夢の果物
「ユリ、今日も早く開けるのにゃ?」
「私的には、13時オープンなんだけど、きっと早くから並ぶわよねぇ」
「並ぶと思うにゃ」
「でもどんなに早くても、9時前には開けないわよ」
「わかったにゃ。9時に間に合うように行くことにするにゃ」
「ユメちゃん、お願いね」
朝ご飯の時に、今日の予定を確認した。
座っているので、体力的には疲れず、あまりお腹は空かないけれど、精神力や気力はごっそり持っていかれるらしく、体は重い。
何か、癒されるものを用意しなければ。
「ユリ、昨日のクズキリが、又食べたいにゃ」
「わかったわ。10時頃出すわね」
「ユメー。キボー、みずやりー。ユメー、やすむー」
私が少し疲れているように見えたのか、キボウから、植物の世話はキボウが1人でするから休んでいるようにと言う意味だろう事を言われた。
「キボウ、ありがとにゃ。少し休んでから、お店に行くことにするにゃ」
「わかったー」
私は、なるべく相手を判断できるようにと、過去の日記を読み返していた。
ところで私は、なんでお別れ会をしているんだろう?
早速日記を読み返すと、11月23日に来たらしい、ソウの妹と言う相手がわからなくて、お別れ会を開催して欲しいと、自分からユリに頼んだようだ。
どうやら私の記憶は、11月すら忘れてしまったらしい。
以降、お店を手伝うのは無理そうだな。と思った。忘れた物事が多すぎて、誰かに迷惑をかけてしまうかもしれない。
8時45分、そろそろお店に行って、準備でも手伝おうかなと階段を下りた。
「もうみんな居るのにゃ!?」
メリッサは居ると思ったけど、イポミアやリラも居た。
「おはようございます!」
「おはようにゃ」
さすがにイリスは居ないなぁと思っていると、ユリが声をかけてきた。
「ユメちゃん、今日は、リラちゃんがユメちゃんの助手をする予定よ」
イリスの代わりを探してくれたんだと、ホっとした。
「リラ、頼んだにゃ!」
「はーい。よろしくお願いします」
椅子の場所を直していると、なんと、イリスが来たのだ。
「おはようございます。ギリギリ間に合いました」
「おはよう。無理しなくて良いのよ。イリスさんありがとう」
ユリすらも、イリスに無理しなくて良いと言っている。
「いえ、途中からの方が大変なので、今日は最初から間に合うように来るつもりでした」
イリスはこっちを見ると、ニコッと笑ってから、着替えに行った。
「おはようございます」
なんと、シィスルまで来た。
「おはよう。シィスルちゃんどうしたの?」
「リラさんがろくに動けないと思いますので、少しお手伝いに参りました。私が9~12時まで。マリーが12~3時まで。リナーリが3~6時までお手伝いに来る予定です」
凄い。今日はみんな大集合なのかな?
マリーは多分マリーゴールドの事だと思うけど、リナーリって誰かな? 本人が来る前に聞いておいた方が良いよね?
「リラ、今、シィスルが言った、リナーリとは誰にゃ?」
「リナーリは、ミア姉、イポミアさんの末の妹です」
「ありがとにゃ」
9時ぴったりに開店になった。
私は見ているだけだけど、すぐ満席だ。
「ユメ様、ユメ様に会いに参りました」
「どうもありがとにゃ。この中から、好きなお菓子を選んでにゃ」
「ありがとうございます。ユメ様は、もう戻られないと聞きました。訳を伺ってもよろしいでしょうか?」
「一番は、世界樹様との約束にゃ。あとは、もう年なのにゃ。物忘れが酷すぎて壊滅的なのにゃ」
「そのようなご事情だったのですね」
「もしかして、遠くから来たのにゃ?」
「はい」
はいと返事をされた瞬間リラを見たけど、リラは心当たりがない人らしい。
「どこから来たのにゃ?」
「これは失礼いたしました。私は、果物の農園をしておりまして、ユメ様も、2度ほどお越しくださったことがございます」
「覚えていなくてごめんなのにゃ。私の記憶は、既に今年の11月が失われているのにゃ。ソウの妹すらわからなかったのにゃ」
リラを含めた全員が、二の句が繋げなくなっていた。
「キボー、きたー」
タイミング良く、キボウが来てくれた。
「これはキボウ様、ご無沙汰しております」
「ごぶさ?」
「キボウ、久しぶりって意味にゃ」
「わかったー。パイナップルー、バナナ、ピターヤ!」
「はい。その農園です」
最初はユリとソウとキボウと4人で行って、2度目は、ユリとソウの結婚のお祝いの果物を選ぶために、キボウと2人で行ったらしい。
「プレゼントはお受け取りにならないと伺ってはおりますが、いらした時に、ライチがお好きだと話されていたので、少しお持ちしました。よろしければ、おやつにお召し上がりください」
「どうもありがとうにゃ。リラ、渡せるお菓子を、全種類お願いにゃ」
「はい。こちらをどうぞ」
リラは既に用意していたらしく、さっと渡してくれた。
「ありがとうございます。お次の方に、お席を譲りますね」
「来てくれて、ありがとうにゃ」
空いた席に移っていった。
「ユメちゃん、ライチは冷やしておきますね」
「ありがとにゃ」
リラが持っていこうとすると、キボウに両手を出され、全て渡していた。キボウがしまってくれるらしい。
ユリから葛切りが届いた。キボウも一緒に食べるらしく、2人前有る。
頼んで良かった。本当に美味しい。
その後も、キボウはたまに来て、小さい子供にだけ、リーフパイを配っていた。大人しか居ないときは、店内をふらふらしている。
時計が11時を指したとき、マリーゴールドがキボウを迎えに来た。
ふと、店内で騒がしい一角があるのを見つけた。イポミアが何かお客から聞かれて、イリスに交代し、それでも解決しないのか、ずっと困ったように話しているようだった。イポミアもおたおたしてその場にとどまっている。
「お母さん、大丈夫かなぁ?」
「レモンの香りがする酸っぱくない飲み物って言ってるにゃ」
「ユメちゃん、あれ聞こえるんですか!?」
「イリスが、レモンシロップを入れた飲み物ではダメでしょうか?と言っているにゃ」
「ユメちゃん、凄いです」
「全部は聞こえないけどにゃ。大体聞こえるにゃ」
「ユメちゃん、耳が良いんですね!」
少しして、メリッサがそこへ近づき、条件にぴったりのハーブティがあると説明していた。
「なら、それを貰うよ」
「かしこまりました」
「あ、メリッサさん、俺もそれ飲みたい」
「こっちも!」
どんどん頼まれていた。
「値段を含め、確認してきます」
メリッサは、厨房へ確認に行ってしまった。
「なんとかなったみたいですね」
「良かったにゃ」
注文した人に出したあと、私とリラに確認に来た。
「ユメちゃんとリラは、冷たいのが良い? 温かいのが良い?」
「私は温かいのが良いにゃ」
「私は冷たいのを飲んでみたいです」
すぐに持ってきてくれたそのお茶は、透き通った美しい黄色いお茶だった。
「甘味があって、美味しいにゃ」
「あれ? これって、バタフライピーティが濃くなった感じに似てる? あ、そうか、材料、レモングラスか!」
「何かわかったのにゃ?」
「お茶は、濃いめに入れると、別物になると言うことがわかりました!」
次に席に座る人が来て、話を始めた。




