夢の返却
朝起きると、昨日より前が思い出せない。
とうとう最後の日が来たようだ。
リビングに行くと、ユリとソウが心配そうな顔をして待っていた。
「今日は何日にゃ?」
少し微笑んだユリが答えてくれる。
「今日は12月31日よ」
「わかったにゃ」
なんだか泣きそうになり、一旦部屋に戻ることにした。
部屋で私物の入った袋を確認していると、キボウが来たらしい。
「ユメー」
「入って良いにゃ」
「ユメー、だいじょぶ?」
「心配してくれてありがとにゃ。キボウ、これ受け取ってにゃ」
「なにー?」
「私の日記が入っているにゃ。ユリかソウに、明日以降に渡してにゃ」
「わかったー」
「他に、ユリに買ってもらったお皿が入っているにゃ。キボウにあげるにゃ」
「いーのー?」
「貰ってくれると嬉しいにゃ」
「わかったー。ありがとー」
この皿は、ココナツ食器店で買ってもらったものらしい。長細い横向きのハートのような形で、螺鈿細工で世界樹様と初代様が描かれている。
「リビングに戻るにゃ」
「わかったー」
私は用意してあった紙袋を2つ持ち、リビングに行った。
「ユリ、これ受け取ってにゃ」
「え?」
「ソウ、これ受け取ってにゃ」
「なに?」
「私の日記に書いてあるのにゃ。12月31日に、ユリとソウに渡す。ってにゃ」
2人は慌てて紙袋を覗き込み、物凄く驚いた顔をしていた。
「その日記に書いてあるままを伝えるにゃ。
私はこの時代に生きるべきではないが、あまりにも心地よい。しばし、ユリとソウに甘えよう。そして去り際には、痕跡の1つも残すことなく、潔く旅立とう。にゃ」
その日記は、キボウに渡してある。今読み上げたのは、ちょうど1年前の日記の記述だ。
「え、ユメちゃん、どこか行っちゃうの?」
「どこにも行かないにゃ。本来あるべきところに帰るのにゃ」
ユリが泣きそうだ。だからこそ、私は泣かない。
「私はずっとユメちゃんと一緒に居たいよ」
「ユメ、俺はユメは家族だと思っているよ」
私も一緒にいたいけどね。
「今日1日頼むにゃ」
私が微笑むと、ユリが更に泣きそうな表情をしていた。
「ユメー、ごはん」
キボウが、張り詰めた空気を壊してくれた。
「キボウ、お腹空いたのにゃ?」
「あ、ご飯にするわ。ユメちゃんも食べるわよね?」
「ありがとにゃ」
どうやら、みんな食べずに待っていてくれたようで、キボウだけでなく、ユリとソウも、今から食べるらしい。
黄色っぽい色のスープと、昨日作ったパンが並べられた。昨日食べきれなかったパンで、食べてみたかったものから食べてみることにした。そう言えば、なんでパンを作ることになったのかな。でも、どのパンもとても美味しい。
「美味しく出来て、良かったのにゃ」
「ユメちゃんとても上手だったわよ」
「ユメの作った黒糖クリームパン、旨いな」
黒糖クリームパン? それ、私が作ったの? 聞いても良いかな?聞かない方が良いかな。
ユリがお茶を取りに席を立った。
「ユメ、俺が作ったパンも食べてみてくれ」
「ありがとにゃ。ソウ、なんでみんなでパンを作ったのにゃ?」
「リラがパンを作ってはどうかって提案したんだよ」
「ありがとにゃ」
ソウのパンは、色々のっていてなんだか面白い。
「ソウ、いろんな味がして美味しいにゃ」
「そうか。そりゃ良かった」
ソウがニコニコと喜んでくれた。ユリが戻ってきた。
「ユリが作っていたパンも食べたいにゃ」
「どうぞ。クルミとメイプルシロップを巻き込んであるわ」
これは、まだ覚えている。ユリが楽しそうに作っていた。
「どーぞー。キボーのー」
キボウは、甘い匂いのパンをすすめてきた。
「それは、イチゴジャムを巻き込んで、イチゴ味のアイシングがかかっているわ」
全部食べてみたい。ちぎって、少しずつ食べてみた。
「みんな美味しいにゃ」
「作って大正解だったわね」
「リラに感謝なのにゃ」
パンを食べられるだけ食べて、お腹いっぱいになった。
食後は、少し休んでからゲームをすることになった。たぶん、私が忘れているだけなんだろうけど、ソウが丁寧にゲームのルールを教えてくれた。
私としては、今日覚えたばかりのゲームだけど、なぜか、何度もユリに勝った。1番いっぱい勝っていたのはソウだけど、私よりユリは弱かったのに、ユリはなぜかニコニコしていた。
お昼ご飯は、クリーミーな麺料理だった。なんだかコクがあって美味しい。
「美味しいにゃ!」
「よかったわ」
ソウとキボウは何も言わずに、こちらを見てニコニコしながら食べていた。
食休みをしてから少しして、散歩に行く事になった。
外の景色は、空気が澄んでいて、遠くまで見渡せそうな冷たさだったけど、気持ちが良かった。
家に戻って少しすると、「ゆうはん」だと言われた。知らない料理が出され、食べてみるとどれも美味しかった。
またゲームでもするか?とソウから聞かれ、良くわからなかったけど、うなずいた。
カードを使った簡単なゲームだった。裏返してある同じカードを探すものだ。
なんだか眠い。
だんだんカードがわからなくなってきた。
とにかく眠い。
「少し疲れたのにゃ」
「ユメちゃん?」
ユリが不安そうにこちらを見ていた。
あ、私は感謝を伝えなければ。
「ユリ、ソウ、キボウ、いつも一緒にいてくれてありがとにゃ。おかあさま、私を生んでくれて ありがとう」
最後まで言えた。
私は意識が遠退き、なんだか体が楽になった。
寝ている私のそばで、ユリが私が起きるのを待っている気がする。
早く起きなければ。
私は立ち上がり、ユリとソウとキボウに笑いかけた。
遠くから、おかあさまが優しく私を呼ぶ声が聞こえた気がした。
次回 2月14日です。




