10話:騎士道精神の否定と生き延びること
「騎士道精神なんてクソ喰らえよ。もう戦争は鉄砲の時代。いつまで騎士道精神なんていっていられるわけないじゃない」
あっさりと騎士道精神をお母様が否定した。
えぇ…ウチだって騎士団という名の軍団を持っているのに子爵夫人がそんなこと言っていいの?
「すでにコーラシル砦にいる軍団は騎士道精神を捨てさせたわよ。必要なのは見栄や栄光ではなく、確実な防衛よ」
コーラシル砦の軍団員はみなこの迷彩服を着ているらしい。
標準装備はマスケット銃、剣や槍は必要最低限しか配備されていないそうだ。
接近戦は短剣と中折れ式散弾銃だそうだ。
散弾銃は小さな鉄の球を大量に飛ばして敵を殺す兵器らしく、お母様は領地防衛のため開発したらしい。
まじでどうしたのお母様こわいんだけど…
私が学校に行ってる間に何を開発してるのよ…
他にも防御用として大砲なんかも備え付けられていて、弓兵は殆どが鉄砲に置き換わったと言う。
「逆に王国軍も帝国軍も旧態依然の騎士道精神とやらのままだわ。双方ともに銃であれだけ被害を出していながらね」
これを見なさいと渡された紙をみて私は青ざめた。
アルミナ王国軍の戦死者はすでに1,500人を超えている。
一軍団どころじゃない。
もしこの数が本当なら王国第一騎士団がまるまる消滅するような死者数だわ。
「な、なんで戦線が維持できているんです?こんなに兵士が亡くなっているのに…」
「相手も同じ以上に死んでいるからよ」
あっさりと答えるお母様の瞳に怒りが見える。
「この戦争でこれ以上アルミナ王国民が犠牲になることは無意味よ。あなたはそれを止めるの。
そのために敵将校を徹底的に叩く必要がある。
指揮を執れる人間がいなくなれば、帝国は戦争なんて出来なくなる。
それが狙い、そうすればこれ以上王国民が死ぬこともない」
これ以上アルミナ王国民に被害を出さないために相手の将校のみを殺す。
そのために敵に発見されず、音のしないこのスナイパーライフルを使って敵の将校だけを倒す。
「ミリア、私はあなたを無差別殺人者にはさせないわ。かならず将校だけを狙いなさい」
「…はい、お母様」
「ルーナはミリアについてスポッター…確実に将校を仕留められるようにサポートして。
そしてもし仮に敵地で襲われた時にも必ず2人で逃げ切れるようにミリアを助けてあげて」
「わかりました奥様」
そう言ってルーナはしっかりと頭を下げる。
彼女の茶色の短い髪が揺れる。
「あなたたちには辛い役目を押し付けて申し訳ないけれど、よろしく頼むわね」
はじめは気楽に言い出してしまった戦争に行くという発言。今は後悔している。
でもお父様がいない家を支えるお母様が戦場に出るわけにはいかない。
それに仮に私に何かあってもアイシャがいてくれる。
別に死にたいわけじゃない。
でも私がタリム子爵家を代表して戦場に出るのが最適解なのは間違いない。
「ミリア・タリムは子爵家のために出兵いたします」
「よくいったわミリア。でも絶対に死ぬんじゃないわよ」
バシッとお母様に両肩をたたかれて私の覚悟が固まった気がした。
出発は3日後に決まった。
私とルーナはこれから必要な装備を整えて前線に向かうことになる。




