夢の説明
「王妃殿下がお見えになりました」
「お入りください」
入ってくるなり、ハイドランジアはハイテンションだった。
「美容ジュースが持ち込まれたのですか!?」
「ユリが作ったのを持ってきたにゃ」
私を見て、少し驚いていた。
「ユメちゃん、ユリ様の、なのですか?」
「ジュースを知っているということは、今までどうしてたのにゃ?」
「ローズマリーが、ごく少量を持ち込む以外、作り方も原料も、謎に包まれておりました」
「ユリが、ローズマリーから材料をたくさん分けて貰ったって言ってたにゃ。これは、赤紫蘇という植物を煮出して作るのにゃ。葉っぱを洗うのを私もキボウも手伝ったのにゃ。6人くらいで洗ったのにゃ。大変だったにゃ」
「たいへん、たいへん!」
ありがとうございますと言いながら、ハイドランジアとアネモネが頭を下げていた。
「成る程、ローズマリーが作らせていたのですね」
「たぶん、教えたのはユリにゃ。ユリは、パールホワイト伯爵の屋敷で、サンフラワーにも教えていたにゃ。リラと一緒に教えに行ったのにゃ。ホワイト侯爵からの依頼だったらしいにゃ」
「なぜ、ホワイトは知っていたのでしょうか?」
「夏休みに遠足に行ったのにゃ。洞窟と滝を見に行ったのにゃ。その途中に、赤紫蘇が生えていたのにゃ。少し分けて貰ったからソウがホワイト侯爵に報告したのにゃ。それで、何に使ったのか、サンフラワーから代理で問い合わせがあったらしいにゃ」
「その様なことが!?」
ちなみに、ホワイト侯爵は、すぐに赤紫蘇を探させたが、農民すらも雑草と思っているので、探し出せないでいる。ユリは洗った赤紫蘇を持ち込んだので、パールホワイト家で作ったのを見ていたメンバーも、生えている姿は確認しておらず、ホワイト侯爵に頼まれて現地を歩いてみたが、探せなかったのだ。
「ハイドランジアの分も持ってきたにゃ」
「え?」
「希釈して飲むのにゃ」
減っていないボトルを1本渡した。
「3~5倍に氷水で割って飲むのにゃ」
「え、こんなにいただいてよろしいのですか?」
「3本持ってきたにゃ。ハイドランジアとアネモネが1本ずつにゃ、残りをみんなで分けたら良いにゃ」
「ユメちゃん、ありがとうございます! 大変失礼いたしました。どうぞごゆっくりお過ごしください」
ハイドランジアは、さっさと退室しようとしていた。
「クッキーは食べたのにゃ? クッキーの方が、おすすめなのにゃ」
「これからいただこうと思います」
「先に言っておくにゃ。ローズマリーのところで教えるのは、10月になってかららしいにゃ」
「かしこまりました」
ハイドランジアは、優雅に挨拶をして退室していった。
「あんなに浮かれているハイドランジアは、初めて見たにゃ」
「私もです。でも、わかる気が致します。美容ジュースの入手は大変でした。すっかり忘れておりました」
世界樹の森に行っていた5年で、すっかり忘れていたらしい。
「アネモネも、飲みすぎない程度に飲んでにゃ」
「ありがとうございます。ところで、うかがってもよろしいでしょうか?」
「なんにゃ?」
「こちらのクッキーを教えるのが10月というのは、なぜでしょうか?」
「今クッキーに使っている菊の花は、ソウがむこうの国から買ってきたのにゃ。この国で用意できるのは、群青領らしいけどにゃ。この赤い色のジャムに使う花が、9月の下旬からしか収穫できないらしいにゃ」
成る程と納得しかけたアネモネだが、ふと思ったらしい。
「もしや、黄色い花は用意が出来るのですか?」
「そうらしいにゃ。ジャムは赤いけどにゃ。花は、薄紫色なのにゃ」
「そうなのですか?」
「面白いからにゃ、紫色の菊を入手してから教えたいらしいにゃ」
「それは、納得しかない理由ですね」
アネモネは、笑いながら納得したらしい。
「ユメちゃん、キャラメルを見たら、知らない味が入っていました」
「プラタナス、どれが知らないにゃ?」
「この、キウイフルーツと書いてあるのは、初めて見ました」
「販売に当たって、種類や数を調整したらしいにゃ」
「今なら、売っているということですか?」
「その通りにゃ。それは売っているのを持ってきたのにゃ」
全種類入りのセットを、袋ごとプラタナスとカンパニュラに渡した。
「これは分けずに、自分の分にして良いにゃ。残りを分けるのにゃ」
「ユメちゃん、ありがとうございます」
「ユメちゃん、ありがとうございます」
「どーぞー」
キボウは、矢車菊ののったラング・ド・シャを配っていた。
「キボウ、残してたのにゃ?」
「ユリ、キボーくんどーぞー」
「ユリがキボウに、くれたのにゃ」
キボウは、侍女やメイドにも配り歩いていた。
「ユメちゃん、これはなんですか?」
「こっちの菊花ジャムのクッキーは、売り物だけどにゃ、この、矢車菊の花弁がのったラング・ド・シャは、サービスで配ったのにゃ」
「この色がきれいなのは、花ビラなのですか!?」
ピンク色と青紫色の花弁がのった場所を見て、カンパニュラが驚いていた。
「9月9日が、重陽の節句という、菊のお酒を飲んだり、菊の花を愛でたりする日らしいにゃ。それで、菊のお菓子を作ったみたいにゃ。お店はたくさん菊が飾ってあったにゃ」
「なんだか、すごいですね」
「ユリは凄いのにゃ」
ユリの予想通り、アネモネとハイドランジアが特に大喜びしていた。
私が伝えた通りに、水玉サイダーが用意され、5人分並べられた。持ち込んだのは、同じ種類をまとめて入れた容器だったので、3玉ずつをグラスに入れ、サイダーを注いだ見た目はとても華やかで、すぐにカンパニュラとプラタナスは、食いついてきた。
「ユメちゃん、これはなんですか?」
「水玉サイダーにゃ」
早速いただくと、カンパニュラとプラタナスは、赤いジュースより、こっちが良いと言い、シソジュースの残りの1本は侍女たちで分けることになり、侍女たちの目が輝いていた。
「くばったー」
キボウが、好きに配り気が済んだのか、戻ってきた。いったい何処まで行ってきたのだろう。
「水玉サイダー、キボウの分もあるにゃ」
「たべるー」
プラタナスが質問に来た。
「ユメちゃんとキボウ君は、いつも色々食べられるのですか?」
「世界樹の森にキボウが持ち込んでいたものは、全部食べているにゃ」
「それは、ユメちゃんとキボウ君のおやつでですか?」
「お店にいる全員が、食べているにゃ」
「働いている者たちも全員ですか!?」
何だか、部屋にいる全員が驚いているようだった。
「ユリが言っていたにゃ。急ぎの時は、味見程度でも仕方ないけどにゃ、ちゃんと1人前食べないと、試食したことにはならないらしいにゃ。味見でどんなに美味しくても、1人前食べたらくどかったなら、製品としては失敗らしいにゃ。だから、必ず1人前提供されるにゃ」
貴族とは根本から違うとは思っていたが、そもそも目指すものが違うんだなと、みんなが思ったらしい。
「商売人の考え方なのですね」
聞いていたアネモネが呟いていた。
「平民に安く美味しいものを出すお店が、ユリの理想らしいにゃ。ユリに自覚はないけどにゃ、ユリは仕事中毒にゃ」
「ユリ様は働き過ぎだと、誰もが感じておりますが、ユリ様ご本人に、ご自覚がなかったとは」
「今日はカエンの結婚式で向こうに行ってるからにゃ。少し休めると良いなと思ってるにゃ」
「そういえば、その件でお尋ねしようと思っておりましたが、名誉国民であるカエン様に、国からお祝いを出させていただきたいのですが、どのようなものなら喜ばれるのでしょうか?」
「私もわからないにゃ。ユリとソウに、後で聞いておくにゃ」
「よろしくお願いいたします」
国としては、女神の慈愛・パウンドケーキを100本と時送り・世界樹様のクッキー100枚を御祝いに贈っているので、これ以上の贈り物は必要ないのだが、王宮としては、なにか贈りたいのだろう。




