夢の完売
お店が少し落ち着いた頃、ふと見ると、ユリが厨房から覗いているのが見えた。
「カトラリー!」
とうとう見ちゃったのか。
「あ、ユリ、手掴みは無理みたいにゃ」
私はユリのショックが少ないように、少し言い訳してみた。
「食べ難くないのかしら?」
「手掴みは抵抗有るみたいにゃ」
「え、だって、この国でもパンは手掴みで食べるでしょ? 海苔巻きは、おにぎりと同じようなものなのに」
まあ、そうなんだけど、殆どのパンは手掴みで食べるけど、殆どのご飯はカトラリーで食べるから、たぶん無理なんだと思う。
「ユリが言えば、みんな従うにゃ」
「強制はしたくないわ」
無理に従わせたいわけではないらしい。カルチャーショックなのだと思う。
「ユリは何しに来たのにゃ?」
「あ、売れ行きを聞こうと思って」
そういうことならと、私は、イリスとメリッサに確かめに行った。
「イリス、メリッサ、巻き寿司の売れ行きはどうにゃ?ユリが気にしているにゃ」
「はい。持ち帰り120が予定数だとすると、今の勢いだと足りないように思います。既に半分ほど売れています」
「ありがとにゃ!」
私はすぐにユリに報告した。
「売れ行き的には、既に半分以上出ているらしいにゃ」
「やっぱりそうなのね。店売り、細工巻きしか出ないものね。トーストとか、飽きたのかしら?」
「限定品から売れるのは、仕方ないと思うにゃ」
「それもそうね。なら、240組作るつもりで、頑張るわ」
ユリが戻ったあと、イリスとメリッサに、報告した。
「合計240組作るって言っていたにゃ」
「ありがとうございます。売り甲斐が有りますね!」
「どんどん売ります!」
キョロキョロした客に呼ばれた。
「黒猫様、この花模様の食べ物は、販売制限があると伺いました。 こちらのデザートも制限がありますか?」
「イチゴババロアは、制限無いと思うにゃ」
「でしたら、30個とかでもよろしいですか?」
「冬箱を持ってるなら、構わないにゃ」
「持ってます!段つきの冬箱を入手しましたので!」
これを期に、たくさん持ち帰りを入手したい人は、イチゴババロアを大量に購入していった。
「今、飲み物を取りに行ったら、リラとマリーゴールド様がいて、海苔巻きを巻いていました」
イリスが、少し青い顔でうなだれていた。
「にゃ? 何で作っているのにゃ?ベルフルールのお昼休みにゃ?」
私は皿盛りを取りに行くついでに、シィスルに聞いてみた。
すでにリラとマリーゴールドは居なかったのだ。
「シィスル、さっき、リラがいたのにゃ?」
「はい。お昼休みに来ていました。私がマリーの分だけ持っていったので、皆から羨ましがられて、マリーが食べ難いと言うことで、皆の分を作りに来たみたいです」
「成る程にゃー。ありがとにゃ!」
私は店に戻り、イリスにリラの事情を伝えてみた。
「イリス、リラは、マリーゴールドが一人で食べ難いから、作りに来たらしいにゃ」
「そうだったのですか?」
「弟子のためだったみたいにゃ」
「そうなのですね」
なんだか、イリスの顔色が良くなった。
親って、気苦労が絶えず、大変なんだなぁと感心した。
巻き寿司とデザート3個が同じ価格なのだ。
そのためか、寿司の個数制限を聞き、デザートを大量に買って帰る人が多く、なんと、デザートは売り切れてしまった。
「イチゴババロアは、全部売ってよかったのにゃ?」
「たぶんですが、明日の分まであったと思います」
「ユリ、忙しそうにゃ。後で言うことにするにゃ」
「かしこまりました」
今言ったからって、作れるとは思えず、混乱を助長するだけだと思い、落ち着いてから言おうと考えたのだ。
「ユメ様、今日のおすすめデザートはなんですか?」
「イチゴババロアがあったのにゃ。でも、売り切れてしまったのにゃ」
「なんとー!・・・もしかして、少なかったのですか?」
「たしか、400個作ったって聞いてるにゃ」
「え、えぇー!」
「明日も出してもらえるように頼んでおくにゃ」
「よろしくお願いします」
「わかったにゃ」
「あ、それなら、何か甘いものお願いします」
「何でも良いのにゃ?」
「はい」
「何か持ってくるにゃ」
私は厨房へ行き、ユリに、作れる甘いものを聞いてみることにした。
「ユリ、甘いものは何が作れるのにゃ?」
「フレンチトースト、葛切り、イチゴミルク、ジンジャエール、ココア、アイスココアかしら」
「ちょっと聞いてくるにゃ」
「はーい」
私は客に確かめ、フレンチトーストと、アイスココアを注文した。
その後も、フレンチトーストや、ピザトーストを頼む人がいて、巻き寿司は高くて値段が想定外だったらしいと理解した。なぜなら、明日もあるなら、明日は必ず食べますと宣言して帰る人がいたからだ。持ち合わせの関係らしい。
「ユメちゃん、どうしましょう。巻き寿司、足りなくなりました」
イリスが、私のリュックを持って、慌てて伝えに来た。
「皿盛りはまだあったにゃ。箱詰めにできないか聞いてくるにゃ」
「お願いします」
急いで厨房へ行き、ユリに尋ねた。
「ユリ、持ち帰りまだ追加作れるにゃ?」
「今作っている30組が最後よ」
「わかったにゃ。助かったにゃ」
すでに出来上がっている6箱を受け取り、店にもどった。
「イリス、残り30有るらしいにゃ。出来上がっているのをいくつか持って来たにゃ」
「ユメちゃん、ありがとうございます」
「ユメ様、ありがとうございます!」
どうやら、注文を聞いてしまってから、不足に気づいたらしい。
お一人様1点限りの巻き寿司が、ラスト1箱になったとき、「最後の1箱だわ!」と、メリッサが言った言葉を聞きつけ、名乗り出た客に売り、完売となった。
閉店時間になると、客はおとなしく帰っていったので、今日は忙しかったけど、特に揉め事もなく、平和に営業が終了したと思う。
ユリに、イチゴババロア400個を全て売ってしまったことを伝えると、驚いていたけど、明日の分も用意してくれると言っていた。
皿盛りの方は、一皿残ったらしく、ユリがメリッサに渡していた。
メリッサが帰ると、夕食前に、ユリがみんなに頼んでいた。
「申し訳ないけど、ご飯のあと、残業できる人だけお願いします」
あ、これはきっとイチゴババロアだ!
「はい!」「はい」「はい」「手伝うにゃ!」
「あ、俺も」「キボー、てつだうー」
残っている全員が手伝うらしい。
ご飯を食べながら、ソウが何を作るのか質問していた。
ソウは、厨房にいたから、イチゴババロアが足りないのは知らないよね。
明日は、 イリスとマーレイのほか、シィスルとマリーゴールドまで手伝いに来るらしい。
ご飯が終わると、イチゴババロアの仕込みが開始だ。
「器の用意、計量、仕込み100個分ずつ5回です」
みんな手分けして、イチゴババロア500個分を仕込んだ。なんとキボウが、最後まで手伝っていたのだ。
仕込みが終わる頃、リラとグランが来た。
リラはユリと少し話したあと、シィスルをつれ、グランと3人で帰っていった。
「グランは、シィスルさんを迎えに来たのねぇ」
イリスが帰りがけに呟いているのが聞こえてしまった。
そういえばグランは、マーレイとイリスと一緒に住んでいるはず。




