夢の鰻重
「お、みんな揃ったな」
「そろった、そろったー」
5分くらい前に来たけど、すっかり出発の準備が整っていた。
「良い翡翠はあった?」
「何個か見つけました」
「綺麗なのあったにゃ」
「あった、あったー」
みんなで見つけた翡翠を、ユリに見せた。
「素敵ね。良かったわね」
リラの黒い猫型の石を見ても、ユリはなにも言わなかったので、もしかしたらそれも翡翠なのかな?
「忘れ物無いか?」
「ちゃんと積み込んだと思うわ」
ソウとユリが確認していると、キボウが馬車の座席の前に進み出ていた。
「キボー、まえー」
「あ、私も前に乗ってみたいにゃ」
「でしたら、私が操縦するのはいかがでしょうか?」
リラが、操縦してくれるなら、ユリとソウは後ろに一緒に座れば良いと思うし、良い案だと思う!
「ソウが良ければ、私は後ろでも荷台でも何でも構わないわよ」
ユリを荷台に乗せるのは駄目だと思うけど、前でなくても良いと言ったから、ソウも譲ってくれた。
ソウが転移陣に馬車をのせ、キボウが転移していた。そこから前の座席に座り、景色を堪能した。後ろに座り隙間から見える前方と、横だけの景色と違い、進む先が見渡せるのは、かなり楽しい。
ふと気になり後ろを振り向くと、ユリはうとうとしているらしく、ソウに寄りかかって半分寝ているみたいだった。
キボウと一緒に、少しだけ静かにしながら、引き続き景色を楽しんだ。
家に着くと、馬車を置いたまま、ソウは鰻重を取りに行ってしまった。目が覚めたらしいユリと、リラが、荷台から荷物を下ろし片付けるので、手伝おうとしたら、そんなにたくさん無いから大丈夫よと断られた。ならばキボウと畑の様子でも見に行こう。そう思ってキボウを誘おうとしたら、キボウはとっくに畑に行ったらしく、私も慌てて畑を見に行った。
「キボウ、何を手伝ったら良いにゃ?」
「だいじょぶー。アンチャンー、かわかすー」
どうやらあとは、バタフライピーの花を乾かすだけらしい。
私はキボウが使ったと思われるじょうろ等を片付けていた。
「ユメちゃん、キボウ君、鰻料理が届いたそうですよ」
リラから声をかけられた。
水やりも終わったので、手を洗い、お店まで行った。歩いているときにリラから教えて貰ったけれど、今日の鰻重は、向こうの国では5万☆相当の料理らしい。リラのお陰で食べられることを感謝しようと思う。
「うわー。鰻、久しぶりー」
「旨そうだな」
箱の蓋を開けると、知ってる気がする良い匂いがした。
「なんか知ってる気がする匂いがするにゃ」
「美味しそうな匂いー」
「なーにー?」
キボウは、見たことがない料理について、ユリに尋ねていた。
「キボウ君、これが鰻重よ。リラちゃんが釣っていたお魚ね。このまま全部食べられるわよ」
「わかったー」
キボウには、食べられる部分を確認するのは重要なのだろうと思う。
みんなで一斉に食べはじめた。
「美味しいにゃ!」
「美味しいわね」
「旨いな」
「おいしー!」
「!? 魚の味じゃないです! 何だか物凄く美味しいです!」
予想よりも更に美味しくて、箸が止まらない!
「小骨が有るかもしれないから、ゆっくり良く噛んで食べるのよ」
「はい」
「わかったにゃ」
「わかったー」
これをゆっくり食べるなんて、無理難題だと思う。
無我夢中で食べたので、あっという間に無くなった。でも、お腹いっぱいだ。
「あー、美味しかったー。ごちそうさまですー」
「たべたー!」
「美味しかったにゃ。ごちそうさまにゃ」
「3人とも早いわね!」
見ると、ユリの鰻重は、まだ半分くらい残っていた。ソウの鰻重は三分の一くらい。
「ホシミ様、鰻はお刺身はないんですか?」
「鰻は血に毒があるから、加熱しないと食べられないんだよ」
リラの質問にソウが答えていた。へえ、鰻って、生だと毒なのか。ソウが質問に答えている間、ユリはせっせと食べ進めていた。
何だか、難しい話を始めたので、キボウと相談してお城に行くことにした。
「ユリ、出掛けてくるにゃ。ブルーベリー少し欲しいにゃ」
「良いけど、どうするの?」
「お城で乾燥させるのにゃ」
「なら、見本も渡すわね」
ユリは見本用に、セミドライのブルーベリーも作って渡してくれた。
「ありがとにゃ」
「キボーも、キボーも」
ちゃんと2つに分けて、キボウにも別に渡してくれたので、安心して出掛けられる。
キボウに転移して貰い、世界樹の森に来た。
ホワイトボードに、ブルーベリーを乾燥の魔法で、軽く乾燥をかけて作った旨を書き、生と、ドライフルーツを少しキボウに持っていって貰った。
すぐに、楽しそうなキボウが戻ってきた。
「アネモネーじょうずー、プラタナスーじょうずー、メープルーこまるー」
「にゃ!? プラタナスの方が、メイプルより魔法が上手なのにゃ?」
「あたりー!」
プラタナスがカンパニュラの兄で、メイプルは父のはず。子供の方が上手だと、親は形無しだね。
実のところ、出力が弱いせいで、乾き具合がちょうど良かっただけなのであった。
少し気の毒に思いながら、城に転移して貰った。
いつもと全く違う時間に来たので、部屋には誰もいなかったけれど、ベルを鳴らすとすぐにメイドがやって来た。
「ギプソフィラを呼んでにゃ。試して貰いたいことがあるのにゃ」
「かしこまりました」
少しして、いつものメイドと一緒に、ギプソフィラがやって来た。
「お呼びと伺い、参上いたしました」
「ユリが面白いものを作ったのにゃ。ソウによると、王国軍が野営をする場所のそばのブルーベリーなのにゃ。ちょっと食べてみるのにゃ」
話だけで、どの場所のことが理解したらしく、生を手に取るのを躊躇していた。
「味を知ってるなら、こっちだけ食べてみるのにゃ」
私は、ユリが作ったセミドライのブルーベリーを差し出した。
不思議そうにしながら口にいれ、すぐに笑顔になった。
「干し葡萄のような食感で、ブルーベリーの味がします!これは美味しいですね」
「ユリが、乾燥の魔法を唱えたのにゃ」
「なんと、調理したのではなく、魔法なのですか!」
羨ましそうにメイドが見ていたので、生とドライと双方すすめてみた。
「ありがとうございます。んん、知ってるブルーベリーより美味しいです! では、こちらも、んふ、干し葡萄みたいな感じで、更にブルーベリーが甘いです!」
「生のままのでも美味しいのは、キボウのお陰にゃ」
「キボウ様、ありがとうございます」
「よかったねー」
「ユリによるとにゃ、乾燥の魔法の加減で作るか、3日ほど天日干しをすると作れるらしいにゃ。野営に行ったときにでも作ったら良いにゃ」
「素晴らしいご提案をありがとうございます。是非試してみたいと思います。それで、本日は、カンパニュラ様のご訪問はされますでしょうか?」
「カンパニュラが大丈夫そうなら、顔を見に行くのにゃ」
「では、ご案内いたします」
カンパニュラには、セミドライのブルーベリーを渡し、一緒にいたサンダーソニアには、ギプソフィラと同じ話を聞かせ、生の方を渡した。
すぐに挑戦してカラカラに乾燥させていたので、粉にしてお菓子に混ぜると良いらしいと助言もしておいた。
カンパニュラとサンダーソニアには、各種、松ぼっくりも渡し、少しだけキャンプの話をしてから家に帰ってきた。
家に帰ると、既にリラはいなかったけれど、リラは、とりあえず家に帰り、遊びに行ったはずなのに、月給相当を稼いできたと、両親に驚かれたらしい。




