夢の親切
「少し早いけど、お昼ご飯にしましょう」
ユリの声かけで、いつもより早く、お昼ご飯を食べることになった。
みんなが用意をしているけど、私は少し疲れてしまって椅子に座っていた。慌てて手伝おうとしたら、無理しないようにと、店のテーブルに連れてこられ、ユリに言われた。
「無理しても、良いことないわよ」
「でもなのにゃー」
「ユメちゃん、大丈夫ですよ」
リラにも言われ、そのままご飯がテーブルに揃っていくところを見ていた。
「ユメ、無理すんなよ。無理して体壊したら、むしろユリが悲しむぞ?」
「わかったにゃ」
ソウにも言われ、疲れたときは仕方ないと、手伝うのを諦めた。
「ユメー、これー」
「ありがとにゃ」
キボウにカトラリーを渡された。
キボウは全員分のカトラリーをセットしていたけど、牛丼は箸が良いかな、と思う。サラダとスープがあるから、みんなはフォークとスプーンは使うかもしれないけど、細工寿司を食べるキボウも、フォークとナイフは要らないんじゃないかなぁ? 海苔巻きだし、箸も使えるし。
やっぱり、食べ始めると手掴みで食べ、「いらなーい」と言いながら、ナイフとフォークを避けていた。
少しすると、ユリが説明を始めた。
「午後一番に、イチゴババロアの仕上げをします。午後の予定は、サクラムースの仕込みと、在庫用のパウンドケーキです」
サクラムースかぁ。美味しそうだなぁ。
ぼんやり聞いていると、800個分しかないので、と聞こえてきた。
「いったいいくつ仕込むのにゃ?」
「ユリは、1000個と言っていたぞ」
「ありがとにゃ」
私が呟くと、ソウが教えてくれた。
「1000個と言えば、」
ソウが呟いた。なんだろうと思ったら、突然声のボリュームをあげた。
「あ!そういえばユリ、」
「ん?ソウどうしたの?」
「硝子小鉢、1007個預かってきた」
また器をもらってきたらしい。
茶碗蒸しの持ち帰り容器を譲ってもらってきたお店からのようだ。
ソウは話しながら、鞄から硝子製の器を出していた。朝顔みたいな形の透明な硝子製で、葉っぱのような模様がついている。
きれいな器だなー。
「あら、良いわね!サクラムース、これに作りましょう」
「ユリ様、持ってきたらスタンプいくつですか?」
「ココットと同じで良いわ」
スタンプはココットと同じ数。
そう理解していると、となりのテーブルのイリスが、大きいココットかしら?と呟いていた。
あ、そうか。スタンプは2つか!
私がスタンプの数に納得していると、ユリは何か実験を始めた。
「あら、見た感じより入らないわね。半球をのせようかしら」
秤にのせながら水を注ぎ、容積を量っていたらしい。
ユリの横でソウが出した器を、マーレイが運んでいた。
あれ?と思い、覗くと、ソウはもう食べ終わっていた。私も急いで食べて今度こそ手伝おう。
ふと見ると、ユリも慌てて食べていた。私の方が少しだけ早く食べ終わり、器を片付けると、ユリがなにか始めていた。
「ユリは何をするのにゃ?」
「ゼリーを作るって言っていたぞ」
ソウは説明すると、私が洗った器を棚に片付けてくれた。
ユリはピンク色のゼリーを作ってから、出来上がっているらしいゼリーを冷蔵庫から出してきた。何をするのかと見守っていると、クッキーの抜き型の入った箱から、ひとつ持ってきて、ゼリーを型抜きしていた。
あ!桜の花弁だ!
少し色が濃く見えたピンク色のゼリーは、桜の花弁型になると、ちょうど良い色合いに見えた。
「ユリ様、この、花弁型のゼリーはどうされるのですか?」
「飾りに使おうと思ってね。少し試作します」
飾りなのか。先日見た、舞い散る桜を思い出した。あれはとても美しかった。
その後は、なにか細工の予定が上手くいかなかったらしく、片付けていた。
「皆さん朝早くから作業しましたので、しっかり休んでくださいね」
ユリがそう言って解散になり、私もしっかり休もうと、部屋に戻った。
眠るつもりはなかったのに、ベッドにのびたら眠っていたらしい。
はっと目が覚め、慌てて厨房に行くと、ユリ以外が揃っていた。
「ユリは居ないのにゃ?」
「ユリ様は、外おやつを出しにいっているのだと思います」
そう説明しながら、リラとマーレイがお茶を用意していた。
「お茶を、持って行ってきます」
リラが言うと、ちょうどユリが戻ってきた。
リラとマーレイはお茶を持っていき、ユリは、シィスルとマリーゴールドに質問していた。
「シィスルちゃん、マリーゴールドちゃん、アイスクリームの販売希望って、聞いたことある?」
「えーと、夏にお店で出したことがありましたが、その場で作るだけで、持ち帰ることができなかったので、持ち帰ることが出来るアイスクリームなら何でもほしいと言われました」
シィスルが話し、マリーゴールドは頷くだけだった。
「ユメちゃん、イリスさん、メリッサさん、お店で、アイスクリームの要望はありますか?」
今度は、私も質問された。
「いつからですかって聞かれるにゃ」
「はい!フルーツ宝箱という名前のアイスクリームのご要望が多いです」
メリッサが、元気に答えていた。
「あれ、美味しかったです」
「あー、イリスさんは食べたことあるわよね」
イリス、いつ食べたっけ?あ、ベルフルールがレッド領にあった頃、そういえば持っていった。
「ユリ様、アイスクリーム作るんですか?」
いつのまにか、リラが戻ってきていた。
「外で要望がね。なに作れば良いのかと思って」
「フルーツ宝箱が良いと思います!」
リラもフルーツ宝箱が良いと言っていた。そういえば、イリスが食べたのも、リラが食べたいと言ったからだったはず。
「なら、アイスクリームの日に、フルーツ宝箱を売りましょうか」
「わー!楽しみです!」「わーい」「食べたみたかったです!」
なんだか、全員が喜んでいるみたいだった。フルーツ宝箱は、大人気なんだね。
「なにー?」
「美味しいアイスクリームの名前にゃ」
「わかったー」
キボウに聞かれて説明したけど、伝わったのかなぁ?
「そろそろ時間だから、お店始めるわよ」
「はい」「はい」「はい」「はい」「はい」
「頑張るにゃ!」「がんばる、がんばる」
昼休みに少し寝たお陰か、疲れが取れ、頭がスッキリしていた。
お店が始まると、イチゴババロアの予約と、外に数人つれてきているので、人数分の巻き寿司を買いたいと言う申し出がいっぱいだった。
店内で食べる人にはとりあえず座ってもらい、飲み物の注文を聞き、持ち帰りの人には来ている人数を聞き、外に待たせているだけなら、外おやつを食べるようにと、すすめておいた。
注文を通し、飲み物が出来上がると、店が大分落ち着いた。
「ユメ様、今日も忙しそうですね」
「開店の時は、何時も天手古舞いにゃ」
「大勢が詰めかける、といった感じですものね」
常連客は、少し落ち着いてから注文を出してくれる。この店のファンは、本当にありがたすぎる。
「ユメ様、アイスクリームの販売は決まりましたか?」
「5月9日に、一度販売するらしいにゃ」
「お!ありがとうございます!絶対に買いに来ます!」
そんな常連客との会話のあと、あまり見かけない客から話しかけられた。
「黒猫様、私は食べませんので、持ち帰りを2つにはできませんでしょうか?」
「何の事にゃ?」
「花のお弁当を」
「お店が閉店間際なら可能だけどにゃ。そう言って、外に人を連れてきている人が2つずつ買うと、足りなくなると思うにゃ」
「あ、私は店内で、他の物を頂きます。店内飲食分を、持ち帰ることは無理ですか?」
「他の物を食べるのにゃ?」
「はい。昨日1つ店内でいただき、1つ持ち帰り、妻に土産としました。娘二人に見つかりまして・・・」
あれ?と思った。
どこかで聞いた事があるような?
「あ!生チョコにゃ。生チョコが出始めの頃、3つに分けた人にゃ?」
「あ、はい!そうです。その節は、ありがとうございました。大変助かりました」
「今回は、私が何とかするにゃ。次回から、妻と娘も連れてきたら良いにゃ。女性客が来るとユリが喜ぶにゃ」
「ありがとうございます。次回は、家族を連れて参ります」
私は、イリスに説明し、寿司折りを2つ持ってきた。
イリスも思い出したのか、「あー、あのお客様!」と言っていた。
そのお客は、店内では、イチゴババロアと、ピザトーストユメスペシャルだけ食べ、寿司折りを大事そうに抱え帰っていった。
これ以外に面倒を言う人はなく、比較的平和に、2日目の販売を終わらせた。
それでも残ったのは、家内で消費出来る程度らしく、2日で500食は、凄いなーと、感心した。
なお、イチゴババロアは、30個弱余ったらしいけど、キボウが20個くらい貰ったらしい。
本当に、キボウはイチゴ味が好きなんだね。




