8話:百発百中と命の重さ
生き物を殺す残酷描写があります。
「これで90発…」
「あと10発ですねミリア様」
いまわたしはお母様からもらったスナイパーライフルで1000m前後の狙撃に挑んで2日目。
いままでの銃とちがって地面に寝っ転がって銃を構えている。
スナイパーライフルは基本的に立ち上がって撃つものではないそうで、寝そべるか立ち膝で撃つ。
立ち膝の場合は銃がぶれないようにルーナの肩を借りたりする。
5発撃って1人では無理と分かった。
500mなら当てられるんだけど…
ルーナの方も双眼鏡による計測っていうのになれてきた。
5発撃つたびに的の位置をタリム家のメイドさんが変えてくれる。
大体800〜1200mの間で移動させる。
するとルーナが双眼鏡で簡易計測して風向と的の高さを教えてくれる。
それに合わせて私はスコープの目盛りをセンターから補正して射撃する。
ガチャっとボルトを動かして排莢したのち5発の弾を装填する。
最初のうちは的に当たるもセンターには程遠い位置だったけれど、今ではセンター円に当たるようになってきた。
最大で1200mが今の所の記録。
1000mを超えると無理が生じる。
「95…」
「ずいぶん安定していますね」
ルーナの感心する声が聞こえる。
このボルトアクションって機構はすごい。
本当にあっという間に5発撃てる。
今までの銃ならこれだけで5〜7分はかかる。
これなら、1分間に5発以上の射撃も可能だと思う。
「順調なようねミリア」
「お母様」
後ろからお母様が声をかけてきた。
このスナイパーライフルって銃は音も小さいから耳栓もいらないぐらいだけれど、念のためつけていた耳栓を外す。
「95発の命中を出したようね」
「はい、あと5発で100発100中です」
「では、最後は的ではなくあれを狙いなさい」
すっと射撃場を指差すお母様の目線の先には、5匹の鶏が放たれている…
まさか鶏を撃てと?
「あれを撃ちなさい。今晩の皆のおかずになります」
「ま、まってくださいお母様流石に鶏が可哀想では」
「あなたはこれから人を殺すのよ。それにさっきも言った通り、あれは夕食で使います。無益な殺生ではありません」
たしかに無益な殺生にはならないのだろうけれど、気持ちの問題だよお母様。
小鳥を撃つ時は遊び感覚だったけど、それよりずっと大きい鶏…いつもうちの庭で見て世話をしたりした生き物を撃つとなると気持ちが違う。
あの子達は別に私が世話したわけではないけれど気持ちの問題だよ。
でもタリム子爵家の者が鶏を殺めるのをびびっていては仕方がないのも事実…うちは養鶏業で儲かってるんだから。
わたしは心の中で両手を合わせる。
「ルーナ、お願い」
私は気持ちを切り替えてスコープを覗く。
「右、風向90、風速3、一番移動がゆっくりです」
「位置を予測して…撃ちます」
パスッ
「命中確認、さすがミリア様です」
「世辞はいいわよ次」
今は無心でないとだめ。
生き物を殺すって心が重い。小鳥だって同じ生き物だったはずなのに。
「左、風向110、風速3」
ポスッ
「次」
「は、はい」
わたしはルーナに次を催促する。
お母様は何も言わずに私たちを見ている。
パスッ、バスッ、ポスッ
ルーナの指示で5匹の鶏すべてを撃ち抜いた。
1匹は頭に当たって完全に頭が消し飛んでいた。
それだけの威力があるのだこの弾は…普通のマスケットではこれほどの威力はないだろう。
距離が届くということは威力があるということ…
戦場に出るとなると、これを人に向けて撃つのか。
考え始めたら手が震えた。
「よくやったわミリア」
そういってお母様が抱きしめてくれる。
私は泣いていたらしい。
「でも、これに慣れないとだめよ。 あなたは戦場に行くのでしょう」
「ヒック…でもお母様、これは…慣れてはいけないと思います」
お母様は何も言わずに私を抱きしめて頭を撫で続けてくれた。
久々に感じる母の温もりが私の心に染み渡った。