59話:帝国の影
「野盗にしては装備が良いのは間違いありませんが、帝国の者であるという証拠はさすがに出ませんでした」
戻ってきたルーナが剣を一本持ってきて私に見せてくれた。
確かに刃がきれいでしっかりメンテナンスされているように見える。
なにより油が塗られているのでただの盗賊ではないことは明確だ。
剣に使う油は高級品でありおいそれと入手することはできないため、普通の野盗は剣が錆びていたりする。
「明らかにどこからか支援をされているということね」
「単純に考えれば帝国ですが、辺境伯家…いえ、フリッツが侯爵家を逆恨みして治安悪化を狙っていると考えることもできますね」
「倒した野盗からは何も聞けなかったと思うけれど、この国の人間だった?」
「少なくともアルミナ王国の言葉は話していましたね…」
帝国人と王国人を区別することは難しい。
話す主要言語がなんであるかぐらいしかない。
とはいえ平民が2か国の言葉を話せるとも思えないため、ほぼ王国民だと思われるのだが…
「腑に落ちないわね」
「さらに野営地を探し潰していけばわかるかもしれません。野盗の野営地から延びる道を見つけましたからたどればわかると思います」
「さすがルーナ!案内は任せるわ」
*****
私達は森の中を進んでいく。
ルーナには道が見えているらしいが、私からするとどこもただの森でしかなくて迷わないようについていくのが精いっぱいだ。
そのまま夜が明けてきたので、道を外れて一泊する。
また夜に移動を再開するため腹ごしらえをしてしっかり体を休める。
小さく炊いた火で温めたお茶が体に染みる。
その日の夜、さらに森の奥へ進みつづけると、小さなかがり火が見え始めた。
「見えました」
ルーナにとめられ前を見れば、先ほどよりも大きな野営地を発見できた。
ちょうど窪地になっているところにきっちりと”陣”が敷設してある。
「野党の砦とは思えない規模ね」
「ミリア様、陣の敷設が帝国式です。これはしっぽが見えてきましたね」
「でも、べリリム侯爵騎士団はこれを見つけられなかったのかしら?」
「難しいでしょう。徒歩でしらみつぶしに捜索すれば見つかったかもしれませんが、機動力を確保するため馬を使っていた場合、ここまで来るのは厳しいかと」
私達はこのまま陣を観察するために野営の準備を進めた。
大きさと人員数、物資の状況など確認したいことは多い。
敵に見つからないようにテントを張る必要があるので、月明かりの下少し離れたところに穴を掘ってテントを建てる。
半分埋めるような形だ。
「ルーナ、これでいい?」
「はいミリア様お疲れ様です」
まったくよ。仮にも貴族令嬢に穴掘りさせるなんて…
これで拠点は出来たので、私達は手持ちの荷物のほとんどを置いて身軽になる。
基本は先ほどと同じ、ルーナによる強行偵察と私はそれのサポートをする。
ルーナの脅威になりそうな相手を射殺する。
お互いにハンドサインを確認して私は持ち場に着いた。
単眼鏡にて陣地を確認すると、内部で帝国式の敬礼をしている男を見る。
間違いなく帝国軍だ。
私はルーナのハンドサインを確認し、ゆっくりと匍匐前進しながら彼女をサポートできる位置に移動した。
ここからルーナは見つからないように証拠を集めるはずだ。
もし脅威となる可能性があればためらわずに撃つ。
待っている時間はものすごく長く感じた。




