夢の感性
2階に戻ると朝ご飯が用意してあった。ソウが作ったらしい。
「べーこん!べーこん!」
キボウが騒いでいた。キボウは、ベーコン好きなんだなぁ。
さっきのユリの呪文はなんだろう? シィスルがいる前で聞いたら不味い呪文だと困るので、聞けなかった。それに、何が起こったかも良くわからなかった。
「へぇ。それは俺もやったことがないから、興味深いな」
「うふふ」
ソウの話が済んだみたいなので、ユリに尋ねた。
「ユリ、何か呪文を唱えていたのは、何にゃ?」
「あー、あれは、弱水流の魔法ね。本来、泳ぐときの補助に使うらしいわ」
「にゃ?」「は?」「なにー?」
全く聞いたこともない魔法だった。
「塩抜きの方法で、水流を作るために、エアポンプや小型モーターを回すというのがあったのよ。でも、モーター無いじゃない? だから、弱水流で代用できないかなぁって思って」
用途はわかったけど、ユリの使い方が、相変わらず凄いと思った。なんというか、独自だ。
「ほぼ海の無いこの国で、何に使うんだ? その魔法」
あれ、ソウは、違うことが気になったみたい。
「湖で泳げば良いんじゃないかしら? 湖、無いの?」
「結界を張る前は、海に出られたと思うにゃ」
「あ、そうだったな。海に出られた頃に使っていたのかもな。湖は、どっかの領地の王家の別荘のそばにあるよ」
でも、多分私も知らない魔法だと思う。私が泳ぐことはなかったと思うからね。
「みずうみ、なにー?」
「湖は、川の水が自然にたくさん溜まった場所だな」
「かみさまのもり、あるー」
「世界樹の森の中に、湖があるの?」
「あたりー」
「日帰りできるなら、見てみたいわねぇ」
「日帰りできるならな」
キボウの疑問にソウが答えていた。どうやら世界樹の森に、湖があるらしい。ユリは行きたいらしいけど、私は怖いから行きたくないかな。
先に食べ終わったユリは、食器を片付けようとしたら、ソウが片付けるから良いと断られていた。
ユリが厨房に行ってしまったので、急いで食べて追いかけた。
「イウスウリョニマン」
丁度、呪文を唱えていた。
「ユリ、何て言ってるのにゃ?」
「イ・ウ・ス・ウ・リョ・ニ・マ・ン。よ」
覚えにくそうな呪文だなぁ。
「弱水流なのにゃ?」
「正しくは『波の流水』で、大波の呪文も別にあるわね」
「私も使えるにゃ?」
「多分1000pくらいだから、唱えてみればわかるんじゃないかしら? 波の大きさをイメージして、最初は水を触りながら唱えると良いわよ」
やってみれば良いと言われたので、試してみることにした。
浅い鍋を持ってきて水を入れ、椅子の上においた。
すると、キボウがなにか持って来た。魚型の容器だ。
「ユメー、これー」
「どうしたのにゃ?」
「ユリ、いったー。わかりやすい、いったー」
「水流を可視化するのにゃ?」
「かしー?」
「見やすくするのにゃ」
成る程と思い、魚型の容器を水に入れ、頭の中で呪文を唱えた。
「 」
すると、バシャッと水がはね、高速で回り始めた。
「うにゃー!!」
私はびしょ濡れになった。
「ユメちゃん、大丈夫? ほら、これで拭いて」
ユリに乾いたタオルを渡されたので、手と顔を拭いた。すぐに手を叩き、魔法を止めた。
「強すぎたにゃー」
「そのようね」
ユリがものすごく気の毒そうにこちらを見ていた。
「ちょっと温かいシャワーを浴びてくるにゃ」
「風邪引かないようにね。着る服、買ったものもあるわよ」
「そうなのにゃ?」
私の服は、布でできているわけではないので、乾かすのも汚れを取るのも簡単なのだけど、ユリが心配するので、温まってくることにした。
みんなで一緒に2階に戻ると、ユリが服を杖の鞄から出し、渡してくれた。
ワンピースみたいな服で、フードがついていた。
「可愛らしいのにゃ!」
「良かったわ。私のセンスだから、あんまりヒラヒラじゃないけどね」
なにか誤解されてる?
「にゃー。私もあまりヒラヒラは着ないのにゃ」
「そうなの? お城の絵とかヒラヒラな服ばかりだし、初代様教の人たちのセンスは派手でヒラヒラ服らしいから、てっきりユメちゃんの趣味がそういうのかと思っていたわ」
やっぱり誤解されていたみたい。
「今の私には断言できないけどにゃ、日記に書いてあったのは、服を選んだことがないって話だったにゃ」
「あはは。私と一緒ね」
そういえばユリも、衣裳類は任せっきりにしていた。
私は部屋に戻り、着ない服を置き、風呂に入った。
熱目のシャワーを浴びて、体が温まった。
風呂から出て、ブラウスを着てジーンズを穿き、フード付のワンピースみたいな服を着た。
鏡に写る私が、可愛らしい。フードを被ってみると、猫耳まで付いていた。
ユリに見てもらおうとリビングに戻ると、声が聞こえた。
「キボウ君、凄いわね!」
「キボー、すごーい、キボー、すごーい」
部屋に入り尋ねた。
「ユリ、どうしたのにゃ?」
「キボウ君の着替えが、手品みたいだったのよ。こー、服を上に投げるようにしたら、次の瞬間、着替えが終わっていたのよ」
ユリは、恐らくキボウがやったのであろうしぐさをして教えてくれた。
「キボウ、その服、似合ってるにゃ」
「とても似合ってるわ」
「キボー、にあうー、キボー、にあうー」
「ユメちゃんも、とても似合っているわ」
「ありがとにゃ!」
又一時間後にもユリは塩加減の確認をしたらしい。
リビングに居ると、ソウが大きな箱を持って帰ってきた。
「ソウ、それ何にゃ?」
「これ、燻製器とチップとウッド」
「いっぱいにゃ」
箱が4つ、袋が4袋、長細い塊が4つある。
箱には、燻製の写真があった。これが燻製の機械なのかな?
「無難に桜にしておいたよ」
「ありがとう」
どういう意味だろう?
「無難に桜って何にゃ?」
「燻製に使うチップの素材の種類だな。他には、クルミとかリンゴなんかもあるぞ」
種類があるという意味なの?
「桜が無難なのにゃ?」
「まあ、使いやすいかな。あとは、ユリの好みだな」
「昔、違うチップを使ったら、燻製臭すぎて食べるのが辛かったことがあってね。私の好みは桜らしいのよ」
ユリの好みが、一番の点か!
「臭すぎるのは、確かに食べにくいと思うにゃ」
「買ってくるベーコンやソーセージは、そんなに燻製臭くないからね」
「成る程にゃー」
何かもっと簡単に作れるのかと思っていたけど、手順が多いんだなぁと思った。
「ソウ、明日はよろしくね」
「任された!」
明日は、ソウが担当するらしい。




