夢の慰撫
いつも通り世界樹の森に行き、私は結界の前で待っていた。
キボウは楽しそうに、藺草を何本か持って戻ってきた。
「藺草だけにゃ?」
「ささー、はんぶんー。いぐさー、だいじょぶー」
「笹の半分は、破れてしまったと言うことにゃ?」
「あたりー!」
ユリも、無理に回収しなくて良いと言っていたので、キボウは大丈夫な物だけ回収してきてくれたらしい。私は受け取り、ビニール袋に入れてからリュックサックにしまった。
「城に行くのにゃ」
「わかったー」
いつも通りのつもりで城に来たら、大騒ぎになった。
「ユメ様、キボウ様、昨日は、素敵なケーキをありがとうございました。心より御礼申し上げます」
まずはサンダーソニアだった。
「ユメさま、キボウさま、とってもおいしかったです。おばあさまも、たいへんおよろこびでした」
カンパニュラだった。
すぐに、呼ばれて来たらしいハイドランジアも顔を見せた。
「ユメ様、キボウ様、」
ハイドランジアは、言葉に詰まってしまったようで、とりあえず、席についてお茶を飲もうと、話がまとまった。
ハイドランジアは、今年は息子と孫がいない寂しい誕生日だと考えていたのに、息子から誕生日のケーキは届くし、降嫁した娘2人も、気を遣って顔を出して祝ってくれたらしい。
喜んでくれて良かったと安堵していると、ユリへの手紙を頼まれた。これはお礼状だそうだ。
少し落ち着いたので、私は粽を取り出した。
「これは粽にゃ。お店では昨日今日と、こどもの日と言うイベントをしているのにゃ。子供の成長を願う日なのにゃ。粽はこどもの日の縁起物の食べ物なのにゃ」
緑色の三角形の物体に、何だろうと見ていたみんなも、食べ物らしいとわかると、興味が出たみたい。
キボウが持参して、カンパニュラの側に行って渡していた。
「どうやってたべるのですか?」
「カンパニュラのは、キボウが教えるらしいにゃ。他の人は、私の手元を良く見て覚えてにゃ。無理そうなら、ハサミで紐を切っても良いにゃ」
さっと、メイドたちが皿を用意してくれた。
私は預かってきたボールに、剥いた笹と藺草を入れ、粽を皿に置き、たっぷりのきな粉をかけ、借りた姫フォークで食べて見せた。
食べる前の用意など、普段は料理人やメイドたちがするので、横に控えるメイドたちは、アワアワと慌てていたけれど、私が実演してしまったため、サンダーソニアもハイドランジアも、自分で笹を剥いていた。
「全部で54個あるにゃ。仲良く分けてにゃ」
侍女やメイドたちが喜んでいた。
「おいしいです。キボウさま、ありがとうございます」
「よかったねー」
カンパニュラも無事食べることが出来たみたい。
「不思議な香りとお味でございますね。でも後を引く美味しさでございますね」
「ユメ様、どうやって作るのですか?」
ハイドランジアと、サンダーソニアから質問された。
「香りは、この葉っぱ『笹』の香りにゃ。笹に餅米を詰め込んで、藺草で縛って、水から茹でるだけにゃ」
「この香りは、この笹と言う葉っぱの香りなのですか。何とも不思議な良い香りでございますね」
私が話しているうちに、キボウが藺草を回収していた。それをカンパニュラが不思議に思ったようだ。
「キボウさま、そのひもはどうされるのですか?」
「つかうー。ユリいったー。ながいいぐさー、きれいなささー」
わかるようなわからないキボウの説明に、シッスルが通訳していた。
「恐らくではございますが、長さのある草の紐と、きれいな状態の笹の葉は、再度利用が出来るので、回収して欲しいとユリ様がおっしゃったのではないかと思われます」
「あたりー!」
「シッスル凄いにゃ」
すると、ハイドランジアが、侍女やメイドたちに声をかけた。
「あなたたちも、すぐに頂いてしまいなさい」
「はい!」「はい!」「はい!」
何処にでも不器用な人というのは居るもので、藺草が解けずに千切ってしまったらしい。
「ぎゃあー、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
真っ青になって謝り続けていた。
「ハサミで切っても大丈夫にゃ。切れやすいのもあるのにゃ。気にしなくて良いにゃ」
「ユメ様、ごめんなさい。ありがとうございます」
やっと落ち着いたらしい。
「お店では、ハサミで切っている人も結構居たのにゃ。美味しく食べるのが一番にゃ」
結局その人は、笹もビリビリに破いてしまっていたけど、食べたら相当美味しかったらしく、感激していた。
チラッと聞こえたのは、「何だか懐かしい味がする。おばあちゃんに会いたくなった」と、同僚に呟く声だった。
「ユメ様、無事な笹はどうされますか?」
「ユリは、洗って煮沸してから使うと言っていたにゃ」
「では、簡単な洗浄をしてからお渡しいたします」
「ありがとにゃ」
ユリの手間が減るのはありがたい。
慰撫=慰め、労る




