夢の聖炎
「そう言えばリラちゃん、それどこで売るの?」
ユリの質問に、どういう意味だろうと考えていると、リラが答えた。
「あー、昨日売っていないものはこちらでは売れませんね」
あ、そう言う意味か。
「はい、ユリ様! 椅子付きテーブルを出して、ベルフルールとして外で売ったら良いと思います」
シィスルが正解を言っていた。
「あ、それ良いわね。誰か販売をお願いする? そうすれば、あなたたちは、休みも取れるし追加も作れるわよ?」
「そうします! そうしたいです!」
ユリの弟子たちは、休まない方向に頑張るのが通常営業らしい。追加も作ったら、やっぱり休めないと思うよ?
結局、マーレイが探しに出たけど、エルムが人材を連れてきた。4人いて、全員が商売人らしい。
ユリがタイムスケジュールを説明していた。その後、リラも挨拶し、プリンの名前が「聖炎のプリン」に決定していた。
聖なる炎を使うから、聖炎か。そう言えば、クッキーの色は、ユリからの指定らしい。何か考えがあるのだと思う。
私は慣れていたので、みんなよりも炎のクッキーの色替えが早かった。
あれ? 慣れていると思ったのは、なんでだろう? いつこんなクッキーを作ったんだろう? いつ覚えたんだろう? もしかして記憶に無い手仕事で慣れているのかなぁ。
作業の早い自分自身に驚きながら、淡々と作っていった。
ユリがリラに声をかけていた。
「リラちゃん、私がいない間、よろしくね」
「はい。お任せください!」
「少し早いけど、行ってくるわね」
ユリは、先にご飯を食べて、でかけていった。私が無心でクッキーを作っている間に、リラは色々指示を出して、すでに外でプリンを販売していたらしい。
「リラ、私も12時20分くらいには出掛けるにゃ」
「ユメちゃんも先に食べちゃって、そのあと調整したら楽ですよ」
「わかったにゃ。キボウと私の分のご飯お願いするにゃ」
「はーい。プリンも食べますよね?」
「ありがとにゃ」
リラは、私とキボウの分のご飯を先に用意してくれた。外の販売担当の人が2人一緒のご飯だった。
「ユメ様、この後楽しみですね」
「ユリの魔法にゃ?」
「はい」
「ユリは、聖なる魔法を使うらしいにゃ。私も見るのは初めてにゃ」
「そうなのですか!? それはとても貴重でございますね」
私が話していると、リラがキボウに何か頼みに来た。
「キボウ君、キボウ君、この冬箱を、屋上に置いてきて欲しいのですが、頼んでも良いですか?」
「いーよー」
「では、お願いします」
「わかったー」
冬箱には、メモが張り付けてあり、中身がプリンであることがわかった。数が足りないと困るなと思い、開けてみてみたけど、中には聖炎のプリンが20個と、紙のスプーンと、冷茶と、重ねたコップが入っていた。これなら安心だ。
私は持ち帰る人のために、持ち帰り用の箱を何枚かキボウに渡した。
「キボウ、一緒にこれも頼むにゃ」
「わかったー」
私たちが食べ終わる頃、ソウが戻ってきた。ベルフルールの笹を取りに行っていたらしい。重量は可能でも、持ちきれなかったため、何度かに分けて取ってきたそうで、それを聞いて王宮の笹も一度では持ってこられないと考えた。
「ソウ、王宮の笹、キボウ一人では、不安にゃ」
「確かにな。俺も見に行くよ」
ソウが食べ終わると、ソウは休憩せずに、王宮へ行った。
「キボウ、私たちも出掛けるのにゃ」
「わかったー」
キボウは私と冬箱に手を掛け、まずは屋上に転移した。そこには椅子付きテーブルが置いてあったので、その上に冬箱をのせ、今度は王宮に転移して貰った。
王宮につくと、ソウの部屋には物凄い数の笹が、物凄い数の短冊をつけ置いてあった。
「これはなんにゃ!」
「足りなければ、笹も短冊も増やして良いと言われたと言っていたぞ?」
「にゃー。私が言ったにゃ。ソウ、ごめんなのにゃ」
「いや、問題ないよ。大勢で楽しんだ方が、ユリも喜ぶと思うぞ」
ソウは笑って許してくれた。
「ソウ、どこいくー?」
「あー、家のそばに、笹をたくさん積んである場所わかるか?」
「わかるー!」
「そこに全て運びたいんだよ」
「わかったー」
キボウは返事をすると、全ての笹を持って、転移していった。
「ユメ、俺、先に向こうに行ってるよ」
ソウも慌てて追いかけて転移していった。入れ替わるようにキボウは戻ってきた。
「おいたー!」
「キボウ、ありがとにゃ」
ソウの部屋には、実はメンバーが全員揃っていて、唖然として今の転移を見ていた。
「あ! 私の笹が」
カンパニュラの手には、1mの笹が握られていた。
「移動してからもう一度置きに行ったら良いと思うにゃ。大丈夫にゃ」
「だいじょぶ、だいじょぶ」
カンパニュラが落ち着いてから、再びキボウが声をかけた。
「ちいさいー」
「キボウ、どういう意味にゃ?」
「ちいさい、さきー」
「ユメ様、背の低い方が先とおっしゃっているものと」
シッスルが、そっと教えてくれた。
今背が低めなのは、キボウ、私、カンパニュラ、シッスルで、サンダーソニア、ハイドランジア、ローズマリー、ギプソフィラは、背が高めだ。
「キボウ、カンパニュラは、護衛がいないと駄目らしいにゃ」
キボウは驚いた顔をした後、見学メンバーは、列をなすように並ばせられた。
「てー、つなぐー!」
「シッスル」
「はい。皆さん前の方の肩に手を置かれると良いと思われます」
電車ごっこのような状態になり、キボウは全員を一周して確認した後、転移した。
そこは屋上の西側で、東側にいたユリがラベンダーを残し、転移していくのが見えた。
「カンパニュラー」
「はい、キボウさま」
キボウはカンパニュラだけを連れ、笹が積まれたそばに転移していった。みんなで見守っていると、カンパニュラが笹をユリに渡し、即、転移で戻ってきた。
カンパニュラがあまりにもニコニコしているので、誰もキボウに怒れず、とにかく見学の用意をしようと、ローズマリーが、ソーラーパネルの下を背を屈めて通っていった。
背の低い組は、ソーラーパネルの下でも問題ないので、広々と見やすい場所を確保した。私、カンパニュラ、シッスル、キボウの順に並び、安全のために、カンパニュラとは、手を繋いだ。
私たちの用意が終わった頃、ソウが結界を張ったのが見えた。中心からだんだん大きくなる結界だ。ところが、途中停止して、ユリとソウが慌てて移動したので、何事かと、みんな心配していたけど、どうやら人がいたらしく、ソウがその人ごと街道側に転移して安全を確保してから、ユリのそばに戻り、結界を広げていった。
「いまは、なにをしているのですか?」
「今は、ソウが結界を張っているにゃ。たぶん弾かれた人を発見して、移動させたんだと思うにゃ」
「ユメちゃんは、すごいのですね」
「結界を張れる人には、見えるのにゃ」
「あ、あの、結界とは、薄い幕のようなものでしょうか?」
「シッスルは見えるのにゃ!? その通りにゃ。ユリに習えば、結界が張れると思うにゃ」
「そうなのでございますか!?」
全員がシッスルを見て驚いていた。
「ソウが、内側に、もうひとつの結界を張ったにゃ」
すると、それを確認したらしいユリが浮かび上がり、空中に停止した。
「ユリさまがういてる!!!」
「ユリのは、飛行魔法だと思うにゃ」
「ユリ様、凄いです!!」
ラベンダーが興奮している声が聞こえた。下からも、観衆が興奮している声が響いていた。
ユリは、内側の結界の回りを一周すると、もう一度停止し、声を張り上げていた。
「聖なる炎!!!」
みんながユリに釘付けになった。
なんと、青い色の炎をユリは放ち、笹は、その炎に包まれた。
「火が青いです!」
「青い炎ですわ!!!」
「これが、聖なる炎なのでございますね!」
炎が青いのは、酸素が大量に有る燃焼状況で、高温の火だったと思う。何でそんなことを私は知っているのだろうと考えていたけど、みんなが喜んでいるので、黙っていることにした。
あ、ソウの計画って、これかな!と気がついた。それを事前に教えられていたリラたちは、青い炎の柄のクッキーを作っていたのだなぁと色々納得した。
そこへ、ユリが転移で現れた。
「ユリさま! すごいです!!」
「ユリ様!」「ユリ様!」
「カンパニュラちゃん、ありがとう」
ユリはにっこり笑い、カンパニュラにお礼を言っていた。
「ユリ様、すぐにお着替えされますか?」
「ラベンダーさんは燃えるのを見なくて良いの?」
「はい。充分堪能致しました」
「では、レッド邸に行くわよ」
ユリはラベンダーと転移していってしまった。
「私たちも、戻りましょうか」
「待つのにゃ。リラからの差し入れがあるにゃ」
東側にいたローズマリーが、冬箱をもって、ソーラーパネルを気にしながらこちらに歩いてきた。
箱を開けてみると、18個しかなかったので、ラベンダーはしっかり確保したのだろうと思った。
「あおい火のおかしだ!」
「聖炎のプリンにゃ。みんなひとつ、にゃ、2つずつ持ち帰ると良いにゃ」
一緒に置いてある箱を組み立てていると、キボウとシッスルが手伝ってくれた。
「ローズマリー、城に戻るにゃ? 家に帰るにゃ?」
「選択してもよろしいのですか?」
「キボウ、ローズマリーをパープル邸に連れていけるにゃ?」
「いーよー」
そのまま、私とローズマリーを、パープル邸のソウの部屋に連れ転移してくれた。
「キボウ、ありがとにゃ」
「キボウ様、ありがとうございます」
「よかったねー」
キボウは私を連れ、屋上に戻ってきた。
「プリンは受け取ったにゃ?」
カンパニュラとギプソフィラは箱を持っておらず、シッスルが箱を3つ重ねて持っていた。警護の為かなと思った。
「シッスル、落としてしまっては大変だから、1つ貸しなさい」
サンダーソニアが、1つ無理矢理受け取り、負担を軽減させていた。誰も声をかけなかったら、私が持とうと思っていたので、サンダーソニアは優しいなと感心した。
「ならんでー、ならんでー」
キボウの声かけでみんなが並ぶと、キボウは城のソウの部屋に転移した。
「ユメちゃん、キボウ様、どうもありがとうございました」
「キボーくん!」
「キボウ君、ありがとうございました」
「よかったねー」
「私は、カンパニュラのを貰うから、皆で食べなさい」
サンダーソニアは、箱をシッスルに渡していた。
「キボウ、家に帰るのにゃ。あ、冬箱が屋上のままにゃ」
「わかったー」
転移するとき、みんなのお礼がもう一度聞こえた。
屋上に転移し、冬箱を回収した。中には、冷茶と未使用のグラスと聖炎のプリンが2つ入っていた。
もう一度転移して貰い厨房に顔を出すと、すでにユリが仕事をしていた。
「キボウ、色々ありがとにゃ。パウンドケーキ食べるにゃ?」
「ありがとー」
「キボウは、少し休むと良いにゃ」
「わかったー」
受け取ったパウンドケーキを食べながら、キボウは階段を上がっていった。
私はバタバタしているリラたちに声をかけ、クッキー作りを再開した。
途中、ユリから休憩を促されて、アイスココアを貰い少し休んだけど、クッキーよりもプリンが足りないらしく、リラたちは、追加を作り続けているようだった。
夕飯は、ユリがカツサンドを出してくれた。だけど食べに来た人は私とキボウとソウくらいで、他のみんなは、仕事をしながら食べていた。なんと一度帰ったメリッサまでが、もう一度来て、販売を手伝っていた。
私もクッキーを再再開し、リラが宣言した数を作り続けた。これは、並んでいる客に聞いた注文分らしい。
ユリは笑いながら、蒸し器で蒸しプリンを作り、釜で焼きプリンを作っていた。オーブン3段だけでは製造が追い付かないからと説明してくれた。今回大事なのは、プリン本体ではなく、青い色の炎のクッキーなのだ。
「ユリ様が、販売制限をする理由がよくわかりました」
全ての客が帰った後、イポミアが呟いた言葉が印象的だった。




