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クロネコのユメ  作者: 葉山麻代
◇私はユメ◇

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夢の宝石

今日からお店の仕込みをするらしいけど、ユリは手伝いは要らないと言っていたので、ちょうど良いと城に行くことにした。


一人で行けなくもないけど、今の転移して良いポイントがわからないので、ソウに聞いてみた。

前回行った私の肖像画があった広間は人が出入りするので、転移に使った部屋が一番危険がないらしい。

ただ、廊下を歩いてから気がついたので、あの部屋の場所が正確にわからなかった。


ソウに一緒に来てもらい、あの部屋に再び転移して貰った。

しっかり見ればわかる。

ここは王族の居住区だ。

ソウは、王族の居住区に部屋を貰っているらしい。

それならば、私の部屋へは隠し通路を使って移動しよう。


「ソウ、この部屋を貰っているということは、王族か、それに準じるものにゃ」

「まあ、そうだな。ユメに隠してもしょうがないから言うけど、立場は今の王族より上だ。でも基本的な王族特権を全て放棄して、この部屋は移動のためだけに使っているよ」

「なら、隠し通路を通っても大丈夫にゃ?」

「隠し通路とか有るのか!?」

「それは知らされていないのにゃ?」

「聞いたけど、本気で知らなかったみたいだったぞ?」

「今は使えないのにゃ?・・・試してみるにゃ」


覚えている隠し通路を開けるため、壁の模様を何ヵ所か触った。

小さな模様の花が淡く光り、壁がドアのように開いた。


「おー!ユメすげー!」

「ソウも覚えればできるにゃ」

「後で教えてくれ!」

「とりあえず行くのにゃ」


薄暗い通路に入り、ユメは壁を閉めた。

手元の魔道具に触れると、通路に明かりが点る。


「あの明かりは魔道具か?」

「入り口付近に魔力を流す場所があるにゃ。魔力を流すと明るくなる魔道具にゃ」


ユメは記憶を便りに進んだ。

ソウはキョロキョロとし、ユメに色々質問してくる。


「他にも隠し通路はあるのか?」

「有るにゃ。でも、全部は知らないにゃ」

「誰に教えて貰ったんだ?」

「人から聞く訳じゃないにゃ。まあ、部屋に行けばわかるにゃ」


ユメが立ち止まる。


「どうした?」

「にゃー。もしかすると、王妃がいるかもしれないにゃ」

「出口にか?」

「忘れてたにゃ。(当時)王妃はいなかったからにゃ」

「他に道はないのか?」

「仕方ないにゃ、階段上るにゃ」


ユメは道の先にある階段を上った。

5階分位上がっただろうか、少し明かりが見えた。


「着いたにゃ。疲れたにゃ」


ユメが明かりの漏れる扉を開けると、そこは塔の中だ。


「これ、もしかして開かずの塔の中か?」

「にゃ?そんな風に呼ばれてるにゃ?」

「ここに来たばかりの頃に案内で、入り口がわからない塔で初代陛下の隠し部屋があったとされていますって聞いたぞ?」

「合ってるにゃ。隠し通路か王妃の部屋から転移でしかいけないにゃ」

「転移で行けるのか?」

「詳しくいうと、ゲートと転移にゃ。決まった場所からしか転移できないにゃ」


「もしかしたら俺なら行けるのか?」

「わからないにゃ。帰りに試してみると良いにゃ」

「なるほど、帰りに試せば良いのか」

「さ、ここが隠し部屋にゃ」


外が少し見える場所で、ユメが扉を開いた。

4畳ほどの小さな部屋で、机と扉のついたタンスのようなものと、書棚があった。


ソウが書棚の本をとろうとしたら、弾かれた。


「うわ!何か弾かれた!」

「弾かれたのにゃ? まだ結界が残ってたのにゃ」

「結界なのか?」

「ソウ、魔力登録してないのにゃ?」

「魔力登録?」

「帰りも試さない方が良いにゃ。登録してないなら使えないにゃ。この部屋もソウ一人では来られないにゃ」

「そうなのか!? ユメ、偉かったんだな」

「王様やってたこともあるにゃ」


ソウは笑ってその辺を見てまわりだした。


「あまり触らない方が良いにゃ」

「持って帰るものはあったのか?」

「こっちに有るにゃ」


ユメはタンスのような家具の扉を開けると、中にある引き出しから宝石を取り出した。


「凄いな!エメラルドか?」

「これは個人の持ち物にゃ。国の宝石は恐らく王妃の部屋にあると思うにゃ」


豪華なエメラルドの首飾りは、ユメ(ルレーブ)の母が輿入れのとき持ってきたものだ。つまり母の形見なのだ。


「揃いのイヤリングと指輪もあるはずにゃ」

「見ても良いか?」

「構わないにゃ」


ソウはユメがあけた引き出しを覗き込んだ。

エメラルドのほかにも色々な宝石があった。


「このタンスは魔道具なのか?」

「タンス? これは魔道具にゃ。時を止める効力があるにゃ」

「ユメ、そのピンク色の石は使わないのか?」

「ピンクダイアモンドにゃ。欲しいのにゃ?」

「いや、俺は要らないけど、百合のルレーブの色だと思って」


ユメは少し考えて、ピンクダイアモンドも持ち出すことにした。


「ソウ、タンザナイトって、どんな宝石にゃ?」

「ん?ユリの好みか? ここにはなさそうだけど、ユリは透明感のある青とか青紫が好きなんだよ。まあ、宝石は持ってないらしいけどな」

「そこは、ソウが贈るべきにゃ」

「・・・返す言葉もありません」


ユメは、ブルーサファイアの豪華なペンダントをソウに渡した。


「何かのとき、ユリの正装に使うと良いにゃ」

「お、おう。預かっておくよ」


そのペンダントの宝石は、ユメの目の色に良く似ていた。


ユメは、資料といくつかの宝石を持ち出した。


「ソウ、帰るにゃ? どこか寄るにゃ?」

「あ、うちじゃメンテナンスできないからパープル邸に寄ろうかと」

「わかったにゃ。最初の部屋まで戻るにゃ」


転移を試さず、階段を降りた。

王宮のソウの部屋からパープル邸に直接転移した。

いつものごとくハンドベルを鳴らし、駆けつけたメイドに婦人を呼んでくれるよう頼んだ。


ローズマリーはすぐに来て、宝石を預かりメンテナンスしてくれると言っていた。

エメラルドの首飾りは肖像画にも描かれていて、行方不明の扱いだったらしい。


「あ、わるいけど、これも頼める?」


ソウは預かったブルーサファイアのペンダントもローズマリーに渡した。

他に必要なものについて話していると、執事が、ローズマリーを急ぎの用だと呼びに来て、ローズマリーは行ってしまったので、メイドが急いでお茶を取りに行った。


「あ、ユメ、まずい、もう昼ご飯の時間だ」

「急いで帰るにゃ。ユリが心配するにゃ」


ソウはハンドベルを鳴らし、急いで帰ることをメイドに伝え、すぐに転移した。


店の2階のソウの部屋に戻ってきた。

ソウの結界があるため、ユメは自分の部屋にいきなり戻ることができない。


「何でソウの部屋だけ結界がないにゃ?」

「めんどくさかったから?」

「にゃー!酷い理由だったにゃ」

「さあ、急ぐぞ」


二人で急いで階段を降りた。

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