夢の好物
朝ご飯を食べながら思い出していた。昨日作った蒲鉾は、今食べている茶碗蒸しに入っているのだ。みんなが、私の作った蒲鉾を食べてくれている!
「昨日の蒲鉾作り、楽しかったにゃ」
「今日も何か作る?」
「作りたいにゃ!」
また、何か楽しい物を食べたり作ったり出来るみたい!
「あの、私ここに居て良いのですか?」
リラが、私のわがままで昨日も泊まってくれた。引き留めたのが私だったから、ユリに確認したかったのかな?
「リラちゃんの予定がないなら構わないわよ」
「今年は実家なので、特に予定もないです」
問題なさそうで良かった。ちゃんと、用事がないかは確認したからね。
「何が良いかしらね」
「陶芸やったし、俺は思い付かないな」
「そうねぇ」
ユリとソウが考えてくれているけど、良い案が思い付かないみたい。出来れば、今日中に終るものが良いな。でも、良い案がなくたって、みんなでワイワイしていれば楽しい。
「あの、パンを作るのはどうでしょう? 以前ユリ様が仰った、メロンパンやクリームパンなど、お話に聞く限りでは、今日中に出来そうですし」
リラが楽しそうな案を出した!
「それが良いにゃ!」
「ユメちゃんが作りたいならそれにしましょう」
ユリもすぐOKしてくれた!
「つくるー、つくるー!」
キボウもニコニコで、参加してくれるみたい。
「パン生地からこねる? 生地を作って、仕上げを楽しむ?」
ユリがわざわざ確認するのは、大変な作業なのかな?
「私に出来そうなところからが良いにゃ」
「だったら、パン生地は機械でこねて、みんなで仕上げを楽しみましょう。計量は一緒にお願いね」
「わかったにゃ」「はーい」「わかったー」
笑顔で聞いていたソウが、ユリに買い物を聞いていた。足りないものは、買ってきてくれるらしい。
ユリの手書きのノートを見て、粉や砂糖やバターをたくさん量った。量りながらリラが、猫型食パンと、配合がずいぶん違うんですねえと話していた。これはリッチタイプだからねとユリは答えていて、なんのことか聞くと、バターや卵がたくさん入る生地のことを、リッチと表現するらしい。粉以外の物が多いと、パンが柔らかく仕上がるんだって。
量り終り、ユリとリラが仕込んでいる間に、私は洗い物をしていたんだけど、本当は時間がかかる発酵と言う作業を、キボウが魔法で終らせてくれたんだって。キボウ、凄いね!
「まず、メロンパンは、こちらのクッキー生地を上にのせて焼きます。イチゴジャムを入れたジャムパン、あんこを入れて塩漬けの桜花を飾ったこしあんパン、芥子の実を飾った粒あんパン、コーンとマヨネーズをのせて焼くコーンパン、シナモンとグラニュー糖を巻き込んでつくるシナモンロール、他にも作りたいものがあったら相談してください」
たくさんのパンがのっている綺麗な紙を指差しながら、説明してくれた。とてもわかりやすい。大きな丸いパンが、美味しそう。たしか、メロンパンと呼んでいた。
「メロンパン作りたいにゃ!」
「はい。では、メロンパンから教えます」
パン生地を丸める作業が難しそうだなと思ったけど、やってみると、簡単に出来た。
「予想より簡単に出来たにゃ」
「肉まんとお餅で鍛えましたからね!」
「そうなのにゃ?」
「はい。ユメちゃんも、上手でしたよ」
リラによると、似た作業を、過去にたくさん経験したらしい。
見せてくれた絵のメロンパンより、かなり小さい気がするなと思っていたら、パンはこの後膨らむんだって。でも、色々食べられるように、小さめに作っているとも説明してくれた。
模様を付けるのに、ナイフの背を使うと説明されたけど、危険だと言って、私とキボウには、定規のようなものが渡された。ナイフの背を使うと、刃が自分の方に向くから、怖いなと思っていたので、ありがたいね。
「はい、次は、あんパン、ジャムパン、クリームパンを教えます」
ユリは1番難しいらしいジャムパンを教えると、何か違うものを作っているようだった。
「ユリ、何作ってるにゃ?」
「うふふ、かめろんぱん」
聞いてもわからないや。
「なんにゃ?」
「本体がメロンパンで、頭や手足が、クリームパンやジャムパンなのよ」
手足? あ、わかった!
「亀とメロンパンにゃ!」
「正解!」
なんか面白そう。私もそういうの作りたいなと思ったら、リラが作るみたい。
「ソウは何作ってるのにゃ?」
「3色パン」
あんパン、ジャムパン、クリームパンをくっつけただけに見えるけど、そういうパンがあるらしい。
「キボウは、何作ってるにゃ?」
「わかんない」
本人もわからないものを作っているらしい。
私は中にカスタードクリームが入ったメロンパンを作ってみた。
「良い時間なので、メロンパンを焼きます」
最初にみんなで作ったメロンパンを焼くらしい。
「楽しみにゃ」
「次は、調理パンを作りましょう」
コーンにマヨネーズをかけるだけの、簡単なものを教えて貰った。お皿みたいにパンを平たくして、その上にのせるだけで、とても簡単!
「カレーパンも作りましょう。過剰なくらいしっかり閉じることが重要です。油の中で破裂すると、かなり跳ねて危険です」
カレーを中に入れ、言われた通りにしっかり潰すようにして、中身が出ないように作った。その後の仕上げは、ユリがしてくれた。パンにパン粉を付けているのが、なんだか面白かった。
オーブンのタイマーが鳴り、メロンパンが焼き上がったらしい。
「温かいうちに、メロンパンを食べますか?」
「食べたいにゃ!」
片手サイズのメロンパンは、凄く美味しくて、あっという間になくなってしまった。もう少し食べたいな。
「シナモンロールは、1個では作れないので、まとめて作ります」
ユリが作り方を説明しながら作っていき、応用できるから覚えてねと言っていた。
「カレーパンを油で揚げます。適度にひっくり返しながら、両面綺麗な色が付くまでしっかり揚げたら、網の上に取り出します」
揚げたてが配られたけど、メロンパンと違って、なかなか冷めなくて、食べるのが大変だった。でも、これもとても美味しい。
「一通り教えたので、残りの生地は、好きなものを作ってください」
私は早速、メロンパンを量産した。
悩んでいたキボウが、ユリに何かを聞きに行って、戻ってきたら、パン生地に切り込みを入れていた。そして平らに伸し、イチゴジャムを塗っていたのだ。
ユリは、調理パンとシナモンロールを焼いた後、シナモンロールの作り方で、胡桃とメイプルシロップを使い、特製くるみパンを作っていた。私も何か違うのを作りたい。
「ユリ、私も何かオリジナルを作りたいにゃ」
「入れたいものとか、味とか、作りたい形とかある?」
そう聞かれてもわからなかった。
「私、何が好きだったにゃ?」
「黒蜜とか、こってり料理とか好きだわね」
「にゃー」
聞いても、答えが出てこない。
「黒糖で、カスタードクリームを作ろうか?」
「良いのにゃ?」
「勿論よ。すぐに作るから少しだけ待ってね」
「ありがとにゃ!」
ユリが私の好きなもので、美味しそうなものを作ってくれるらしい。出来た茶色いクリームは、ユリが魔法で冷ましてから渡してくれた。
「ユメちゃん、それ、美味しそうですね」
リラが声をかけてきた。
「ユリが中身を作ってくれたのにゃ」
「後は、模様でも付けたら、完全オリジナルになりますね」
「どうやって、模様を付けるのにゃ?」
「例えば猫の模様なら、クッキーの型に、ココアでも付けて、軽く押せば、猫模様がつくと思います」
「それ良いにゃ! リラ、ありがとにゃ!」
「どういたしまして」
リラは、キボウみたいに四角く伸していた。
「リラのは何を作っているのにゃ?」
「明日食べたいパン?」
「なんで疑問系なのにゃ。何が入っているのにゃ?」
「コーンと、ほうれん草です」
「美味しそうにゃ」
ユリはオーブンの前からみんなを見ているみたいで、ニコニコしていた。
ソウは何だか具をたくさん載せて作っていた。
ユリとリラが作っていた亀だけど、ユリは2つ作っていたみたいで、私とキボウにくれた。リラは、持ち帰る予定みたい。
特製黒糖クリームを入れたクリームパンが焼き上がったと、ユリに呼ばれた。
「猫が、大きくなったにゃ!」
小さなクッキー型で付けた猫は、パンが膨れて大きくなっていた。
焼き上がったコーンパンを食べたら、コーンとマヨネーズくらいしか使っていないのに、本当に美味しかった。ちょっと不思議。
「今食べない分は、鞄に預かるわよ」
「あー、そうか、パンだから明日には固くなっちゃうのか」
リラは今気づいたのか、残念そうに呟いていた。
「あなたは、預かる鞄に入れれば良いわ」
ユリはそう言って、キボウからリュックサックを受け取り、リラに渡していた。
美味しそうな個人で作ったパンは、みんなで1つずつ交換した。ステンレスのトレーに並べ、ユリはそのまましまっていた。いつでも出してくれるって。




