむっとした顔をしてこちらを不満げに見てくる。



「バカって言うなよ」



そんな事言われたってなあ……バカをバカと言わないで何て言えばいいんだ?



レノがぐいと顔を近づける。すぐそばにある整った顔。



柄にもなくどきどきする。



「あのな、俺はアリスの事をすっげー心配してるんだぞ? それなのにアリスはバカバカ言いやがって……」



すっかり拗ねてしまった様子のレノ。



もとを言えばバカな行動ばかりする、お前がいけないと思うんだが。



バカって言われたくないなら自分のとる行動をもう一度考え直すべきだ。



「しかも、アリス……何か怒ってるし……」



怒ってる? そりゃあ、あんなバカな行動されればなあ……



「恋人がなめてくれたんだぞ? 普通にそこは喜ぶところだろう?」



またか。また普通か。お前の頭は本当にどうなってんだよ?



だんだん真剣に心配になってきたぞ。本当にどこでそんな事を教わったんだ?



「あのなぁ……そうゆう問題じゃ……」



「何だよ……アリスは俺になめて貰っても嬉しくねえのかよ?」



「……」




当たり前だ。嬉しくなんか……



「俺にそうされるのアリスは全然嬉しくないのか?」



嬉しくなんか……



じっと見つめられる瞳。



くっそ、嬉しくない訳ないだろうが!?



冗談もたいがいにしろよ! 俺の理性が切れたらお前はどうする気なんだ!? 責任とれるのかよ!?



「そうじゃなくて……だから……」



どう言えばこのバカにもわかるだろうか?



必死に言葉を探していると突然、レノがはっとしたような声を上げる。



「アリス! ひょっとして、あれか? なめるよりしゃぶった方が良かったか?」




ああ、前々からかなりのバカだと思っていたがまさかここまでとは……



ここまでくると呆れを通り越して感動さえしてくるな。



「アリス? おーい?」



本当にもう襲ってやろうか?



そんな俺の考えなど露知らず、レノは黙り込んだ俺を不思議そうに見つめる。



「アリス?」



「レノ……早く手当てしろ……」



「あ、そっか!」



レノはすぐさま立ち上がり、パタパタと足音をさせながら部屋の奥へと行くと救急箱を持って、戻ってきた。



すぐにレノは丁寧に俺の手を手当てしていく。



しばらくすると綺麗に包帯が巻かれ、手当てが終わる。



手当てしたおかげか。疼いていた痛みが僅かに和らいだ気がする。



「アリス、本当に医者に行かなくても大丈夫か?」



「大丈夫だ」



レノは何か言いたげな顔をしたが、何も言わずに救急箱を片付ける。



その姿を静かに見つめる。



いつもと変わらない。いつもと同じ態度に表情、仕草。



しかしどこか違和感を感じる。



ひょっとして、まだ言われた事を気にしてるのか?



俺が言った事はすぐに忘れるくせにそうゆう事だけはよく覚えてるんだな。



「レノ……」



「うん? どうした?」



笑顔で振り返り、そばにやってくるレノ。それを何も言わずに見つめる。



「うん? アリス、どうしたんだよ?」




「レノ……」



「何だよ? あ、さては俺に見とれてたな? しょうがねえな」



ご機嫌の様子でレノが笑う。



何故だか、違和感がさらに強まる。



「アリス?」



仕方ない。言いたくないならこっちから言ってやろう。



「レノ、お前は全部知ってたんだな」



その言葉にレノの瞳が一瞬だが揺れる。



やはり違和感の原因はこれか。なるほど、俺にその事を聞かれるのが嫌でいつもみたいに振る舞っていたのか。



「何がだよ? ほら、そんなふうに眉間にしわ寄せてるとせっかくのイケメンが台無しだぞ?」




話題を変えたいのだろう。わざとレノは笑いながらからかうようにそう言って、俺の額のしわを伸ばすようにもむ。



その手を捕まえ、ぐいっと自分の方に引き寄せる。



「……っ!?」



目を見張り、俺を見るレノ。その目を真っすぐと見返す。



「ごまかすな」



今さらだろう? あんな事があったのに今さらしらばくれる事なんかできるはずがない。



それでもレノはなお逃げるようと視線を外す。



まだ言わない気か?



小さく舌打ちし、レノの顎をつかみ、こちらを無理やり向かせる。



「……っ!? 何だよ!?」



「当然だな。お前はあのチェシャ猫とかいう奴とえらく親しそうだったもんな」




わざと挑発してやれば案の定レノがのった。



一瞬傷ついたような表情をしたかと思うと涙目でこちらを睨む。



「俺はあんな奴と親しくなんかない!」



乱暴に振り払らわれた手。



ここまでレノが怒ったのは久しぶりの事だ。



前に一度、街で女性といたのを見られ、浮気だと騒がれた時を思いだす。



あの時はひどかった。本気で殺されるかと思った。



内心どきどきしつつ、レノの様子をうかがう。



レノは何も言わずに俺からまた視線をそらす。



やはりレノは全てを知っているのだろう。



アリスの事、ゲームの事、住人の事。



いずれこうなると全てを知っていたんだ。

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