夢の交代
休憩に入る前に、ユリから声をかけられた。
「ユメちゃん、エプロンを新調するから、また生地を選んでくれる?」
「分かったにゃ。キボウはどうするにゃ?」
「キボウ君のもお願い」
「キボー、なにー?」
「ユリがエプロンを作るにゃ。キボウも好きな模様を選ぶと良いにゃ」
私がキボウと休憩室に行こうとすると、ユリはイリスにも声をかけていた。
「イリスさんも、選んできて貰える?」
「かしこまりました」
休憩室には、メリッサとイポミアがいて、何かノートを書いていた。
「布を選びに来たにゃ」
「こちらに有りまーす」
キボウが見やすいように、メリッサとイポミアがたくさんの布を並べてくれた。
私は美味しそうな西瓜とかき氷の絵の布にした。食べ物やさんなのだから、美味しそうな絵が良いと思う。
イリスは大柄な花模様を選んでいた。キボウは大きなクリスマスツリーの絵の布を選んでいた。
「キボウ、エプロンのポケットで、絵が隠れるかもしれないにゃ」
「キボー、ポケットいらなーい」
「ユリに伝えておくにゃ」
キボウが選んだのは、生地と言うより、クリスマスツリーのタペストリーみたいな感じだった。選んだ二枚ともがクリスマスツリーなので、大きな木が良かったのかな?と思った。
一旦ユリに見せてから、休憩室に生地を戻し、私は休憩に入った。
ソウに用意して貰ったタイマーで、30分後にセットし、ベッドにのびた。
眠りはしなかったけど、ゆっくり休んだので、だいぶ疲れがとれた。
お店開始前に戻ってくると、ユリはエルムと話をしていた。
どうやら、会報誌の内容を確認していたみたいで、そのまま看板を持ったユリと、エルムは外に行ってしまった。
「ユメちやん、テーブル出してきて良いですか?」
「お願いするにゃ。今日は誰から外を担当するにゃ?」
「最初は一番忙しいと思うので、私が行こうと思います」
「わかったにゃ。頼んだにゃ」
「はい」
イリスはマーレイと、折り畳みテーブルを持って、外に出ていった。
少しすると、ユリはレギュムと戻ってきた。
注文書を確認しながらレギュムが言った数を、ユリは渡していた。地方貴族からの注文分らしい。
なんと、外の販売をクララが手伝うらしい。最初の担当がイリスで良かったと思った。
お店が開始すると、昨日よりはパニックにならずに、楽だった。
あ、メリッサとイポミアがいて、お店が3人だから楽なのか!
ユリが言っていた人数は、本当に必要な人数だったんだなと実感した。
「黒猫様!クッキーはありますか?」
「黒猫クッキーにゃ? 他のクッキーもあるにゃ」
「黒猫様のクッキーが希望です」
私は黒猫クッキーを取りだし、手渡した。
「500☆にゃ」
「ありがとうございます!」
その後も、来客はいつも通り多いのに、慌てふためく忙しさはなかった。
90分経って、メリッサとイリスが、交代した。
「ユメ様、アイスココア注文できますか?」
「聞いてくるにゃ。頼むなら何個にゃ?」
「可能でしたら、4つお願いします」
「待っててにゃ」
飲み物を頼みに厨房へ行くと、ユリとリラが、違う器でサクラムースを作っていた。
「アイスココア注文取って良いにゃ?」
「大丈夫よ」
「アイスココア4つにゃ」
「アイスココア4つ、了解です」
すぐに作ってくれたので、厨房もそんなに忙しくないのかもしれない。
半鶏丼の持ち帰りは、ソウの鞄から袋に入ったものを取り出して渡すだけだし、サクラムースもいくつか箱にいれて用意がしてある。これは、マーレイが箱詰めして冷蔵庫に用意してくれている。たまに大口が有るけど、殆どの人は、半鶏丼と同数しか買っていかない。
キボウがクッキーを売りにきたり、いつも通りのおみせだった。
開始から3時間が経ったので、私はメリッサと交代することにした。
「メリッサ、交代するにゃ」
「ユメちゃん、ありがとうございます」
「引き継ぎ有るにゃ?」
「特に無いです。お客さん側も慣れたみたいです」
私は担当の男性に挨拶し、席に付いた。
常に2つ入りをテーブルに2袋置き、1つや3つの注文の時だけ1つ入りを持ってくるらしい。なので、渡すときは、半鶏丼がまだ温かい。
手前に置いた硬貨を分ける箱に代金を入れ、販売のやり取りをしている間に、売ってしまった分を素早く補充してくれている。
「席に座って取り出したら良いにゃ。鞄を扱えないのは、イポミアだけにゃ。少し座って、売る方を担当するにゃ?」
「え?イリスとメリッサも魔力があるのですか!?」
「知らなかったのにゃ?」
「はい。貴族ってなんなのでしょうかね」
少し暇な時間に話を聞くと、三男なので、次期継承権が全く無いらしく、唯一の貴族としての矜持が、魔力の有無だったらしい。
「ユリから魔法を習って、色々使えるようにしたら良いにゃ」
「教えてくださるでしょうか?」
「攻撃魔法以外は、何でも教えてくれると思うにゃ。ただ、多すぎるからにゃ、具体的にどんな魔法と言わないと、教えるものを選べないと思うにゃ」
「そ、そんなにたくさん有るのですか!?」
「ユリ自身も使ったことがない魔法の方が多いのにゃ。でも女王の知識で、全て把握しているのにゃ」
「ハナノ様は、本当に凄いですね」
「ユリは、凄いのにゃ」
話が終わったのを見計らったように、整理券担当の二人が声をかけてきた。
「ユメ様、整理券全て配布終わりました。販売のお手伝いをしてもよろしいでしようか?」
「値段は把握してるのにゃ?」
「はい!」「はい!」
「なら頼んだにゃ。当日販売分と、整理券の分を間違えないようににゃ」
「はい!」「はい!」
私は鞄の担当の男性に確認した。
「イポミアが来なくても良いにゃ?」
「はい。3人で頑張ります」
「何かあったら呼びに来てにゃ」
「かしこまりました」
私は店に戻り、イポミアに、外の担当をしなくて良いと伝えた。
「イポミア、少しは慣れたにゃ?」
「はい!だいぶ勝手が分かってきました。とても面白いです」
お店もそんなに忙しくないようで、少し休もうかと厨房を覗くと、作業台に布を広げ、ユリとリラが布をカットしていた。あ、シィスルとマリーゴールドまで居る。
これは本格的に暇なのだろうと思い、少しだけ休むことにした。
10分くらい休憩し、外の販売を確認に行ってみた。
なんと行列が出来ていた。
「なんで行列にゃ?」
「皆さん、整理券の方です」
整理券があるからと、安心して遅くに来た人たちらしい。
「整理券の無い方は、こちらに並んでくださーい!」
1人が人を仕分け、2人が会計と販売をしていた。
「足りるのにゃ?」
「もしかすると、足りないかもしれません」
「店内在庫を見てくるにゃ」
「ありがとうございます」
私は、店内の在庫が入っている、ソウの鞄を探り確認した。
まだ30個くらいはある。
「帰りに買うのはあと何人にゃ?」
「はい」「はい」「あ、買います」「買いたいです」
イリスとメリッサが、素早く数を確認してくれた。
「残り、外に持っていくにゃ」
「かしこまりました」
イリスが、店内での必要数を外にだし、鞄ごと持ってきてくれた。
「お店の残りを持ってきたにゃ」
時間的に店内飲食を諦め、持ち帰りだけ買おうと思っていたらしき、整理券無く並んでいる人たちが、喜んだ。
無事、希望者に半鶏丼が行き渡り、半鶏丼の残りは12個だった。
「時間的に閉店にゃ!」
テーブルの畳み方を説明し、イリスと2人で、倉庫に片付けた。




