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第二話 鏡よ鏡、君は誰?

姉姉(チェチェ)?あぁ、気が着いたのですね!具合はいかがですか?」


 ・・・・・・。

 そこにいたのは細かい刺繍と光沢のある着物の様な服を着た可愛らしい少女が立っていた。

 歳は10歳くらいと言ったところか。

 くりっとした瞳に、ふっくらした頬、どうなってるのか複雑に編まれた焦げ茶色の髪を後ろに垂らしている。


「天使キター」


「えぇっ?」


 素っ頓狂な声を上げ、さっと顔色を青くして辺りを見回す少女は、その場に俺と自分しかいない事を確認すると咎める様に言った。


 「天子様のお使いなんていらっしゃらないではないですか、驚かさないでくださいませ」


 少し頬を膨らませた様にして上目遣いにこちらを見る。

 か、可愛い!

 ビバ天国!こんなかわい子ちゃんがいるなんて!

 思わずガッツポーズを握る。

 そんな俺を訝しげに見ながら、少女は運んできたものや何やらをテキパキと片付けていた。

 だめだ、引き締めなければ・・・こんなんじゃロリコンの変態だと思われて地獄に落とされてしまう。

 体裁だけでも取り繕おうとだらしなく伸びる鼻を覆う様に顎を掴む。

 少女はその不審な行動に気付くと手を止めた。


「やはりどこか頭を打ったのでしょうか?」


 少女は白く柔らかい指を揃え、俺の頬に添えると至近距離から覗き込んできた。

 なんかいい匂いがするー!

 年甲斐もなくドキドキと胸が高鳴る。


「だ、大丈夫だよっ」


 焦って何だか自分の声じゃないみたいに上ずって高い声が出た。

 おいおい、緊張しすぎだろ俺。


「それならばいいのですけど・・・」


 再びごそごそと始めた背中をぼんやり見つめる。

 開いた扉から注ぐ柔らかな陽光に照らされた少女は、まさしく天から舞い降りた天使の様だった。

 再びだらしなく伸びる鼻の下を誤魔化すように見守っていると、ふと、もう一つの人影が目に入った。

 先ほど見たロウソクの隣にある丸い額縁のような物体。

 そこにいつの間にか少女が写っていた。

 こちらはすっとキツそうな、切れ長の目が色っぽい。

 まだ幼いが、あと五年もすれば絶世の美女になりそうな、美しい女の子だ・・・

 ただ、何となく顔がだらしない。

 せっかく綺麗な顔なんだからもっとキリッとすればいいのに・・・


「そこの君」


 そう思って声を掛けようと近づいくと、とある違和感に気づく。

 

(あれ?なんか俺と同じく動いてないか?この子)


「姉姉?」

 

 突然声をあげ、目の前を凝視してブツブツ呟いている俺に、天使ちゃんが訝しげな眼差しを向けてるのを感じる。

 すまぬ天使ちゃん、俺は誓って怪しいやつでは無い!

 が、とりあえず今は確認が先だ。


 試しに手を顔の横で振って見ると・・・やはり向こうも同じ様に手を振っている。


 ・・・・・・・。


 決め顔!・・・しかり。


 アイーン!・・・しかり。


 これならどうだ!変顔!!・・・・・・しかり。


 

 ・・・撃沈orz

 

 完璧!!嘘だろー!?

 それも数秒もずれず!

 そんな事可能なのか?打ち合わせもしてないのに?

 この子とは初対面のはずだ。

 だから、こちらを見て真似しているとしたらどうしたって動作に差が出るはずなのに・・・

 

(なんだろう、とっても嫌な予感がする・・・)

 

 直感的に脳内に浮かんだ疑念に冷や汗が流れる。

 この額縁もどきはテレビのようなものではないのか?

 天使ちゃんの服装やこの部屋の様子を見てると、天国というの所は、決してハイテクで近未来的構造をしていない事が容易に想像出来る。

 つまり、これはスマホのように遠くの人物と会話する為の電気機器では無いという事・・・。

 ではなんだ?

 こんな形で、もっと原始的で、人をそっくり真似をするのが上手な人間を閉じ込められるようなもの?

 ・・・・・・。

 

「あはっ、ははは、何だこれ、まるで鏡みたいだ・・・」


「何をおっしゃってるのですか。それは鏡ですよ?」


「そっかー、鏡かぁ、道理で・・・」


 やっぱ、そうだよねー!

 そんなもの鏡以外ないもん。 

 なるほど、なるほどー!


 と、納得して終わりにしたい。

 否、現実逃避したい。

 これは鏡・・・鏡というのは姿を寸分違わず映し出すものでは?

 あ、そう言えばグリム童話で魔女が「鏡よ鏡よ鏡さん」って鏡が喋ってる事あったし、鏡の中に人がいてもよくね?でもそれは魔法の鏡で、魔法は魔法だから・・・

 ブツブツ言いながら、溢れ出る冷や汗と焦点が合わなくなっていく俺を見て 「やっぱり、悪い気が入ったのではないか?」と、涙目でオロオロする天使ちゃん。


 「鏡・・・だよねぇ?」

 

 しばらく悩んだ挙句、意を決してちらりと鏡を見た。

 血の気が引いて寒気がする・・・おそらく今俺の顔は真っ青だ。

 ゴクンと生唾を飲み込んだ音がやけに大きく響く。

 それでも勇気を振り絞って再び『鏡であるはずのもの』を手にとって覗き込んだ。 


・・・・・・。


・・・・・・・・・。



(なんでえぇぇー!?)


 恐る恐る片目を開けると、そこにはやっぱり先ほどの女の子が青い顔して片目を開けている。

 どう考えても行き着く結果は同じだった。

 そう、つまり、全くもって、全然、完全に信じられんが・・・


 その鏡に映っている美少女は『俺』であるという事だ!



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