51話:ニホニ解放戦2
翌朝から王国軍は大砲による砲撃を開始した。
どうも今までの大砲と違い、改良された大砲は射程が長く、町から500mは離れた位置から砲撃をしている。
既に1時間ほど断続的に砲撃をしているためかニホニの正面はほとんど瓦礫の山となっていた。
「それにしてもうるさいわね」
「鉄砲よりも大きいですからしょうがないかと」
私達はニホニの町の東側の丘から状況を確認している。
距離としては1キロは離れており味方の誤射の心配のない場所だ。
そして敵本隊の動きをみられる位置でもある。
「動き出しましたが歩みは遅いですね」
「1万規模の軍が迅速に移動できるとも思えないけど…それに砲撃はまだ続いているのよ?」
「王国軍が瓦礫になったニホニになだれ込んだ時には突撃してくる可能性がありますね」
ルーナが双眼鏡を構えたままで答えてくれる。
私もルーナも藪の中に身を隠しており敵本隊からは3kmは離れている。
あくまでも人影がこちらに向かってくるというのがわかる程度で具体的な陣容などまでは分からない。
「ではルーナは定期報告に行って、私はここで監視を続けるから」
「わかりました。敵の動きを伝えてきます」
私は一人で残り単眼鏡を構える。
「ニホニの町を取り返せれば戦争は終わるかもしれないわね」
帝国側も砲撃は可能だろうが、この戦場では王国軍のほうが射程で有利だ。
既にニホニから逃げ出したであろう兵士が本隊に合流している。
私達はあえてそれを邪魔しなかった。
「近づいてきたら私は私の仕事をするだけよ」
ルーナにも手伝ってもらい、ここには100発ほどの弾薬がある。
敵の数から考えればたかが知れている弾数だが、少しでも敵を混乱させられればよい。
今回の戦いでは弾の回収まではしなくてよいとお母様からお許しが出た。
その代わり埋めてこいだそうだ。
なので、久々に折り畳み式のスコップを持ってきている。
私は藪の中で楽な姿勢をとって敵を待つことにした。
*****
砲撃がやんでしばらくしてから王国軍側から雄たけびが上がった。
町への突入が始まったらしい。
それに反応した帝国軍はゆっくりとした前進から急に速度が上がった。
まだルーナは帰ってこないが、私は私の仕事をしようと思う。
敵との距離はおおよそ1kmほどにまで迫っている。
丘から撃ち下ろせば何かに当たる程度には敵は密集している。
狙うは指揮官だが、一般の兵に当たったとしても敵を怯ませられるだろう。
私はサイトを覗きトリガーに指をかける。
「敵指揮官もあまり目立たない格好をするようになったわね…」
隊列に羽飾りや目立つ甲冑をつけたものが明らかに減った。
「それでも狙う相手は動きを見ればわかるのよね」
どうしたって部隊の指揮をとるものは隊の前に出ることが多い。
総司令官となれば話は別だが、前線で動く兵士を指揮するためには指揮官が率先して前に出る必要がある。
つまり目立つ。
それに一般兵と同じ格好をしても指示を出している人間はわかるものだ。
私はじっくりと狙いを定める。
パスッ ガシャ
戦闘を進む兵が1人倒れ込む。
次の者に狙いをつける。
今の一撃ですでに帝国軍の行軍速度はぐんと落ちた。
狙いを定めていると別の敵指揮官と思われる兵士が倒れる。
別の場所に隠れているハンスだろう。
ギリースーツに身を包んでいる私たちを見つけるのは容易ではない。
なにせ私はハンスを見つけられない。
帝国軍がニホニに着くまでにどれだけ数を減らせるだろか?




