34話:帰路につく
「仕方あるまい。いちど領地に戻りその銃の修理を優先させることを認めよう」
ベアロン伯爵に面会を求めた結果、ルーナと共に彼の部屋に案内された。
既にルーナが事情を説明していたため、タリム家の銃が壊れたことを伝えると帰郷の許可をすぐにもらえてしまった。
「よろしいのですか?」
「問題ない、君のおかげで敵補給線が細くなっていることが確認できている。このタイミングで我々は攻勢をかけるつもりだ。そんな乱戦で君のような腕のモノが無駄に負傷するのは良くない」
なるほど、そういうことであればお言葉に甘えることにすべきだろう。
両軍がガチンコで殴り合う場所にいては何が起こるか分からない。
あくまで私は貴族令嬢なのだから。
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「ルーナ、帰郷の許可が取れたわ」
「ようございましたミリア様、すでに帰り支度も済んでおります」
「は、早いわね」
「弾薬以外の荷物は少なくなってきておりましたから、それほど時間はかかりませんでした」
そういって背負いカバンを渡されると確かにだいぶ軽かった。
「弾はどうしよう?」
「持って帰るべきと思いましたので、すでに馬車に乗せてあります」
「そうよね…じゃあ途中のコーラシル砦に仮置きしてもらいましょう」
ルーナがそれに返事をしたので二人で部屋を出る。
今日到着した物資輸送の馬車にのってタリムまで帰る為だ。
「馬車が出発する時間じゃなくてよかったわ…タリムの町までの3日間で何もないことを祈るだけね」
「そうですねミリア様」
馬車の御者に事情を話すと他の兵士たちと一緒に馬車に乗ることができた。
戦線が膠着しているとはいえ、散発する小競り合いなどで負傷した兵士はこうして戻るのだという。
その日の夜は閑散とした町にて一泊となった。
ここはシュガービーツの栽培で出来た村が発展したもので、本来ならコーラシル砦から2日かかる道中で1泊する予定だったところだ。
町には横になって休める宿や医療施設があり管理は軍が行っている。
そして軍医や従軍牧師もここにおり兵士たちを支援しているとのことだ。
「人がいないだけで随分物悲しく見えるわね」
「活気がありませんから、そう感じるのでしょう」
ロウソクの明かりの元紅茶を飲みながら外を眺めていた感想が口をこぼれるとルーナが答えてくれた。
昨夜の影響からか、どうにも暗闇が怖く感じてロウソクを焚いてもらった。
ゆらゆらと揺れる火を眺めているとちょっと落ち着く。
「明後日には大規模攻勢があるそうですよ」
「王国軍が勝てることを祈るわ…」
ようやく襲ってきた眠気に抵抗せず私は目を閉じた。
翌日の移動も順調、日が暮れる前にコーラシル砦に到着した。
「無事に戻ったか、ミリア」
「はい、お父様」
「ミリアの戦績は聞いている。よく頑張ったな」
「危ないところもありましたが何とか防ぎきれました」
「そうか、ルーナもよくやってくれた」
お父様の大きな手が私とルーナの頭をなでる。
といっても御爺様の手の大きさにはかなわないけれど。
「今日は王国軍が攻勢をかけているだろう。無事に帝国軍を退けることができればいいが…」
「何か不安要素があるのですか?」
「単に悪い予感がするだけだ。ミリアとルーナはとりあえずタリムに戻りなさい。スコープがこわれているのだろう?代わりがあればいいがなぁ」
「ないのですか?」
「ミシェルが一品物だと言っていたんだ。もしかするとない可能性が高い」
「そうなのですね」
そういう重要な情報は最初に欲しいですお母様…
その後すぐに父と別れてタリム子爵家へと向かった。
銃自体のダメージも気になるので、お母様に一度見てもらわないと、どうにもならないからね。




