15話:こんな夜更けに挨拶かよ
迎えに来た騎士と共に私とルーナは馬を走らせた。
馬車と違って馬はやっぱり速いわよね。
早足ていどだけれども、日が完全に沈んだ頃には王国軍の駐屯地に到着した。
「申し訳ございませんが、このまま司令官とお会いいただけませんか?」
「構いませんが…お時間をとっていただけるのですか?」
「問題ございません、むしろいつ来てくださるのかと首を長くして待っておいでです」
暇なんだろうか?
駐屯地についたままの格好で私達は騎士さんに連れられ司令部へと連れて行かれた。
豪華で派手な天幕は夜でもわかりやすい。
帝国側もきっと似たようなものなんだろうな…
「ミリア・タリム子爵令嬢をお連れいたしました」
「問題ない、入ってくれ」
天幕前で騎士さんが声を上げると、中から返事があった。
促されて中に入れば、そこにはガタイがいいおじさんが三人座っていた。
「よく来てくれた、タリム子爵令嬢。わたしは総司令であるチャールズ・ベアロンだ。君の到着を待ち侘びていたよ」
「もったいないお言葉でございます」
私は形ばかりのカーテシーをする。
だって厳密にはスカートじゃないし。
でもお母様、司令官のお名前ぐらい教えておいて欲しかったですわ。
現ベアロン伯爵じゃないですか…次期ベアロン女伯爵はお母様とは大親友の1人…そりゃ安心しなさいと言われるはずだ。
「君はミシェル殿と同じく射撃の腕があると聞いている。彼女から出されている作戦計画書も私は了承済みだ」
「では、斥候としての任につきます」
「が、その前にだ」
お母様から言われていた任務を復唱するとストップがかかった。
なんぞ?
「君は斥候をしながら敵将校を発見次第狙撃…つまり遠方から射撃して撃ち倒すと聞いている。
君のお母上の射撃の腕は知っているが、君の実力は学校での射撃部での成績しか知らない。
明日朝にぜひその腕を見せてもらいたい」
なるほど、実力を疑われているのか。
ならば証明するしかないよね。
「わかりました」
私は素直にうなずく。
しっかりみてもらおうじゃない私の実力。
といってもルーナに手伝ってもらうことになるだろうけれど。
「ふん、銃の性能だけでなければいいがな」
今まで一言も喋らなかったベアロン伯爵の右横に座っている大男が口を開いた。
とくにガタイがいいなこの人。
「君の持っている銃は我々王国軍が持っているものと違うようだ。その性能が優れているだけではないのか?
我が軍団にも射撃のうまいものはいる。わざわざこんな幼女に使わせなくても良い。その銃だけ置いていけ」
何言ってんだこの親父?
お母様からもらったタリム家の持ち物を置いて行けと?
「ロベルト子爵、さすがにその言い方はいただけないぞ」
「…申し訳ありませんベアロン殿。だがどうみても幼な子にしか見えぬ貴族令嬢が戦場で役に立つとは思えませんので」
「彼女はあのミシェル・タリムの娘だ。ただものではなかろうよ。明日の試射を見てから判断すれば良かろう」
「…はっ」
むっちゃ機嫌悪いなこの人…ロベルト子爵ってたしかうちとは敵対派閥だったはずだ。
うちは中立を謳っているけれど、ベリリム侯爵が貴族派なんだよね。
ロベルト子爵は国王派だから目の敵にされてるかもしれない。
いいでしょう私の実力ってやつをしっかり見せつけてやりますよ。
でもどうやって見せつけようかしら?
ただ的に当ててもいいんだけれど…
ルーナと相談することにしよう。




