33話:使えなくなったライフル
ルーナに励まされながら宿舎へと逃げ帰ってきた私は、気が抜けたのか足から力が抜け立っていられなくなった。
「ミリア様、一度お休みになってください…報告は私がしてまいります」
「…お願いねルーナ」
ベッドに横になったままルーナを見送る。
1人になると途端に怖くなった。
体がガタガタと震える。
他人の死は見てきたけれど自分が死ぬ覚悟なんてできていなかった。
目の前に迫った死の恐怖はあまりにも大きく私の心を傷つけたらしかった。
グッと歯を食いしばって震えを無理やり抑えて深呼吸を繰り返す。
お母様から習った射撃前にやるべき行動の一つ。
緊張や興奮を抑えるための行動。
しばらく繰り返しているとようやく体から力が抜けてくるのを感じた。
「ミリア様、ルーナです」
ドアをノックが聞こえた後でルーナの声がすると、彼女はわざとらしく音を立ててドアを開けて入ってきた。
いつもなら音もなく入ってくるのに…気を使ってくれたのだろう。
「報告ご苦労様…私もだいぶ落ち着いたわ」
「ミリア様にお怪我がなく安堵いたしました…ですが」
すっとルーナが立てかけてあるライフルに視線を移す。
それを追って私もライフルのほうを見れば、その理由が分かった。
隠密に蹴り上げられた時にスコープ部分にダメージが入ってしまった。
もしかすると他にもダメージが入っているかもしれない。
「ひとまずスコープを外しましょう」
私は背負いカバンから工具を取り出す。
スコープなどの部品は普通一度調整したら絶対に外さない。
照準がちょっとでもずれると銃の癖が変わる。
それは狙撃ミスにつながるからだ。
だから日々のメンテナンスも煤汚れを落としてガンオイルを塗布するぐらいで、分解洗浄なんてしていなかった。
でも、スコープはレンズが明らかに割れてしまっていて使い物にならない。
そのままつけておく意味がなくなっている。
コインを使ってスコープを固定している台座のネジを外してみれば、その下についているアイアンサイト自体にもゆがみがあることが分かった。
「これは、大問題だわ」
一度完全に分解整備が必要かもしれない。
でも何の設備もない宿舎で分解洗浄なんてした日には、また100発100中の調整が必要になるだろう…
「ミリア様、一度お戻りになられたほうが良いかもしれません」
「…そんな許可が下りるかしら?」
今現在大規模な戦闘が起こっているわけではないから可能かもしれないけれど、今や私はアルミナ王国のアヤタルなんて呼ばれている。
戦場を離れることは士気にかかわりかねない。
「ベアロン伯爵にご相談すべきかと、かなりご心配されておりました」
「それもそうね…」
はっきり言って今の私が戦場で役に立つとは思えない。
昨夜の恐怖が完全に残っている状態では暗闇での活動なんてできそうもない。
私とルーナはベアロン伯爵と相談するため司令部テントへ向かった。




