夢の虹色
リラと別れてお店に戻ってくると、お昼ご飯が用意されていた。
あ!シィスルに声をかけられたのに、今日のケーキ作らなかった!
私が残念に思っていると、まだゼリーが盛り付けていない、カットしたクレープだけがのっている皿を、シィスルが渡してくれた。
「ユメ様、仕上げ残しておきましたけど、作りますか?」
「ありがとにゃ! 見本を見せてにゃ」
「こちらをどうぞ」
一皿見せてくれたので、ゼリーを同じように盛り付けた。
クレープの虹と、空を模した青色のゼリーと雲を模したミルクゼリーが映えて、綺麗だ。
あとで聞いたら、ほとんど全員が、自分の分を仕上げたらしい。キボウまで作ったようで、作らなかったのはソウだけなのだそうだ。
ご飯のあと、自分で作った虹のミルクレープを食べてみた。
さっぱりした空のゼリー、優しい甘さの雲のミルクゼリー、そして、虹色のミルクレープは生クリームたっぷりで、とても美味しかった。
私が虹のミルクレープを食べている時、ユリがうろうろしていたので、何しているのかな?と見ていたら、ソウが花瓶を渡していた。どうやら花瓶を探していたらしい。
花がたくさんで店中花だらけだし、花瓶が足りないのかと気がついた。でもソウによると、花を持ち込むのは、関係者だけだそうで、来る人来る人、花束を持ってくる訳じゃないと言っていた。
「ユリ様、リラさんから預かったものですが、こちらをどうぞ」
シィスルが、ユリに何か小さいものを渡していた。カードのように見える。
私のところからは良く見えなかったので、そばまで見に行った。
「うわ!凄い! これリラちゃんが作ったの?」
「クレープの上に模様を描くのに使うと話していました」
絵を描く道具なの?
「凄過ぎるわ!」
「リラさんって、本当に器用ですね」
「羨ましいわよね」
「はい」
本当になんだろう?
「ユリ、私にも見せてにゃ」
「ユメちゃん、どうぞ」
ユリが渡してくれたのは、たくさんの穴が空いた板だった。
あ、猫形もある!
この板は、どうやって使うのかな? 何に使うのかな?
「どうやって使うのにゃ?」
「粉糖やココアを振るうと、模様になるのよ」
影絵風なのか!
「成る程にゃー。ユリ、何色の粉をかけるのにゃ?」
「何色? あ、そうね!何か色をつけたら素敵ね」
黒猫はココアで良いとしても、花っぽいのは、素敵な色があった方が良いと思う。
シィスルは冷蔵庫から、半分と、1/4にカットされた虹のミルクレープを持ってきた。
ユリは何か袋を持ってきて、ニコニコしている。
茶漉しに水色に見える粉を入れ、1/4のケーキの上に、リラが作った板を置き、粉を振るって模様を浮かび上がらせた。
私の後ろには、イリスやメリッサもいたらしく、凄いとか、綺麗とか、声を漏らしていた。
本当に綺麗だ。赤い色のクレープの上に、花の模様がついた。
半分サイズのケーキはどうするのかな?と見ていたら、薄い水色の花と、ココアで黒猫を描いていた。
黒猫がとっても可愛い!
「ユリ様、これは粉糖ですか?」
「これは『泣かない粉糖』といって、コーンスターチが少し多めに入った色つき粉糖です。シィスルちゃんが作るなら、教えたラムネの作り方で、重曹やクエン酸を加えずに作れば良いと思います」
色のついた粉は、何か特殊な粉糖らしく、ユリはシィスルに作り方を説明していた。
あとで聞いたら、粉糖のみで模様を描くと、寒暖差で結露などして水分を含んだときに、模様が消えてしまうらしい。
黒猫も描かれてとても素敵になった。
私はお客に自慢することにしよう! 楽しみだな。
何かに気がついたらしく、お店を見に行ったメリッサが、ユリを呼びに来た。
「ユリ様、貴族の方が見えています」
「あら、どなたかしら?」
私もついていった。外は予想通り凄い行列だ。
「又、並んでるにゃ」
「ユリ様!開店記念日、おめでとうございます!」
「ありがとう、ラベンダーさん。お一人?の訳無いわよね」
メリッサが言った貴族とは、ラベンダーのことらしい。確かに、護衛の騎士しか回りにいない。
すると、ラベンダーの夫や、パープル侯爵一家も顔を見せた。単に、馬車から先に来ただけのようだ。
私は安心して厨房へ戻り、黒猫のココアを作ってみたいとシィスルと話していたら、ユリはすぐに戻ってきた。急いで、虹のミルクレープを仕上げして、ラベンダーたちに持ち帰りを渡したみたい。
ユリにココアを振るって良いか聞こうと思って店に行くと、ユリは受け取った荷物を開封していた。
風呂敷のような大きな布で包まれている。
包みを解くと、大きな絵が出てきた。描いたものではなく、刺繍で描いた作品のようだ。
「うわー!素敵ねー!」
「凄いにゃ。これは誰からなのにゃ?」
「ローズマリーさんとマーガレットちゃんから渡されたから、」
そう言いながらユリは額縁を見て気がついたらしい。
「これは、アルストロメリア会からのお祝いみたい」
ローズマリーが構図を考えたのかな? 新種の青いアルストロメリアも描かれている。
「青いアルストロメリアも、ちゃんと入ってるにゃ」
「凄いわね。新種だって言っていたのに、良くご存じだったわね」
あ、そうか、ユリに話していないから知らないのか。
私は、青いアルストロメリアをローズマリーに見せた経緯と、店名の話をしたことをユリに説明した。
ユリはニコニコと笑って聞いていたので、ローズマリーに話しても良かったんだと思う。
次に来たのは、イトウだった。
何か変な造花を持っている。花びらが一枚ずつ違う色のバラみたいな花。
なんとこれ、生花らしい。
バラって、こんな種類の色の花があったの?
私が驚いていると、ユリが解説してくれた。
「切り花染色材を使って、茎の下をいくつかに切り分けて色水を吸水させるんですよね」
「良くご存じで!」
へえ。生花だけど、作り物なんだ。
どうせなら、青いバラとかにすれば綺麗で良かったのに。
(薔薇は花の色の種類が多いですが、青や黒は自然界には存在しないそうです)
イトウとほぼ同時に来たらしい広報紙の人は、出されたお昼ご飯を食べたあと、お店に残ったまま取材をするとかで、ユリに許可をとっていた。すでにユリは仕事に戻ってしまったので、ソウが連絡事項を伝えていた。
今日もお昼休みがなかったみたい。




