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クロネコのユメ  作者: 葉山麻代
◇子供ユメ◇

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夢の甘香

「さあ、食べましょう」

「なにー? なにー?」

「こちらから、鮭、昆布、焼きたらこ、ローゼルよ。今日作ったものじゃないけど、ツナマヨもあるわよ」

「さっき渡していたのは、ツナマヨだったのにゃ?」

「そうよ。配るときは、実績があるものが良いと思ってね」


成る程。常に持ち歩いている分があるのか。

ユリはおにぎりの他、唐揚げや、卵焼きなどを出してくれた。

いつ作ったんだろう?これも鞄内の在庫かな?


「ユリ、この唐揚げも食べて良い?」

「はい、どうぞ」


ソウはおにぎりよりも先に、唐揚げから食べていた。これはソウの好きな、チューリップ唐揚げだ。


「出来立て熱々だね」


ソウが嬉しそうに言っていた。

そういえばこの鞄、いつまで熱々なのかな?


「そうね。丸1年くらい入れっぱなしにしても、出来立て5分程度だからね」

「そうなのにゃ?」

「10万倍、時の流れが遅いのよ。魔道具の鞄の中」


そうなの!?


「ユリはなんで知ってるのにゃ?」

「説明書的なものが有ったわよ?」

「そうなのにゃ!?」


ユリが説明してくれたところによると、鞄内を素手で探ると、説明文があるらしい。


「耐熱温度、マイナス50度からプラス200度まで収納可能で、使用可能最大重量は使用者の体重の1000倍まで。使用条件が、魔力値が1万以上、体重以上の使用は、転移魔法が使用できることって書いてあるわよ」

「そうなのにゃー!?」


ユリが鞄型にして渡してくれた。私は中を探ってユリの言った説明を見つけ、驚いた。


◇━━━━━◇

耐熱温度、-50℃~+200℃迄収納可能

使用可能最大重量、使用者体重ノ1000倍迄

最低使用条件、魔力値10000p以上

体重以上ノ使用、転移魔法要取得

使用者登録後、30000p以上必須

100000倍袋

◇━━━━━◇


片仮名が読み難い。

あれ?もしかすると、みんなが取り出せないのは3万p無いからで、ソウやキボウは使えるのかな?

(3万p以上あり、使用者登録をすれば使える)


「たぶん知らなかったと思うにゃ」

「ユメちゃんが王様をしていた頃なら、普通、王様は熱いものをしまったりする機会もなかったと思うのよ。それに、杖にして使うのが通常だったんじゃないの?」

「そんなところだと思うにゃ」


ユメはあまり覚えていないが、ユメの時代、置き型の魔道具に、誤って人が入ると発狂(又は退行)するので、鞄型にも手を入れるのは最小限にするという風潮があった。そのため、ユメも杖で使う以外しなかったのだ。


朝ご飯を食べ終わり、庭を散策する事になった。

満開の紫陽花(あじさい)は、甘い良い香りがする。


「紫陽花、良い匂いにゃ」

「え?紫陽花って匂いするのか?」


私が思わず呟くと、ソウが驚いていた。ソウにはわからないらしい。


「湿気があるときだけ甘い香りが微かにするわよね」


ユリは、湿気の有るときだけ香りがわかるみたい。

キボウは何て言うだろうと思い、キボウの方を見た。


「なーにー?」


みんなの視線に気づいたキボウが返事をした。


「紫陽花、良い匂いがするにゃ?」

「あまーい」


キボウは匂いがわかるみたい。


「キボウ君、今も甘い匂いする?」

「におーい」


ユリの問いのキボウの答えは、ちょっと意味不明ぎみ。


「キボウ、紫陽花って、良い匂いがするのか?」

「いいにおーい」


ソウが聞いたらこう答えたから、たぶん良い匂いがすると言いたいんだろうなと勝手に理解した。


ソウが紫陽花について、色々教えてくれた。

色が変わるのは、土の中のph(ペーハー)で、溶け出すアルミニウムの量が変わるためらしい。土が酸性だとアルミニウムがたくさん溶け出し青い花になり、アルカリ性だとピンクの花になると言われ、リトマス試験紙と色が反対だなって思った。

紫陽花の葉には毒があり、人が誤って食べると、お腹を壊したり、酷いとかなりの重症化するらしい。この固そうな葉を食べる人がいるのだろうか?不思議に思って聞いてみると、料理屋で、料理をのせて提供したら、紫蘇(しそ)と間違えて食べた人がいたそうだ。似てなくもないけど、間違えないと思う。いや、植物や野菜に疎い人は、間違えるのかな?


ユリからは、花言葉を教えてもらった。

紫陽花の花言葉は多いらしく、ユリが子供の頃に教えてもらったという不名誉っぽい花言葉だった。


「なんで花言葉が心変わり(こころがわり)なのにゃ?」

「色が変わるところから来ているみたいよ」


水色からピンクに変わる種類がその理由なのか。


「色が変わらない種類はどうなるのにゃ?」

「花言葉って、解説している人や書籍によって違うことが書いてある場合も多いから、難しいわね」

「成る程にゃー」


来たときに聞いたソウの説明通り、小高い丘の奥の方には、色の違う紫陽花もたくさんあった。

額紫陽花(がくあじさい)柏葉紫陽花(かしわばあじさい)や、珍しい色の花などもあり、大いに紫陽花を楽しんだ。


「どの花も綺麗で素敵だけど、やっぱり紫陽花は空色の花が落ち着くわぁ」

「ユリ、青い花好きだよな」


ユリは、青いアルストロメリアもすごく喜んでいたし、百合には青はないのよね。と残念そうに言っていたこともあった。


「空色の花って少ないからね。色のバリエーションが豊富で空色もある花って、素敵だと思わない?」

「バラもチューリップも、ブルーの名を冠している花はみんな紫だからな」


へぇ。バラやチューリップには、青はないんだね。


「色の種類に赤や黄色がある花で、空色もあるのは、芥子くらいじゃないかしら?」

「芥子って、青い花があるのにゃ?」

「植物園でしか見たことがないけど有るわよ」


家に有る植物図鑑に載っているらしいので、あとで確かめようと思った。


庭にはたくさん休憩場所があり、その全てにキボウが寄り道をしていた。


「つめたーい、つめたーい!」


椅子が冷たいなら、わざわざ座らなければ良いのに、なぜ毎度座るんだろう?

他のみんなは、木製の椅子の時だけ座っていた。木製の椅子は、あまり冷たくない。


「そろそろ次いくか?」

「あ、なら、お屋敷に寄って、お礼を置いてくるわ」

「何置いてくるの?」

「パウンドケーキのつもりだけど」

「それなら、俺が置いてくるよ。少し待ってて」

「はーい」


ソウはその場から転移していった。


「次は桜にゃ」

「何桜かしらね」


次が楽しみと思い言った私の言葉に、ユリが答えた。


「にゃ! 桜には種類があったのにゃ。てっきりソメイヨシノだと思い込んでいたにゃ」

「それこそ、ソウが持ち込まなければ、染井吉野はないんじゃないかしら」

「そう言われてみればそうだにゃ」


染井吉野は改良品種だから、自然発生はしないし、全く同じ改良品種は、挿し木や接ぎ木苗を作らなければ、大量に植わっていたりもしない。


ユリと話していると、ソウが戻ってきた。


「お待たせ!じゃ、次行こう」

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