夢の復習
朝起きてみると、リビングには作りかけの朝食が放置されたまま、誰もいなかった。
そろそろ朝ご飯の時間だと思う。ユリかソウが途中まで用意して、何か急用でも出来たのかな?
とりあえず、顔でも洗ってこよう。
洗面所で顔を洗い、戻ってみても、やはり誰も戻ってきていなかった。キボウも居ないということは、早朝から厨房で何か作っていたりするのかな?
いくらなんでも、いつものご飯の時間には戻ってくるのかな?
悩んでみても仕方ないので、作りかけらしい朝ご飯を仕上げおこうと、洗ってあるレタスをちぎってサラダ用の皿に入れた。
トーストは、焼いてしまうと冷めちゃうから、トースターにパンをセットだけしておこうかな。と、パンをトースターに入れていると、みんなが戻ってきた。
「みんなで仕事してたのにゃ?」
「仕事していたのは、ユリだけだよ。俺は予定を聞きに行っただけ」
「キボー、はなすー」
そういえば、ハイドランジアの誕生日だから、今日は色々忙しいのかもしれない。
「子供の日の仕込みをしていたわ」
え? こどもの日? なんのため?
「お客に子供居ないにゃ」
「まあ、そうだけど、持ち帰り分まで作るのは、現実的に、不可能だと思うのよね。数的に」
居ない人を祝うの? 誰のために?
「何作るのにゃ?」
「粽よ」
粽って、確か見たことがある。
「5個束になって和菓子屋で売ってる細長いあれにゃ?」
「んー、それは、外郎粽ね」
違うらしい。それならば、あれかな!
「炊き込みご飯みたいなやつにゃ?」
「それは、恐らく、中華粽ね」
「違うのにゃ?」
「そういう呼び分けをするなら、田舎粽ね。これは祖母に教わったわ」
粽って、他にも種類があったのか。
私が理解していないのをユリは感じたのか、詳しく説明してくれた。
笹2枚を使って、餅米だけを詰め、茹でて、砂糖を混ぜたきな粉でたべるものらしい。詳しく説明されても、全く知らないものだった。
材料的に、きな粉のおはぎみたいな感じかなぁ?
「そうだ、ユメちゃん。お城行くの、私も一緒に行って良い?」
ユリが突然尋ねてきた。
「そもそも、私も付き添いにゃ。キボウに聞いたら良いと思うにゃ」
私はキボウに付き合っているだけで、主導権はないと思う。そう思って断ると、全員で行くことに話が進んでいた。
ちょっと待って、それだとお店が困ると思う。
「マリーゴールドが一人で大丈夫にゃ?」
「メリッサさんも、イポミアさんも居るから、大丈夫だと思うわ」
でも、貴族男性が来たら、対応できる人が居ないよね?
「私は残った方が良いにゃ?」
「え?ユメちゃんは来ないの?」
「誰か来たら、対応に困ると思うにゃ」
「あ、そっか」
厨房内の作業は、確かに数人いれば問題ないだろうけど、訪ねて来る人が居たら、対応できる人は居ないと思う。それに、一昨日の事もある。
「手伝いに並ばれたら、何て説明するにゃ?」
「あー」
ユリはやっと、私の言いたいことをわかってくれたらしい。
「ユリ、たまにはユメに残ってもらって、さっさと行ってくれば良いと思うよ」
「ユメちゃんそれで大丈夫?」
ソウに説得され、ユリは私に確認してきた。
「任せてにゃ」
「なら、リラちゃんが顔出してからにしようかしら? キボウ君、それで良い?」
「いーよー」
私が残り、ユリとキボウが行くことに決まった。ソウはユリの付き添いだ。
とりあえず、すぐには行かないので、今日の粽を見るために、厨房へ行ってみた。
ユリは懇切丁寧に作り方を説明してくれたけど、ソウとキボウは上手く形にならないらしい。ユリはさも簡単にクルっと丸めて、チャチャっと作ってしまうけど、ソウもキボウも笹を崩壊させていた。
あれ? これ、昨日ユリが川原で刈り取っていた長い草かな?
粽を縛る、紐のように見えたのは、長い草だ。
「ユリ、この長い草は、川原に生えていた草にゃ?」
「そうよ。藺草と言って、畳表の素材と同じものよ」
「畳にゃ!?」
「まあ、畳にするには防腐加工が必要で、昔は、泥につけたとか聞いたことがあるわ」
畳って、草だとは思っていたけど、生えているのを見ると、なんだか驚く。畳って、新しいときは黄緑色みたいな、柔らかい色合いだけど、草のときは濃い緑色なんだね。
「ユリ、藺草は買ったんじゃないの?」
「買った分もあるわよ。川原のは使えるか判らないからね」
そうか、試しに刈り取ってきたのか。
少し聞くと、まだ若い藺草は柔らかいらしく、強度が足りない場合があるそうで、試しに使ってみようと思ったそうだ。
私も参加し、笹を丸めてみた。
ソウとキボウがものすごく苦労していたので、かなり難しいのかと思ったら、クリームのパイピングのときに覚えたコロネの作り方と同じで、右手で丸め、左手て固定すれば簡単だった。
あれ? 思っていたより、簡単?
そう思っていたら、なんと紐かけが全く出来ない!
どんなにきつくかけても緩んでしまい、笹が崩壊してしまう。
「ユメ、それ貸して」
私が困っていると、ソウが声をかけてきた。
どれ? と思ってソウをみると、粽を指していた。
どうするんだろうとは思ったけど、渡してみる。
「わかったにゃ」
なんとソウは、藺草の紐を切ることもなく、しっかりきつめに紐かけをしてくれたのだ!
「ソウ、凄いにゃ!」
「荷物の紐かけはこの国に来る前に、一通り習ったからな」
技術力だったらしい。
私がソウに感心していると、キボウが落ち込んでいた。
「ユメちゃん、本体の方は大きめの笹で、蓋にする方は、小さめの笹を使ってね」
ユリが、わりと無理難題を言っていた。
「にゃ? 水に入っているまま見ても、判らないにゃ」
「キボー、わかるー!」
キボウが、得意気に笹を操って、大きさを選り分けていた。そして、私とユリに笹を渡してくれるようになった。
キボウの指の動きの通り、笹が水から持ち上がり、私とユリの目の前に運ばれる。
「本当は、5個くらいずつ束ねるんだけど、一つずつ提供するから束ねても無意味よね」
あ、この粽も、5個ずつ束ねるんだね。
「ユリ、笹は何枚あるの?」
「合計で5000枚あるから、粽として2500個分ね。5000枚の販売が、一番安かったのよ。私の鞄に入れてしまえば、鮮度落ちないし」
え!ユリ、いったい何個作る予定なの!?
「おはようございまーす」
「おはようございます!」
リラとシィスルがやって来た。




