夢の冒険
ユリが部屋にはいる前、俺はクーファンから飛び降りた。
「あ、ユメちゃん!どこ行くの?」
ユリに呼び止められたが、振り返り、「散歩」と猫語で返事した。
なんだか懐かしい感じがする魔力を関知したのだ。
草花の中を通り抜け、そこへ向かった。
そこは高い草に囲まれた中にポツンとあるような場所だった。
薄い幕に囲まれた、少し大きな石の回りに沢山の花が咲いている。
なんだ?石に何か掘ってあるな。
石に掘ってある文字を見ようと幕の中に入り、石に触れた瞬間、誰かの記憶が流れ込んできた。
高速回転のフィルムのようないろんな場面がチラチラと頭の中に浮かぶ。
あー、これはここを作った人の記憶なのか。歴代の当主ってところか。
俺には関係ないけど、ユリには教えてやろうかな。
成仏しろよ。
まあ、俺はしてないけどな。
ふとそんなことを思って、あれ?なんでこんな風に思ったんだろう?
石に触った記憶の中に、知っている魔力があったような気がした。
もしかすると、大魔導師だった頃の知り合いなのか?
とりあえずユリに教えるため俺は戻ることにした。
ユリを見つけると、お茶の時間だったらしく、おやつをくれると言う。
「ユメちゃん!若鮎あるよ」
「来てくれ」
猫語で言って、再び歩いていこうとしたがユリに伝わらず来ない。
「こっちだ」
振り返り、ついてこいと伝えたつもりだがわからないようだ。
「ついて来いって言ってるの?」
「そうだよ」
「ユメちゃんちょっとまって」
「わかった」
ユリはここの者たちに説明しているようだった。
「ローズマリーさん、ユメちゃんがどこかへついて来て欲しいようなので、散策しても良いですか?」
「構いませんわ。ユメ様さえ良ければ、他の者もよろしいですか?」
「ユメちゃん、良い?」
「いいぞー」
「良いみたいです」
俺のあとをぞろぞろとついて来た。
「ユメちゃん、ちょっとまって、草がぁ」
「なんだ?」
ユリの背では、背の高い草が多くてなかなか進めないようだ。俺は小さいから草の下を進めるのだ。
頑張ってユリはついてきた。ユリを遮る背の高い草がなくなり、少し開けた場所に出た。
やわらかい草が俺の背丈ほど有り視界が悪い。
俺はゆっくり歩いていくと、幕のある場所に入った。
「ユメ様が消えたわ!」
「今、消えてしまったわ!」
あいつらには幕が見えないのか。
たぶん魔法を使わないから感知が弱いんだな。
ユリだけが幕の中に入ってきた。
「ユリ様!」
「今度はユリ様が消えてしまったわ!」
俺を抱えたユリはあわてて幕の外へ出た。
「ユリ様!」
「ユリ様今どこへ?」
「えーと、そこに幕みたいのがありますよね?」
「え?ど、どこにですか?」
やっぱりこいつらには見えていないらしい。
ユリは先導して連れていくようだ。
「じゃあ、ついてきてください」
「はい」
ユリが幕に入っても、誰も後から入ってこなかった。
ついていこうとしたけど、良くわからないけどついていけなかった。と言っていた。
そこへ慌てたようなおっさんが来た。
「ユリ・ハナノ様、なにかございましたか?」
「ユメちゃんがここへ連れてきてくれたんですが、皆さん入れないらしくて」
「ユリ・ハナノ様は入れるのですか?」
「はい。私は入れました」
「なら、ローズマリーと手を繋いで入ってみていただけませんか?」
「はい、良いですよ」
ユリと手を繋いで入ると他のやつも入れた。
俺も一緒に入った。
「ローズマリー様まで消えた!」
また外のやつらが騒いでいる。
「あ、ここは・・・」
「ご存じの場所なのですか?」
「私は初めて来ましたが、歴史的な場所だと思いますので、是非、侯爵様を・・・むりですね」
「手伝うぞ」
「あ、ユメちゃんが手伝ってくれるみたいですよ?」
一旦外に出て、俺はおっさんに抱っこされ再び中へ入った。
「ここは!!」
俺を下ろしたおっさんは膝をつき、熱心に石の文字を読んでいた。
「ありがとう、ありがとう」
長年探していた場所だったらしい。
他のやつらも手を繋いで中に入ったりして楽しんでいた。
外からは見えないやつでも、中からは外が見えるらしい。
オッサンは、俺にとても感謝したらしく、何をお礼したら良いのかとユリに相談していたが、「ユメちゃんが好きなのはお菓子です」とユリが言うと、「ユリ・ハナノ様より美味しいお菓子を作れる知り合いなどいない」と言って頭を抱えていたようだ 。まあ、そうだろう。ユリのお菓子は魔力が多いからな。
そのあとは食事になった。
俺は疲れたのでクーファンで寝た。
次回7月21日13時予定です。