夢の店内
ユリが募集要項の紙を、外に貼り出して戻ってきた。
「これで、誰か応募してくれると良いわね」
「えーとユリ様、断る用意を考えた方が良いと思いますよ?」
「え?」
応募が多すぎて、断る方法を考えた方が良いとリラは言っていた。その言葉を証明するがのごとく、すぐに人が来たのだ。
「あのー、どなたかいませんかー?」
ユリよりも、リラの反応が早かった。
「はーい。外の貼り紙ですか?」
「はい。読めないところを教えてください」
リラが丁寧に説明しているのが聞こえた。戸が開けっぱなしなのかもしれない。
「私でもできますか?」
「大丈夫だと思いますけど、ユリ様に伝えてきますね」
リラがユリを呼びに来た。
「早速応募者です」
「そうみたいね。リラちゃん知り合い?」
「たぶんお母さんが知り合いです」
リラの言葉に、慌ててイリスが覗いて見ていた。
「あー、最近嫁いできたご近所の奥さんです。愛想の良い働き者な感じの人です」
「なら、採用しましょう」
なんか、面接前に採用が決まったみたい。それでも面接はするらしく、店内に呼んで椅子をすすめていた。
面接はユリに任せて、仕事をしよう。
「リラ、何したら良いにゃ?」
「世界樹様のクッキーのアイシング塗って貰えますか?」
「わかったにゃ」
すぐにキボウも付いてきて、クッキーを並べるところから手伝ってくれた。
重ねられるケーキクーラーを全て使い、キボウと2人で世界樹様のクッキーを天板から並べ替え、私は端からアイシングを塗っていった。
ケーキクーラー1枚分が塗り終わると、キボウが時送りをして、青い食用インクで、Alstroemeriaのスタンプを押し、出来上がったクッキーをスリーブに挟んで番重に並べていく。
ちょっと前まで、時送りするだけだったような気がするけど、しまうまでしてくれるのは、とても助かる。
ユリは戻ってきたと思ったら次の人が来て、バタバタ厨房とお店を行ったり来たりしているようだった。
クッキーが終わり、ユリが又いないので、リラに聞いてみた。
「リラ、次は何するにゃー」
「お昼ごはんの用意を手伝って貰っても良いですか?」
「何すれば良いにゃ?」
「このお鍋を焦げないように、ゆっくり混ぜていて貰えますか?」
「わかったにゃ」
「キボーは? キボーは?」
「切ってある野菜をサラダ用に並べて貰えますか?」
「わかったー」
ユリの希望通り、6人決まったみたい。
「ユリ様、募集の紙を剥がさなくて大丈夫ですか?」
「そうよね、剥がした方が良さそうね」
リラとユリが話しているとき、次の人が来た。
「こんにちはー」
「遅かったー」
「リラちゃん待って、話を聞くわ」
ユリが言ったのど同時くらいに、イポミアが言った。
「カーシア?」
「イポミア、知り合いにゃ?」
「妹かもしれません、見てきます」
本当に妹だったらしい。イポミアって、3人姉妹なのかな?
「短期のお仕事があるとトゥリーパさんから聞きました。私も雇って貰えないでしょうか?」
「ユリ様、カーシアを、よろしくお願いいたします!」
イポミアの声がはっきり聞こえた。
その後和やかに話しているみたいで、少しするとリラとイポミアは戻ってきた。でも、ユリはしばらく話し込んでいるみたいだった。
「ユメちゃん、ありがとうございます。このくらいで充分です」
「次は何するにゃ?」
「もうお昼ごはんなので、カトラリーをおねがいします」
「わかったにゃ」
私がカトラリーを揃え終わった頃、ユリは戻ってきた。「あらー」と言いながら、リラに全て任せてしまったことを謝っていた。
「時間だし、お昼ごはんを食べましよう」
「ホシミ様をお待ちしなくて良いのですか?」
「ソウは、そのうち帰ってくると思うわ。今日は頼んだものを受け取りに行っているはずなのよ」
そういえば朝ご飯の時、そんな話を聞いた気がする。
「ただいまー!」
良いタイミングでソウが戻ってきた。
「ユリ、受け取ってきたよ」
「ありがとう」
ソウが鞄から小さな箱に入った何かをたくさん取り出していた。同じ柄の箱が10個くらいずつあって、15~16種類あるみたい。模様の他、100枚入りと書いてある。そばまで見に行ってみた。
「うわ!苺の絵が描いてある!」
「こっちはヨーグルトって字が書いてあるにゃ」
他にもバラの絵だったり、珈琲豆の絵が書いてある紙がある。
「なにー? なにー?」
「キャラメルの包み紙にゃ?」
「そうだぞ、凄いだろ?」
おしゃれな文字で「Alstroemeria」と入っていた。これは、ゴブレットグラスと同じデザインの文字かな?
「あれ? これって、切らなくて良い大きさですか?」
「そうよ。作って貰ったのよ」
「凄ーい! 紙を切るの、地味に大変でしたものね」
「ユリ、見たことがない種類の名前もあるにゃ」
「そのうち作るわ」
それは楽しみだ!
「さあ、ご飯を食べてしまいましょう」
ユリは、ソウとマーレイとイリスに朝作ったコーヒーゼリーを出すついでに、私とキボウに2個目を出してくれた。
「2個目を食べて良いのにゃ?」
「ユメちゃんとキボウ君のために作ったものだからね」
「ありがとにゃ」
「ありがと、ありがとー」
後から食べた3人も美味しいと言っていたし、今度売るためにも作るみたい。リラが凄く喜んでいた。
食べ終わる頃、ふと外を見ると、又、人が並んでいるのが見えた。ユリも見えたのか、ドアの外まで見に行っていた。
「まだ開店はしませんが、外は暑いので、店内で待ちますか?」
「ありがとうございます!! 大変助かります!」
食べ終わった食器を片付けていると、並んでいた人が、汗をかきながら店内に入ってきた。店内は、氷風機・冬風のおかげで涼しいのだ。
「店内は別世界ですな。本当にありがたい」
「ハナノ様に直接お声をかけていただけるなんて、帰ったら自慢しよう!」
店内で話す客が気になったのか、リラが客に聞きに行っていた。キボウと厨房の出入り口から覗いていると、リラは冷茶をすすめているようだった。
「まだ、お菓子や軽食は出せませんけど、冷茶くらいならコップを出すだけなので出せますけど、注文しますか?」
「リラちゃん、頼みます!」
「こっちもおねがいします」
全員希望みたい。よし、私も手伝おう!
「キボウ、コップを持っていくのにゃ!」
「わかったー」
私たちの後ろから、メリッサとイポミアが、各テーブルに置く冷茶を持ってきてくれた。リラが少し驚いていて面白かった。




