66話:ロッシジャーニ辺境伯領奪還戦3
「そうか、フリッツ・ロッシジャーニをとらえたか」
ジェラルドは味方の兵士の報告を聞いて何とも言えない気持ちになった。
元は母の婚約者であった男だ。
婚約していたにもかかわらず、母を放置して他の女を追いかけたクズ野郎である。
当然そのような醜聞をもつ息子を跡継ぎにしたくないギュンター・ロッシジャーニは、娘の次男坊であるライナー様を養子に迎えて跡継ぎにしようと動き、それをフリッツは武力行使にてひっくり返そうとした。
自らの求心力が無いがゆえに帝国まで使ってだ…
頭が回るんだか回らないんだか分からない男だな。
「何か話したか?」
「罵倒雑言まみれです。まともな会話は出来ません」
「内容は?」
「俺は辺境伯だぞと早く治療しろだとか、王家の役人を呼べだとかそんな感じです」
「自らの立場が分かっていないようだな…」
「そのようです」
既に王家から討伐対象として名が挙がっているのに生かしてやっているということも理解できていないようだな。
本当に同じ高位貴族かと言いたくなる。
「私が行こう、これでも侯爵令息だ。位だけなら同じさ」
捕虜収容所と救護所となっている教会の懺悔室にフリッツは拘束されていた。
「今度は誰だ!私は辺境伯だぞ!!」
「貴方はまだ辺境伯ではありませんよ?フリッツ・ロッシージャーニ辺境伯令息。
私はべリリム侯爵家長男、ジェラルド・べリリムです」
「べリリム侯爵家の長男だと?」
「えぇ、それとこれが王家からの勅命書です」
その写しですがといってそれを目の前にかざしてやる。
フリッツの顔がみるみる青くなっていくのが面白い。
手当をしろと騒いでいたらしいがすでに足には包帯がきっちり巻かれ治療されているように見える。
痛くて騒いでいただけか?
「王家から貴方は逆賊という扱いをうけているのですよ。企ても全て明るみに出ています」
「……」
「何の弁明もいりませんが、今度はだんまりですが」
「…ふん、だが私がいなくなれば辺境伯を継ぐ者がいなくなる。帝国との防壁として貴様らべリリム家が何とかしようというのか? いまごろ親父は死んでいるだろうからな!」
「ギュンター・ロッシジャーニ様はご存命ですよ。すでに救助済みです」
「なんだって!?」
「保身のために生かしておいでだったのかもしれませんが、すでに救助されたと文が届きましたよ。残念でしたね」
今度こそフリッツはうなだれた。
なんというか、計画がお粗末すぎやしないだろうか?
実際問題当主になっていないということを理解していながら当主として振る舞おうとしても民はついてこずに帝国の武力でもって無理やり従わせるしかなかった男か…
「この者を王都へ連行しろ。正式な裁判を受けさせる。国家反逆罪だろうがな」
「なっ!」
「当然でしょう。帝国軍と手を結んだ者が反逆ではなくなんだというのです」
「ち、ちがう!こいつらは反帝国の!!」
「その裏も取れていますよ。第二皇子派の貴族の私兵です。そんなことにも気が付かずにいいように使われたわけです。その身をもって償うんですね」
兵士に指示を出しフリッツを馬車に投げ込むように指示する。
このまま王都へ行ってもらう。
既にマルセルも捕縛され王都へ移送中だ。
まったく、身内から裏切者が出たせいで私がべリリム家の汚名を雪ぐためにこうして出陣しなければならなかったわけだからいい迷惑だ。
後はロッシジャーニ辺境伯領内から帝国軍を一掃することになるが…
問題は領都だろうなぁ
あそこは要塞化されているから帝国に占領されているとなると攻め落とすのは難しい。
王国側からの攻撃なので帝国側から攻撃するよりかは楽だと思われるが…激戦にはなるだろうな




