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クロネコのユメ  作者: 葉山麻代
◇黒猫ユメ◇

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夢の販促

「ソウ、きたー」


部屋に訪ねてきたキボウの第一声がこれだった。

ソウが帰って来たら、また手伝うと思ったみたい。


「そろそろ厨房を見に行くにゃ?」

「みるー」


私は読んでいた小説を閉じ、タブレットの電源を落とした。


階段を下りると、ユリとソウの話が聞こえてきた。


「なら、どうする?」

「アルストロメリア会を、来月にすれば良いと思うわ」

「成る程な。それなら問題ないな」

「そもそも、まだ頼まれてすらいないからね」

「そういえば、そうだったな」


良くわからないけど、問題がないらしいことは良くわかった。なんだか安心だ。


私はそのままお店に行き、キャラメル包みでも手伝おうかと考えた。ところが、みんなが作業していたのは、キャラメル包みではなく、朝作った菊花ジャムのクッキーを小袋に入れる作業だった。しかも、もう終るみたい。


「キャラメルは包んでいないのにゃ?」

「今日は、クッキーの包装をしています」


イポミアが答えてくれた。何でも、昨日はクッキーを売るのに大変だったらしい。意外にも、たくさん買っていく人は少なく、1枚か2枚入りの注文が多く、たくさん買う人でも、2枚入りを何袋と注文していくそうだ。そのせいで、対応が本当に大変だったようだ。


「少し早いですが、ご飯にしましよう」


ユリとリラが、ご飯を運んできた。イリスとメリッサとイポミアも、慌ててご飯を運び始めた。アルバイト組は厨房に入れないので、仕方ない。私とキボウも、自分の分くらいは運ぼうと、手伝った。


ユリは帰るトゥリーパに、鶏丼に使う器に入れた何かと、ミルクコーヒーゼリーを渡していた。今日のおかずかな?


「今日は、重陽(ちょうよう)の節句なので、栗ご飯と、菊花の酢の物と、秋茄子の豚バラ巻き焼きです。デザートは、現在店で売っているものなら何でも構わないので、リクエストしてください」


食べ始めると、リラがいなかった。なんでだろう?


「ユリ、リラは食べないのにゃ?」

「シィスルちゃんとマリーゴールドちゃんと一緒に、厨房で食べているわよ。席が足りないからね」


そういえば、ご飯を取りに行ったとき、厨房にはシィスルとマリーゴールドがいた。お手伝いに来たのかな?


「忙しかったのにゃ?」

「今日はそんなに忙しくないわよ」

「シィスルとマリーゴールドは、何しに来てるのにゃ?」

「シソジュースに使った紫蘇の葉で、ふりかけを教えたらね、それが気に入って、作りに来ているのよ」


え、シソジュースの残った葉っぱは、ふりかけになるの? 私が不思議に思っていると、ユリがそのふりかけをもってきてくれた。


「栗ご飯だから出さなかったんだけど、少しだけ食べてみる?」

「食べてみるにゃ!」

「キボーも、キボーも!」

「あ、俺も食べたい」


ユリは小鉢に入ったふりかけを、希望者に分けていた。小鉢に濃い紫色をした粉が入っていて、小さなスプーンが入っている。私たちが取ったあと、たぶん全員希望したみたい。


少しだけご飯にかけて、食べてみた。

フワッと梅みたいな香りがして、酸っぱくなくて、塩気があって、何だか美味しい。


「美味しいにゃ!」

「おいしー、おいしー!」

「やっぱり旨いな」


味見した人たちも、みんな美味しいと言っていた。

これをベルフルールで出すために、シィスルとマリーゴールドは、作りに来たらしい。何と、倒れそうになるまで魔力を使って作っていたそうだ。


「大丈夫なのにゃ?」

「パウンドケーキは食べさせたんだけどね。食べたからこそ、無茶しないか心配よね」

「何に魔力を使うのにゃ?」

「乾燥させるのよ。ふりかけだからね」


私も少し手伝おうかな? 魔力なら、手伝えると思う。


食べ終った人たちがユリのそばに来て、食べたいデザートを頼んでいた。まずはこれを手伝おうかな。


ユリと一緒に厨房へ行くと、リラたちは食休みもせずに、ふりかけを作っていたみたいで、ユリに、食休みくらいはしっかりしなさいと怒られていた。


私がミルクコーヒーゼリーを出すと、手伝いに来たイリスとメリッサが、水玉サイダーを作って、イポミアがチョコソースをかけていた。ユリは、アフォガートを用意して持ってきた。


私とキボウは水玉サイダーを食べたあと、厨房でふりかけ作りを手伝った。


どうやら外に待っていた客を、ユリが店内に通したらしい。お手伝い組が帰ったからかな?


ユリが厨房に冷茶を取りに来たみたいで、リラがさっと動こうとした。


「あなたはまだ休んでいなさい」

「手伝うにゃ!」

「てつだう、てつだうー!」


ユリが冷茶ポットを持ったので、私が空のグラスを持ち、キボウが、ラング・ド・シャを持ち、3人で運んだ。


ユリはお客と話すみたいなので、先に厨房へ戻った。


「リラ、乾燥手伝うにゃ」

「ユメちゃん、ありがとうございます」


「かんそー?」

「乾かすと言う意味にゃ」

「わかったー」


キボウがじっと見つめるなか、リラが作り方を説明してくれた。塩揉みとか、私には難しそう。


私に説明したあと、リラは店のそばに行って、聞き耳を立てているみたいだった。


「軽食を複数注文したいと思います」

「ご注文は決まっているのですか?」

「はい! ホットサンド2種類と、デザート全種類注文する予定です!」


リラは2台のホットサンドメーカーの電源を入れ、食パンにコンビーフサンドの中身を挟み、焼き始めた。


ユリが戻ってきて、リラを見てため息をついたあと、聞いていた。


「あなた、休まなくて良いの?」

「なんだか気の毒で」

「確かにね。アイスクリームは後だから、出しちゃいましょうか」

「はい」


とりあえず手伝えることはなさそうなので、私はキボウとおとなしく端に座って見ていた。


「キボウ、乾燥魔法使えるのにゃ?」

「わかんない」

「キボウの指示で葉っぱは乾燥するのにゃ?」


少し考えた素振りをしてからキボウが言った。


「あれー?」


キボウがシソを指差した。


「それにゃ」

「むりー」

「無理なのにゃ?」

「むりー」


菊との明確な違いはなんだろう?


「もしかして、植物として生きていないからにゃ?」

「わかんない」


どうやら、キボウもわからないらしい。


ユリとリラは、ホットサンドと水玉サイダーとミルクコーヒーゼリーを出すと、休憩に入るらしく、お客にも断りをいれていた。そういえば、シィスルとマリーゴールドは帰ったみたい。


私とキボウは、お店に行き、お客に声をかけた。


「遠くから来たのにゃ?」

「黒猫様、はい。王宮の転移陣を使わないと来られない距離から来ました」

「すぐに帰るのにゃ?」

「はい。この後、パープル侯爵邸から、帰ります」

「今日のおすすめは、菊花ジャムのクッキーにゃ。女性に喜ばれる味らしいにゃ。買って帰ると良いにゃ」

「それは、良い情報をありがとうございます。必ず買って帰ります」

「それだけにゃ」

「ありがとうございます!」


私とキボウは、店の外に出た。何と外には、結構な行列が出来ていた。


「何に並んでいるのにゃ?」

「これは黒猫様、珍しいクッキーが有ると聞きまして」

「菊の花で作ったジャムがのっているクッキーなのにゃ」

「花のジャムですか!?」

「もう少しだけ待っているのにゃ」

「はい!」


今日もお店は忙しそうだ。


厨房で座っていると、ユリとリラが戻ってきた。すぐに、イリス、メリッサ、イポミアも来た。今日は、12時45分からオープンらしい。


私とキボウは、ラング・ド・シャを配って回った。


「今日のサービスにゃ」

「こちらはなんでしょうか?」

「矢車菊ののったラング・ド・シャにゃ。食べられる花なのにゃ」

「素敵なクッキーですね。何のサービスなのですか?」

重陽(ちょうよう)の節句という、菊を()でる日らしいにゃ」

「おお、だからお店に菊の花がたくさん飾ってあるのですね!」

「たぶんそうにゃ」


すぐ他の客から声をかけられた。


「ユメ様、話題のクッキーはどれですか?」

「菊花ジャムのクッキーにゃ?」

「たぶんそれです。持ち帰りでお願いします」

「赤いのと黄色いのがあるにゃ」

「なら、双方でお願いします」

「何個要るのにゃ?」

「個数制限無いんですか?」

「今回は聞いてないにゃ」

「なら、とりあえず食べてみます」

「品物は用意するにゃ。値段は、他の人に聞いてにゃ」


赤いジャム、黄色いジャム、双方1つずつ皿にのせて持ってきた。


「イリスに頼んでおくにゃ」

「はい。持ち帰りは、イリスさんに頼みます」


私はイリスに引き継ぎ、運ぶだけを手伝うことにした。今回のクッキーは、店内と持ち帰りに、かなりの値段差があるらしい。しかも、個数によって、値段に統一性がなく、私には把握できない。包まれたクッキーの値段が、合計個数によって1個の単価が違うのだ。店内分は、1個60(スター)らしいので、わかりやすい。


新しく来た人にラング・ド・シャを配り、菊花ジャムのクッキーをおすすめしておく。


ほとんど全員買って帰っているみたいで、袋詰めされている菊花ジャムのクッキーが、どんどん売れていく。

閉店の頃には、かなり疲れてぐったりだった。


夕飯の後、ユリとソウはパープル邸に行くと言っていたけど、私は先に休ませて貰った。

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