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第一話 天国か地獄?

 真っ暗闇で目を覚ます。

 いや、暗闇で目を覚ましたという認識が正しいかもよく分からない。

 目を開けているのか閉じているのか不安になり無駄にパチパチ瞬きをしてみた。


(ここは・・・どこだろう?)


 そんな疑問が出たと同時に最後の風景がふと思い出された。

 そうだ、俺は川に落ちたんだ。

 って事はここは天国?いや、真っ暗だから地獄か?

 天国に行ける様な褒められた人格ではなかったから、まぁ行くなら地獄だろう。

 それでも、死んだ後まで苦しむなんて理不尽だ。


「ごほっ、ごほっ。」


 起き上がろうとして手をついたらむせる様な咳が出た。

 少し離れたところの壁がところどころ歪に光っている。

 

(壁から外の光が入ってきているのか・・・。)


 その隙間から漏れる光を頼りにじいーっと目を凝らしてみる。

 どうやらここは小さな部屋らしい。

 埃っぽい空気と、うっすら見えるごちゃごちゃした箱や家具のような輪郭の影から、おそらく広めの物置の様な場所なのだろうと推測する。

 ゆっくりと起き上がり壁の方に近づくと、光は入ってくる隙間から外を覗き込んでみた。


(・・・・・・えぇぇっ?)

 

 そこはさっきまでいた川辺ではない。

 月明かりだけが頼りの夜だったのに、燦々とまぶしい光がある時点でおかしいのだが、その景色は想像していたものとは明らかに違っていた。

 盆栽でしか見た事ない様な曲がりくねった巨大な松が堂々と茂り、色とりどりの木や花がきらびやかに咲き乱れている。この暗い部屋に光をもたらしているのは大きな池の水面から反射している光らしい。朱に塗られた橋がかかりハスの花の様なものが浮いている。

 庭?いや、公園?まさかもしかして・・・


(や、やっぱり来ちゃったのか?天国)


 ネズミがかじったような小さな穴から見ただけの景色だが、そう思いたくなるくらい美しい景色だった。

 なーんだ天国に来れたのか、俺でも来れるなんて、案外天国の門戸は広いんだな。

 ただ、ちょっと不思議なのは・・・

 隙間から顔を離すと後ろを振り返る。


 (何で、俺はこんな暗くて埃っぽい小部屋に閉じ込められてんの?)


 地獄じゃないだけ良かったが、せっかく天国に入らせてくれたんなら安穏で極楽な生活を享受させてもらいたいものだ。

 

(とりあえずここから出なければ!)


 暗闇に目が慣れて来たのか、部屋の中がよりはっきり認識出来た。

 さっきまで自分が寝ていた場所には畳のようなものが敷いてあり、他に膝丈くらいの箱の様なものが横に並んでいる。

 箱の上にあるのはランプ?いや、ロウソクだ。

 やった!

 とりあえず明かりをつけようとした。が、ライターがない。


(・・・んん?)


 胸ポッケを探ろうとして初めて自分が仕事帰りのスーツで姿ではない事に気付いた。

 どうやらふわふわした浴衣のようなものを着ている。

 そしてなんだろう・・・

 暗闇で自分の身体をポンポン触っていく。

 なんだか、とてつもなく違和感があるのはなんでだ?


 そんな違和感に頭を捻っていると、ガタガタと壁が揺れだした。

 それは壁ではなく扉だったらしい。

 カタンと閂の外れる音が聞こえ、ギギギと小さく軋みながら観音開きに開く。

 真ん中に出来た細い光の線が大きくなると、眩しいくらいの陽光が身体に降り注いだ。


(誰だ?誰かいる。・・・小さい・・・子供?)


 強烈な逆光で眩しさに耐えきれず目元を覆う。

 扉を開けたのが何者かを見ようと、片目を目を細めながら黒い影を確かめる。


姉姉(チェチェ)?」


 その影は鈴がなるような透き通った声でこちらに呼びかけてきた。



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