44話:タリム家狙撃チームの作戦会議
私はルーナの意見を伝えるべく、父の執務室を訪れていた。
概要を説明すると父は感心した顔をする。
「なるほど、流石ルーナだな。隠密部隊などもそのように拠点を構築すると聞く、同じ手法だな」
普段の隠密活動であれば各町に拠点となるセーフハウスというようなものを構築する。
それと同じだという。
「あとは偽装の問題か…ミシェルに頼んでみよう。きっと何か開発していると思う」
「お母様がですか?」
「あぁ今回の戦争が始まってから何やらずっと開発しているようだったからな…早馬を出す」
お母様からの返事が来次第、再度作戦会議を行うこととなり私は部屋に戻った。
「ルーナは何か聞いている?」
「いただいているギリースーツをテントに応用すると聞いていますから、それではないでしょうか?」
なるほど、物資集積場所自体を偽装できる手段があるのか。
それならちまちまと物資を輸送しつつ帝国軍の動向を探れるわね。
「それと、王国軍も再編が進んでいるそうですよ」
「どこからの情報?」
「私の父からです」
ルーナのお父様って執事のウィルさんよね。
まさか隠密の家系だとは知らなかったわ。
「第二騎士団を含め第三騎士団を再編、総数3万の兵団となるそうです」
「3万…第三騎士団の充足数を良く回復できたわね」
「アルミナ王国中の貴族から私兵を集めたそうですから、指揮系統は大変そうですがね」
それは大変だろうなぁ…総司令官が伯爵じゃ無理だろう。
王族が出てくるかもしれないわね…王弟殿下かしら?
「でもそれってここ数日で編成が完了する話じゃないでしょう?」
「えぇ各地から王都に集合してからの進軍だそうですから良くて1ヶ月、ヘタをすれば半年はかかるんじゃないですかね?」
「そんなに時間をかけていると、帝国軍も再編を完了してしまいそうね」
ルーナが頷く。
とはいえこればっかりはしょうがないだろう。
寄せ集めの軍団では一部の部隊が潰走すると雪崩を打って潰走しかねないわけだし、仮に王国軍から銃が提供されれば、慣熟訓練だって必要だ。
「私たちの仕事は重要性を増しそうね」
「追撃だけではなく偵察も任務ですからね」
*****
昼食を食べたのち、お父様から呼び出されて執務室に行くことになった。
今回はルーナも一緒だ。
部屋に入ると他に男性が4人部屋にいた。
「ミリア、ルーナ知っているだろうが今回の作戦に同行するのは狙撃手のハンスとクルト、観測手のフィリップとリヒャルだ」
4人ともお母様の弟子で平民出身の男達だ。
皆体格がよく、目もいい。
「ミリア・タリムよ宜しく」
「ルーナです。よろしくお願いします」
4人が頷いてくれる。
直答を許していないので彼らは私に話しかけられないからね。
「作戦会議中はミリアも含め直答を許す。
皆が死なず、帝国軍を追い詰めるための作戦だ。そこに貴族も平民もない」
そしてお父様は執務室のテーブルに地図を広げる。
コーラシル砦から帝国までの地図だ。
「ことは単純だ、まずはコーラシルからニホニまでの道の確保、もしニホニに駐留していれば無理に確保せず敵を混乱に陥れればいい。そのために、砦との間に1カ所拠点を構築する」
そしてお父様が布を1枚机に置く。
「妻が開発した迷彩テントとネットだ。これで拠点を偽装する。
火を使っても光が漏れないほど分厚く作ってあるそうだ。そしてネットで木箱を覆って枝や葉で偽装することになる」
「その光の漏れないテントは火を覆うわけではないのですよね?」
「そうだ、開口部からはどうしても明かりが漏れる。設置する際の方角には気を付ける必要があるが、暖かいものが食え、水を煮沸できるだけでもだいぶ違うだろう?」
私も含め皆が頷く。
「物資についても潤沢に用意するが、木箱などを人が運ぶのは難しい。
どうしてもカバンが主体となるだろうが、幸い皆が持つ背負いカバンは防水性だ。
これをそのまま使うことになる。数は可能な限りそろえた」
その後も作戦会議と状況のすり合わせが行われ、作戦の大枠が決定し一時解散となった。




