プロローグ
街の中心から少し離れた所にある館。
長い間手入れされておらず、植物の蔦が絡み付いている。窓は割れ、カラスが集団で屋根に止まっている。
その館は、近所の住人にその容姿から「幽霊屋敷」や「魔女の館」と不気味がられ、誰も近づかなくなった。
そんな寂しい場所に、数年ぶりに足を踏み入れる二人の人間がいた。
一人は、長い髪と高い身長が目を引く、黒のスーツを着た男。
もう一人は、同行者との身長差が30cmがありそうな小柄な少女。
二人とも深刻そうな表情を浮かべている。
来訪者が歩くたびに、弱くなった廊下が軋む。
「・・・此処は、いつ来てもいい気がしないな。全く、彼は何を考えているんだ?」
自分のスーツにかかった蜘蛛の巣を払いながら、男の方が眉をひそめる。
「“ゼイキン対策”じゃない?」
それに少女が答える。
「・・・・・・それは、意味を分かってて言ってるのか?」
「・・・・・・・・。」
少女はその意味を分かっていなかったらしく、押し黙ってしまう。
その場には、暫らく沈黙が訪れた。
「・・・・・・この世には、絶対に犯してはならない三つの禁忌がある。一つ目は、魂、肉体、足跡をそれ以外の目的なしに故意に傷つける行為。二つ目は、直接手を下さなくてもそうなるように仕向ける行為。そして、三つ目は―・・・・。」
男が突然、しかし前から切り出そうとしていた話題を慎重に持ち出す。
「それは聞き飽きたわ。そんなに言わなくても、分かってるわよ。」
男がそう言うと予測していたらしい、少女はバサリと切り捨てる。
「しかし、ノア、君は現に―・・・・・・。」
「いいの。分かっててやってるもの。」
ノアと呼ばれた少女の意思は固いようだ。
「あいつは、危険だ。君が今やっていることが終わればどうなるか分かってるのか?」
「・・・・・・分かってる。」
「では何故―・・・・?」
「大丈夫。大丈夫よ。心配しないで。」
彼に言うというより自分に言い聞かせているような口調だ。
「絶対、うまくいくんだから―・・・・・。」
言いながらノアは引き出しの鍵を開け、中の瓶を取り出し、そのまま男を残してその場を立ち去った。
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分かってるわよ。無謀だってこと。
でも、こうするしかないの。
こうしなきゃ、あの人は取り戻せない。
私には、もう居場所がないのよ。
還る場所 が 見付からないの
to be continued...
初投稿します。
よかったらお付き合いください。感想待ってます!