37話:コーラシル砦攻防戦1
私とルーナがコーラシル砦に到着したのは完全に日が落ちてからだった。
砦は無駄な明かりを焚かず黒々とたたずんでいた。
門の兵に声をかけると私たちはそのままお父様のもとへと通された。
「来たかミリア」
そこにはすでにベアロン伯爵がおり作戦会議中であるようだった。
ベアロン伯爵は薄汚れており、何とか逃げ延びた感じがすごい。
「ベアロン伯爵、ご無事で何よりです」
「気遣い礼を言う…」
「ミリア、敵は既にニホニに陣をとっているようだ。コーラシル砦攻略に乗り出すのも時間の問題と思われる」
ベアロン伯爵率いる王国第三騎士団は敗走したものの何とか砦までたどり着けたらしく、コーラシル川に掛かる橋は既に落とされた状態だそうだ。
「私たちの役割は、ここコーラシル砦で帝国軍をすりつぶすことにある。渡河と砦の組み合わせであるこの砦は簡単に攻略できるものではない」
「ですが相手は大砲を持っているはずです」
「すでに帝国軍は50門を超える大砲を擁している…その破壊力はすさまじい」
ベアロン伯爵が口を開く。
実際にその大砲で部隊をすりつぶされたのだろう。
「ミリア、私が君の射撃の腕を見込んで頼みたいのは、敵砲兵をとにかく倒してほしいということだ」
「他の歩兵や将兵はよろしいのですか?」
「もちろん大砲が確認できるまでの間は可能な限り倒してほしいが…できるか?」
「可能なかぎり頑張ります」
お父様の言葉に私は頷く。
やることは明確だ。
砦を守る。
そのために敵砲兵や将校を重点的に狙撃する。
問題はアイアンサイトでどこまで精密な射撃ができるかだ…
「なにもミリアだけに任せるつもりはない。タリム子爵家スナイパー部隊も同様の作戦を行う」
「残り5丁のライフルはお母様の弟子が受け持つということですか?」
「その通りだ」
ということは、彼らと私は全く同じ土俵に立っているわけだ。
「アヤタルの実力を帝国軍に見せてくれ」
ベアロン伯爵が声をかけてくれる。
「第三騎士団は残念ながら直ぐの再起は不可能だ…15,000の内、実に5,000近い兵が死んでしまった…他にも負傷者を入れると損耗率は50%を超える。
タリム子爵家が現在受け入れ態勢を整えていると聞く、まずは負傷者の治療、生き残っている者たちはガリム伯爵家に預けることになった」
ここでいうガリム伯爵家とはお父様の指揮下に入るという意味合いになる。
お父様も私もタリム家の人間ではあるけれどガリム伯爵家の分家だから、大枠ではガリム伯爵家なのだ。
それにコーラシル砦の指揮官は御爺様からお父様にゆだねられている。
「つまり、砦の司令官はお父様ということですか」
「そういうことだ。ミリアは私の直下という扱いになる」
「わかりました」
まぁうちの兵かそうじゃないかは服装を見れば一目瞭然だから指揮系統に混乱はそれほど起こらないだろうと思う。
しかし、お父様の直下か…こき使われそうだ。




