1話:貴族学校
わたし、ミリア・タリムは今年14歳、貴族学校2年生。
タリム子爵家の長女として現在在学中。子爵家はガリム伯爵家の領地の一部タリムを管理している家で、私が入学する6年前に陞爵した。
母ミシェル・タリムに勉強を教わることになった私は、入学試験で次席となった。
おかげで下級貴族寮でもよい部屋を与えられメイドも一人連れてこられたので、今は専属メイドのルーナと王都で暮らしている。
1年目は王都が物珍しくルーナと共にいろいろなところを見て回ったものだけど、2年目ともなるとそういった楽しみもない。
そして、貴族学校の勉強は面白くない。
お母様も学年次席で卒業した実績を持つ才女なせいか、幼い私に随分と難しい勉強を教えていたらしく、学校の授業は6年前には履修ずみというような状況で、毎日復習って感じ。
「学校ってもう少し楽しいものだと思ってた」
「部活は楽しんでらっしゃいますよねお嬢様は」
そう、今学校の楽しみと言えば戦闘訓練か部活ぐらい。
戦闘訓練はその名の通り、剣や槍、最近では銃の使い方を教えるもの。
これは20年前に起こった帝国との戦争の時の名残。
兵を率いる貴族が弱くてはならない、時には女領主が指揮をすることもあるため、男女問わず基礎的な訓練が行われる。
そして部活は射撃部にはいっている。
私が得意とするのはマスケットでの狙撃。
お母様と同じで飛んでる鳥でも当てられるわ。
…ルーナの力を借りてだけど。
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朝食をとって教室へ、いつもの退屈な授業が始まる。
今日は数学と領地経営学と戦闘訓練か…そうだ戦闘訓練あるじゃない!やった!!
授業が始まるまで友達とおしゃべりを楽しみ、大変眠くなる授業を船をこぎながらやり過ごし、ようやく戦闘訓練の時間が始まる。
「本日は先週に引き続き射撃訓練です。いいですね絶対に銃口は人に向けない。これだけは絶対に守ってください。では…」
先生の説明が続くけど、私狙撃に関してはだれにも負けない自信がある。
お母様が狙撃の名手だからか6歳から叩き込まれてきたもん。
でもこれ、銃の加工精度もかなり重要になるんだよね…学校の銃精度がわるいんだよなぁ。
「では、ミリアさん今一度皆さんに射撃を見せてあげてください」
先生の説明が終わったらしい。
私には耳タコの話で聞き流していたらご指名が入ってしまった。
まぁ前回の授業で全弾的に当てたの私だけだからね。
先生すら1発外してたし。
「わかりました」
そういって並んでいるマスケットから1丁えらぶ。
誰もいない方に向けて一回構えをとる…これちょっと歪んでるわね。
しょうがないので別のと取り換える。
こっちはまだましみたいね。
「では弾込めします」
腰につけている火薬袋から漏斗を取り出し適量を銃口から入れる。
で、銃身の下にある棒を引き抜いて銃口から入れてトントンと固めたら、鉛の弾を1個いれて再度トントンたたく。
これで弾込め完了。
後は撃鉄を起こせばいつでも撃てるようになる。
「射撃しまーす!」
訓練では、この掛声を出さないと死ぬほど怒られる。
前回子爵令息の通称ガキ大将が声をかけずに引き金を引いて先生に鉄拳制裁を食らっていた。
皆ニヤつきをこらえるのに必死だったわ。
ざまぁって思ったもの。
いつも傍若無人気味に威張り散らす彼がそれはもうぼっこぼこにされたんだもの。
剣や槍の授業だと木の模擬剣とか刃をつぶしてあったりするからけがはしてもよほどのことがない限り死にはしないけど、銃は一歩間違えば人が死ぬ。
だから次に戦争が起こったら銃が活躍すると言われていて、こうして授業に組み込まれている。
で、そんな場合によっては一撃必殺になりうる武器を軽く扱うことはあってはならない。
ましてや私たちは貴族子女なので訓練でのケガならともかく、死なせたなんてなれば大騒動だから。
私はしっかりと右脇を締めてストックをきっちり右肩にあてる。
左手はしっかりと銃身を支え、照準器をのぞき込む。
大きく息を吸い吐いて、もう一度吸い込み息を止める。
そして引き金を…引く
バーン!キン!
発射音がしてすぐに鉄の的に中った音がする。
あぁーちょっとずれてるなぁ…真ん中に行かなかった。
的は矢用の的と同じように円が書かれている。
今回はちょうど中心の円とその外側の丸の間に当たった感じだ。
「さすがミリアさんです。王国一の射撃手と呼ばれるミシェル様の娘ですね」
ちなみにこの先生、家のお母様の弟子のひとりだったりする。
「これもちょっとバレルが曲がってますよ先生」
「…後で直しておきましょう。では皆さん順番に実技です。ミリアさんの様にしっかり肘を締めて息を止めて引き金を引きます」
たった20mの的のセンターに当てられなかったなんて悔しすぎる…やっぱり私一人だと限界があるんだよねぇ。
ルーナがいないと私の命中率は上がらないんだよね…
本日もう1話アップします。
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