夢の御使
朝ご飯の時に、今日はなんでも手伝うと宣言したら、ユリがニコッと笑って、ありがとうと言っていた。
まずは、朝ご飯の食器を片付け、畑を見に行き、ローゼルの実が少し大きくなったのを見たあと、しっかり手を洗い、厨房に駆けつけた。
「手伝いに来たにゃ!」
「キボー、きたー」
私とキボウを見たユリは、にっこり微笑んで振り向いた。
「あ、ユメちゃんとキボウ君、お使い頼まれてくれないかしら」
お使い? あれ? 作る手伝いじゃないのかな?
「なんにゃ?」「なーにー?」
「ハイドランジアさんに、ゼリーを届けて欲しいのよ」
本当にお使いみたい。まあ、ユリは忙しいだろうから仕方ないよね。
「分かったにゃ。どれにゃ?」
「これ」
ユリが渡してきた番重には、キラキラした宝石みたいなものが入っていた。
「凄いにゃ!」
「きれー、はなー!」
あ、これ、アジサイだ! そうか。それで、ハイドランジアに渡すのか。
「7個で良いかしら?」
「大丈夫だと思うにゃ」
それにしても綺麗だなぁ。
「ミルクゼリーだから、ユメちゃんとキボウ君も向こうで食べてくるなら、もう2つ持っていってね」
「これが昨日言っていたミルクゼリーにゃ!?」
これ、ミルクゼリーらしい。凄くキラキラしたゼリーは、なんだか食べるのが勿体なく感じる。
私は一つ一つ丁寧に冬箱に移していたんだけど、キボウに止められた。
「ユメー、10!」
なんの事? と思い手を止め数えてみると、今手に持っているのが11個目だった。止められなかったら、もっと入れていたかも知れない。
「キボウ、ありがとにゃ」
「よかったねー」
多い分を番重に戻し、キボウに転移して貰った。
城のソウの部屋は、掃除中だった。今日は私は来ない予定だったので、姿を見て慌てて人を呼びに行くのが見えた。
「ユメ様、何か緊急のご用件でございますか?」
「ユリから頼まれたお使いにゃ。ハイドランジアに差し入れにゃ」
取り次いだメイドが、ホッとしたのがわかった。
「では、王妃殿下付きの侍女を呼んで参りますので、少々お待ちいただけますでしようか?」
「侍女を呼ばなくて良いにゃ。移動してもよければ直接行くにゃ」
「かしこまりました」
扉の前に立つ騎士に、部屋付きの係のメイドが、私がハイドランジアの部屋に行くと、説明していた。
「ユメ様、同行してもよろしいでしようか?」
「構わないにゃ」
扉の前の騎士が、2人とも付いてこようとしたので、止めることにした。
「ハイドランジアの部屋までだから、1人だけで良いにゃ」
「かしこまりました」
メイドも1人先導役で付いてきた。
ハイドランジアの部屋に付くと、外まで出迎えに出て来ていた。
「ユメちゃん! いらっしゃいませ。何か私に差し入れと伺いましたが」
「ユリから頼まれたにゃ。これにゃ」
紫陽花のゼリーを見せると、目を真ん丸にして驚いていた。
すぐに部屋の中に案内されると、ローズマリーがいた。こんなことなら、余分に少し多めに貰ってくればよかった。
「ごめんなのにゃ。ユリから9個しか預かっていないのにゃ」
「問題ございません。見るのだけは見ても構わないでしょうか?」
「どうぞなのにゃ。私のを半分食べるにゃ?」
「いえいえ、お気持ちだけいただきます。こちらは何で出来ているのでございますか?」
「ユリは、ミルクゼリーって言っていたにゃ」
「成る程。理解いたしました。戻り次第、作ってみることにいたします」
なんだか申し訳なくなり、逃げたくなった。
「キボー。カンパニュラー、プラタナスー!」
「キボウが、カンパニュラとプラタナスに会いたいらしいにゃ。移動して良いにゃ?」
「かしこまりました」
キボウが気を利かせてくれた。
「キボウ、ありがとにゃ」
「よかったねー」
ハイドランジアが手配してくれて、メイプルの部屋に案内された。今日は執務はしていないのかな?
「ユメちゃん!」「ユメちゃん!」
「お使いで来たのにゃ。差し入れがあるにゃ」
プラタナスとカンパニュラが喜んで迎えてくれた。
侍女が運んでくれた紫陽花のゼリーを見ると、更に喜んでいた。
「おばあさまのお花、すてき!」「お菓子のアジサイ、凄い!」
「母の注文でしようか?」
「えーと、メイプルにゃ。ハイドランジアに頼まれた訳じゃないと思うにゃ。ユリが、お店の従業員に頼まれて作っていたにゃ。多分おすそわけにゃ」
メイプルは笑っていた。
「素晴らしいですね。ハナノ様は本当に凄い」
「こっちで一緒に食べても良いにゃ?」
「どうぞ。歓迎いたします。今お茶を入れさせます」
やっと落ち着いて食べることが出来そう。
キボウは、プラタナスとカンパニュラと遊んでいるので、食べながらメイプルと話した。
「仕事、片付いたのにゃ?」
「採決の書類の事でございましたら、ソウが大分手伝ってくれたので、今日は休みをいただいております」
「ソウ、手伝ったのにゃ?」
「本人がどう考えているかはわかりませんが、私では解決が難しいことも、色々な知識を使い助言をくれます。本当に困っている時だけなんですけど、助かります」
「少しだけ手伝って、邪魔してないって言っていたにゃ」
「あれは、確か、『ツンデレ』とか言うらしいですよ」
「つんでれにゃ?」
何かどこかで聞いたことがある気がしてよく考えてみた。
あ、思い出した。ソウに用意して貰った小説の中に出てきたキャラクターの紹介文にあったんだ。
「冷たい態度なのに、やってることは親切って意味にゃ?」
「よくご存じで」
え、自己紹介では言わないよね?
「ソウが自分で言ったのにゃ?」
「いえ、何かの話のつづきで、『俺はツンデレじゃない!』って言ったことがありまして、そのときは教えて貰えず意味がわからなかったのですが、別日に、女性の話に出てきた意味がわからないと言って教えて貰いました」
「メイプル策士にゃ」
メイプルは笑っていた。
「家では違うのですか?」
「ソウは、ユリには親切だけにゃ。私とキボウにも、ユリにとは違うけど、親切にゃ。弱い相手や困っている相手には親切なのにゃ。あと、若い女性は基本的に避けてるみたいにゃ」
「確かに、そんな感じですね」
「ユリに聞いたことがあるにゃ。ソウのファンクラブがあって、2人とも苦労したらしいにゃ」
「あ、昔そんなことを聞いたことがある気がします。感情の無い相手にまで甘い顔を見せるから付け上がると助言した気がいたします。権力で押さえることが出来ないのなら、優しい笑顔は相手が誤解するだけだと」
それって、ソウのツンデレは、昔のメイプルの助言が原因なのでは? 言っていてメイプルも気が付いたのか、笑い出した。
「私がいなくなっても、ソウと仲良くしてにゃ」
「ユメ様」
「猫の国に帰るのにゃ。そういうことにして欲しいにゃ」
「かしこまりました」
キボウに声をかけ、家に帰ってきた。
「今度こそ、手伝うのにゃ!」
「キボー、てつだう!」
まずはしっかり手を洗い、エプロンも被り、万全の体制で厨房へ行くと、みんなお店にいるみたいだった。
「何してるにゃ?」
「今から、この袋にキャラメルを詰めます」
「手伝うにゃ!」
「キボーも、キボーも!」
袋を受けとり、種類が被らないように1つずつ詰めていった。私とキボウは袋を1枚ずつ持っていたんだけど、ユリとリラは何だか5~6枚持って、1度に複数作っていた。間違ったりしないのかな?
「なるべく包みが綺麗なキャラメルを袋に詰めてください」
綺麗じゃないのはどうするんだろう? 心配で気にして見ていたら、包みをユリとリラが巻き直していたり、避けたりしていた。
そして最後にどうするのかと思ったら、身内用として、アルバイトの7人に渡すらしい。
イリスが数を数えながら、基本味だけ大きな袋に詰めていた。どうするんだろうと思ったら、レギュムが取りに来て、見本として使うようにと、ユリが説明していた。
12種類入ったキャラメルは、100袋も受けとり、これは既に売約済みの分です。と、レギュムは話していた。作る前から買い手が決まっていたなんて、凄いね!
キャラメルのお店での販売価格は、1粒が100☆、6粒入りが300☆、12粒入りが 500☆になるらしい。数で価格が違うのは、包装代だと言っていた。要するに、手間賃が高いんだね。
ご飯の用意が、いつのまにか整っていた。ご飯を食べないで帰るアルバイトの女性に、ユリは紫陽花ゼリーを2つ渡していた。食べないご飯の分なのかな?
そして、やっぱり、私とキボウにも、ゼリーを出してくれた。そうかもしれないとは思っていたけど、わかっていたら、ローズマリーに譲ったんだけどなぁ。
昼休みを過ぎて、お店が開店してからは、私とキボウが試食のキャラメルを配り歩いた。
「受け取ってない人はいないにゃ?」
「キャメメルー! ないー?」
キボウも声をかけてくれている。微妙に名前が違うけど。
「ユメ様、それはなんですか?」
「どうぞなのにゃ。これはキャラメルにゃ。柔らかいキャンディーにゃ」
キャンディーと聞いて早速食べてみていた。
「ん、なんか、美味しいのに、ホッとする味!」
「12種類詰め合わせを売ってるにゃ。お買い得価格らしいから買って帰ると良いにゃ」
「はい!絶対買います!」
キャラメル詰め合わせは、本当によく売れた。




