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クロネコのユメ  作者: 葉山麻代
◇子供ユメ◇

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夢の復習

朝起きてみると、リビングには作りかけの朝食が放置されたまま、誰もいなかった。


そろそろ朝ご飯の時間だと思う。ユリかソウが途中まで用意して、何か急用でも出来たのかな?

とりあえず、顔でも洗ってこよう。


洗面所で顔を洗い、戻ってみても、やはり誰も戻ってきていなかった。キボウも居ないということは、早朝から厨房で何か作っていたりするのかな?

いくらなんでも、いつものご飯の時間には戻ってくるのかな?

悩んでみても仕方ないので、作りかけらしい朝ご飯を仕上げおこうと、洗ってあるレタスをちぎってサラダ用の皿に入れた。


トーストは、焼いてしまうと冷めちゃうから、トースターにパンをセットだけしておこうかな。と、パンをトースターに入れていると、みんなが戻ってきた。


「みんなで仕事してたのにゃ?」

「仕事していたのは、ユリだけだよ。俺は予定を聞きに行っただけ」

「キボー、はなすー」


そういえば、ハイドランジアの誕生日だから、今日は色々忙しいのかもしれない。


「子供の日の仕込みをしていたわ」


え? こどもの日? なんのため?


「お客に子供居ないにゃ」

「まあ、そうだけど、持ち帰り分まで作るのは、現実的に、不可能だと思うのよね。数的に」


居ない人を祝うの? 誰のために?


「何作るのにゃ?」

(ちまき)よ」


粽って、確か見たことがある。


「5個束になって和菓子屋で売ってる細長いあれにゃ?」

「んー、それは、外郎粽(ういろうちまき)ね」


違うらしい。それならば、あれかな!


「炊き込みご飯みたいなやつにゃ?」

「それは、恐らく、中華粽ね」

「違うのにゃ?」

「そういう呼び分けをするなら、田舎粽(いなかちまき)ね。これは祖母に教わったわ」


粽って、他にも種類があったのか。

私が理解していないのをユリは感じたのか、詳しく説明してくれた。

笹2枚を使って、餅米だけを詰め、茹でて、砂糖を混ぜたきな粉でたべるものらしい。詳しく説明されても、全く知らないものだった。

材料的に、きな粉のおはぎみたいな感じかなぁ?


「そうだ、ユメちゃん。お城行くの、私も一緒に行って良い?」


ユリが突然尋ねてきた。


「そもそも、私も付き添いにゃ。キボウに聞いたら良いと思うにゃ」


私はキボウに付き合っているだけで、主導権はないと思う。そう思って断ると、全員で行くことに話が進んでいた。

ちょっと待って、それだとお店が困ると思う。


「マリーゴールドが一人で大丈夫にゃ?」

「メリッサさんも、イポミアさんも居るから、大丈夫だと思うわ」


でも、貴族男性が来たら、対応できる人が居ないよね?


「私は残った方が良いにゃ?」

「え?ユメちゃんは来ないの?」

「誰か来たら、対応に困ると思うにゃ」

「あ、そっか」


厨房内の作業は、確かに数人いれば問題ないだろうけど、訪ねて来る人が居たら、対応できる人は居ないと思う。それに、一昨日の事もある。


「手伝いに並ばれたら、何て説明するにゃ?」

「あー」


ユリはやっと、私の言いたいことをわかってくれたらしい。


「ユリ、たまにはユメに残ってもらって、さっさと行ってくれば良いと思うよ」

「ユメちゃんそれで大丈夫?」


ソウに説得され、ユリは私に確認してきた。


「任せてにゃ」

「なら、リラちゃんが顔出してからにしようかしら? キボウ君、それで良い?」

「いーよー」


私が残り、ユリとキボウが行くことに決まった。ソウはユリの付き添いだ。


とりあえず、すぐには行かないので、今日の粽を見るために、厨房へ行ってみた。


ユリは懇切丁寧に作り方を説明してくれたけど、ソウとキボウは上手く形にならないらしい。ユリはさも簡単にクルっと丸めて、チャチャっと作ってしまうけど、ソウもキボウも笹を崩壊させていた。


あれ? これ、昨日ユリが川原で刈り取っていた長い草かな?

粽を縛る、紐のように見えたのは、長い草だ。


「ユリ、この長い草は、川原に生えていた草にゃ?」

「そうよ。藺草(いぐさ)と言って、畳表(たたみおもて)の素材と同じものよ」

(たたみ)にゃ!?」

「まあ、畳にするには防腐加工が必要で、昔は、泥につけたとか聞いたことがあるわ」


畳って、草だとは思っていたけど、生えているのを見ると、なんだか驚く。畳って、新しいときは黄緑色みたいな、柔らかい色合いだけど、草のときは濃い緑色なんだね。


「ユリ、藺草は買ったんじゃないの?」

「買った分もあるわよ。川原のは使えるか判らないからね」


そうか、試しに刈り取ってきたのか。

少し聞くと、まだ若い藺草は柔らかいらしく、強度が足りない場合があるそうで、試しに使ってみようと思ったそうだ。


私も参加し、笹を丸めてみた。

ソウとキボウがものすごく苦労していたので、かなり難しいのかと思ったら、クリームのパイピングのときに覚えたコロネの作り方と同じで、右手で丸め、左手て固定すれば簡単だった。


あれ? 思っていたより、簡単?

そう思っていたら、なんと紐かけが全く出来ない!

どんなにきつくかけても緩んでしまい、笹が崩壊してしまう。


「ユメ、それ貸して」


私が困っていると、ソウが声をかけてきた。

どれ? と思ってソウをみると、粽を指していた。

どうするんだろうとは思ったけど、渡してみる。


「わかったにゃ」


なんとソウは、藺草の紐を切ることもなく、しっかりきつめに紐かけをしてくれたのだ!


「ソウ、凄いにゃ!」

「荷物の紐かけはこの国に来る前に、一通り習ったからな」


技術力だったらしい。

私がソウに感心していると、キボウが落ち込んでいた。


「ユメちゃん、本体の方は大きめの笹で、蓋にする方は、小さめの笹を使ってね」


ユリが、わりと無理難題を言っていた。


「にゃ? 水に入っているまま見ても、判らないにゃ」

「キボー、わかるー!」


キボウが、得意気に笹を操って、大きさを選り分けていた。そして、私とユリに笹を渡してくれるようになった。

キボウの指の動きの通り、笹が水から持ち上がり、私とユリの目の前に運ばれる。


「本当は、5個くらいずつ束ねるんだけど、一つずつ提供するから束ねても無意味よね」


あ、この粽も、5個ずつ束ねるんだね。


「ユリ、笹は何枚あるの?」

「合計で5000枚あるから、粽として2500個分ね。5000枚の販売が、一番安かったのよ。私の鞄に入れてしまえば、鮮度落ちないし」


え!ユリ、いったい何個作る予定なの!?


「おはようございまーす」

「おはようございます!」


リラとシィスルがやって来た。

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