夢の紅茶
なんだか早くに目が覚めた。喉が渇いたのでお茶でも飲もうとリビングに行くために部屋を出ると、ユリが階段を降りていくところだった。あれ?もうユリが仕事をする時間なの? そう思いながらリビングに有る時計を見ると、まだ5時前だった。いつもこんな時間から仕事してるの!?
手伝いたいところだけど、まだ眠いので部屋に戻り、一眠りして起きたら、7時過ぎだった。いつも起きる時間だ。もしかすると、夢でも見たのかな?
リビングに行くと、ユリがご飯を作っていた。
「おはようにゃ」
「ユメちゃん、おはよう」
「おはよー、おはよー」
「ユメ、おはよう」
ユリに聞こうと思ったけど、ソウに内緒で早起きしていたら困るかもしれないと思い、聞くのを諦めた。
今日もベルフルールは休みなので、1人前の食事を提供するらしい。それならば、急いで帰ってきて手伝った方が良いかな。
ユリはソウに真冬箱を渡し、配達を頼んでいた。12×4段で48個ココットが入る真冬箱だ。行く先はお城だ。
ソウが洗い物をすると言うと、ユリは食休みもせずに、厨房へ行ってしまった。
少ししてソウも出掛けたみたいで、キボウと二人になった。
「キボウ、ユリっていつも何時から仕事をしてるのにゃ?」
「キボー、わかんない」
何時からと聞いてもダメかな。
「今朝、私がここにお茶を飲みに来たときにゃ、ユリが白衣を着て階段を降りていくのを見たのにゃ」
「ユメ、きた!ユメ、きた!」
「その時間のユリは、仕事をしてるのにゃ?」
「ユリ、しごとー」
「ありがとにゃ」
あれはやっぱり夢を見たのではなく、現実だったらしい。
とりあえず、畑の様子を見てからさっさと出掛けようと思った。
「キボウ、今日もユリが忙しいと思うにゃ。早く帰ってきて手伝うのにゃ」
「わかったー」
渇きすぎているところに水やりをし、バタフライピーの花をキボウが摘み取り、収穫した野菜を厨房へ持って行き、冷蔵庫に入れておいた。
何か作っているユリに声をかける。
「今から出るにゃ」
「なら、世界樹様とメイプルさんたちの分のアイスクリームを持っていってね。お城の分は、ソウが持っていってくれたわ。空の真冬箱を回収して帰ってきてね」
「分かったにゃ」
ユリは小型の真冬箱に、アイスクリームを入れて渡してくれた。そのユリの後ろに、困った顔をしたリラが待っていた。何か急ぎの用事かもしれないから譲ろうかな。
私の視線に気付いたユリも振り返っていた。
「リラちゃん、どうかした?」
「あの、ユリ様、父から緊急の連絡で、大量のキュウリを引き取れるか確認されたのですが、ベルフルールは10kgが限界で、こちらではいかがでしょうか?」
「どのくらいあるの? 困ってるなら、」
ユリに任せておけば大丈夫そうなので、私は安心してキボウと出掛けることにした。
世界樹の森で、小型真冬箱をそのまま渡すと、キボウは中身を残したまま戻ってきた。
「残ったのにゃ?」
「ろくー!かみさまー。メープル、アネモネー、プラタナスー。キボー、ユメー」
「6個入っていたから、私とキボウの分なのにゃ?」
「あたりー!」
そのまま城に持っていくことにした。
城のソウの部屋は、小型真冬箱を持ったメイドや侍女で溢れていた。いつもなら配り歩くが、真冬箱必須なので、取りに来てもらっているらしい。
「いっぱいにゃ」
私が呟くと、私とキボウに気がついたらしい。
「ユメ様、キボウ様、いつも美味しいおやつをありがとうございます!」
「作っているのはユリにゃ」
「以前お越しくださったときにユリ様にお礼申し上げましたところ、『ユメちゃんとキホウ君の依頼で作っているのよ』と、おっしゃられて、感謝はユメ様とキボウ様に対してするようにとのことでございました」
そうなのか。始まりは覚えていないけれど、私がユリに頼んだのかな?
「喜んでもらえて良かったにゃ」
知っているメイドが近づいて来たので、私とキボウの分は持参していると話しておいた。
今日のカンパニュラは、サンダーソニアと何か計画をしている最中だった。
「ユメちゃん、注文をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「ユリに手紙を渡すだけなら構わないにゃ」
「でしたら、こちらをお願いいたします」
封のしていない手紙を開けると、依頼者はカンパニュラで、お祝いのケーキの注文だった。詳細などの問い合わせは、サンダーソニアらしい。
「何かあるのにゃ?」
「はい。お父さまたちが、やっとおもどりになります」
「そうなのにゃ?」
「はい!」
カンパニュラが、ニコニコして答えてくれた。
あれ? そうすると、私とキボウの訪問も、あと少しだけってことかな? 家に帰ってからユリかソウに聞いてみよう。
カンパニュラとサンダーソニアにもアイスクリームが配られ、私とキボウも手持ちの冬箱から取りだし、一緒に食べた。
「おこうちゃがおかしになると、とてもおいしいのですね」
「ユリが言うにはにゃ、普通の紅茶ではなくて、紅茶の葉っぱを少しのお湯で開かせてから、牛乳で煮出して作る、ロイヤルミルクティーという、紅茶らしいにゃ」
カンパニュラの横にいた侍女が食いついてきた。
「ユメちゃん様、それは飲む紅茶にも有効でございますか?」
「むしろ、飲む紅茶をアレンジしたアイスクリームだと思うにゃ」
「それでは、早速作って参ります!」
急いでアイスクリームを食べきり、下がっていった。
王宮の侍女にも、リラみたいなのがいるんだなぁと、少しビックリした。
「今日も忙しい予定だから、早めに帰るにゃ」
「いつもありがとうございます」
王宮のソウの部屋に寄り、空になった少し大きな真冬箱を回収し、家に帰ってきた。今日の帰宅はリビングだった。
真冬箱をリビングに置いたまま、私とキボウは厨房へ行って手伝いを始めた。
イリスとマーレイが揃ったとき、ユリがみんなに声をかけていた。
「みんないるから、おやつにしましょう」
「おやつ、何ですか?」
「外おやつに使う、リンゴジュースのゼリーです」
「ぜーりー!」
キボウが大喜びだ。
ユリのあとをついていき、一緒にゼリーを運んできた。
「あれ? 何か入ってる?」
「リンゴのプレザーブよ。軽く煮たリンゴね」
「ユリ様、これ出したら、売ってくれって言われませんか?」
「もし頼まれたら、Tの日に対応しますと言ってください。一人でもいれば、作ります」
そうか、希望者がいれば販売するんだね。
何を手伝ったら良いのかとキョロキョロしていると、マーレイがホットサンドの中身を挟んでいたので、手伝いを申し出た。
「手伝っても良いにゃ?」
「キボーも、キボーも」
「ありがとうございます」
私とキボウは、お皿を用意したり、食パンを持ってきたり、手伝った。いつの間にかメリッサとイポミアはクッキーを手伝っていて、マーレイは1人で3台分面倒見ていた。
皿もパンも揃えてしまい、他に手伝えることがなくなってきた。
「キボー、クッキーつくるー」
「私も黒猫クッキーが良いにゃ」
「ユメちゃん、キボウ君、私が代わりますので、クッキーをお願いいたします」
イリスが、冷蔵庫から持ってきたホットサンドの中身を入れたボールを手に持って、声をかけてきた。
「頼んだにゃ!」
「キボーも、キボーも」
クッキーを手伝いに行くと、ユリとリラは、パウンドケーキを作ると言って、クッキーを任された。
私とキボウとメリッサとイポミアの4人で、クッキーをたくさん作った。




