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1 その巻物は喋るようです。

duolingoで、巻物は喋らないというラテン語を見て、巻物が喋ったら面白いよねということで書きました。

広げた巻物、じゃなかった風呂敷を閉じられるよう頑張ります。


「どうして、俺で、殴るんだあああ! 俺は棒じゃねえ、巻物だッ!」

 私は手の中で呻く声を無視して、巻物を手に上段の構えをとった。多少短いが仕方がない。

「やあッ!」

 私が棒代わりに振った巻物は、巨大な蜘蛛の堅そうな頭に命中した。

 そしてそのまま土煙を上げながら崩れていった。

「痛いじゃないか!」

「あなた痛覚あるの? そんなことよりも、今のうちに逃げなくちゃ!」


 厚みのある雲に隠された、おぼろげな月明かりだけが照らす仄暗い道。

 石ころだらけで足下の悪い川岸を進む。

 湿った地面からひたひたと冷気が上がってくる。

 どうして私は草履なんて履いているのだろう。

 どうしてこんな死に装束のような薄い白い衣装を着ているのだろう。

 ぜいぜいと荒い息をなんとか整えながら、私は改めて今の状況を考えてみようとした。

 

 いやまて、それよりも。

「何で巻物がしゃべっているの!」

「今更かよ!」

 今更です。

「これじゃ落ち着いて話ができねえ。悪いけど手を離して俺を置いてくれる?」

「汚れない?」

「そこは気にしなくて大丈夫」

 私は巻物を湿った土の上に置いた。

 巻物を留めていた紐がしゅるっとほどけ、くるくると広がった。

 なんだか悪代官に帯をほどかれる着物の人みたいだなと、場違いなことを考えていると、広がった面に青白い図形が浮かび上がった。

「……もたらせしものよ……精霊の御名において……」

 低い声が聞こえたかと思うと、一瞬、昼間のような暖かい光に包まれた。

「結界を張った。これでしばらくは大丈夫。で」

「で?」

「お前、何者だ」

 ここはどこ、わたしはだあれ。

「私もよくわからい」

 広がっている巻物が、一瞬ガクッとしたような気がした。

「なんとなく、こんな感じかな、と思っていることがあるんだけど、聞いてくれる?」

「聞いてやるよ。気になるし、第一、時間だけはたっぷりあるからな。俺は」

 私は巻物の方を向き、座り直した。

「まずは、お礼を。助けてくれてありがとう」


 そう、私は気がついたら、このよくしゃべる巻物に受け止められていたのだ。

 谷から、突き落とされたところを。

 びよーんと縦に伸びた巻物が、担架のように広がり、私の激突を阻止してくれた。


「いいって。たまたまそこに俺がいた。それだけだ」

「でも、あなたがいなかったら、そのまま谷底に落ちていたでしょう?」

 人生を終えるなら、もう少しマシな終え方をしたい。

「誰かに呼ばれているな、と思ったの。気がついたらよくわからない服を着せられて、そしてあっという間に突き落とされて。でもその間なんだかぼんやりとしていて、現実味がないっていうか」

「その装束は、セジャの生け贄に着せるものだな。ただ、あんたはセジャの民に見えない」

「生け贄だったのね。その土地のものでないものを、その土地神様に捧げて効果なんてあるのかしら」

「セジャの生け贄は、神に捧げるものではないな。セジャを襲わないでくださいという、魔物に捧げる贄だよ」

 私は魔物の餌になるところだったのか。

「まあ、そいつはさっきのあんたの一撃で伸びてるけどな」

 あの蜘蛛か。最期を蜘蛛の消化器官で迎えることにならなくて本当に良かった。

つづく。

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