夢の昼食
ユリもどうせ王宮に来ると思うけど、ユリが来る前に話そうと思い、ユリの誘いを断った。
キボウはいつも通り世界樹の森に行くらしい。ユリからお弁当を渡されていた。あれは、私の鞄にも入っている。
王宮のソウの部屋に転移した。
バンドベルを鳴らすと、前回と同じように、カンパニュラとサンダーソニアが来た。
「ユメ様! あれ?お一人ですか?」
「また、ユリを待ってたのにゃ?」
「はい・・・」
「ユリは、今日来ると思うにゃ。先に、ローズマリーとラベンダーの所に行くと言っていたにゃ。ローズマリーにでも、聞いたら良いと思うにゃ」
「ありがとうございます!」
早速二人はローズマリーに、ユリがパープル邸を出たら手紙転移装置で知らせるように送ったらしい。
二人のお付きの女性が、「送って参りましたところ、すぐお返事がございました」と、私が部屋にいるうちに、連絡がついたらしく、喜んでいた。
「ハイドランジアと約束してるにゃ」
「ご案内いたします」
この部屋はソウの部屋で、転移専用の部屋なので、私が移動した。ハイドランジアとしては、自分が呼びつける形になるのが嫌だったらしく、さんざん私専用の部屋をすすめられたが、私物を王宮に置いておくつもりもないので、断ってある。パープル邸でも、ローズマリーに同じように断った。
「お待ちしておりました」
恭しく迎えられ、私が先に着席するまで、ハイドランジアは、立っていた。
「ハイドランジア、私の記憶が無くなった時に困るのにゃ。ユメとして扱って欲しいにゃ」
「かしこまりました」
お茶を出され、お菓子を出されたあと、全ての従者が退室した。
「護衛まで退出させて大丈夫なのにゃ?」
「ホシミ様によりますと、この部屋の防御は完璧だそうでございます」
「ソウがそう言ったなら、大丈夫にゃ」
普段室内にいる護衛も、部屋の外に立っているらしい。
「それでユメ様、お小さい頃があったと、ローズマリーから話を聞いております」
「たぶん記憶の限界なのにゃ。日記を見ながら話すにゃ」
私は、ルレーブの記憶があった頃に書いて置いた日記を見ながら説明をした。
黒猫としてこの世界に居たことを気づいたときから、馬車に轢かれてソウに助けられたこと。黒猫としてユリに名付けられ、家族の一員になったこと。人前で初めて人型になり、ユリは驚かずに喜んだこと。当時、ルレーブの記憶はほぼなく、猫として生きるつもりだったこと。
知らないはずの知識をふと思い出して、魔法が使えるようになったこと。パープル邸の庭に有る石を触って、歯抜けの記憶を思い出したこと。その記憶を探るために、各所の石を触りに行ったら、大きくなってしまったこと。それでもユリとソウは、なにも変わらずに受け入れてくれたこと。
「ここからはまだしっかり覚えてるにゃ。パープル邸で、ユリの作った黒蜜の匂いに誘われたのにゃ。黒猫で行ったのに、つい人型に変身してしまったにゃ。見たローズマリーを驚かせてしまったのにゃ」
「あー。あのお話は、そんな事情だったのでございますね」
ハイドランジアは、ローズマリーから聞いていたらしく、謎が解けたと言って笑っていた。
「今、記憶に有るのは、大きくなる少し前にゃ。石を回っている最中にゃ。これもそのうち忘れてしまうと思うにゃ」
「貴重なお話をありがとうございます」
「ハイドランジア、この日記、預かってにゃ」
「よろしいのですか?」
「私がいなくなってから、ユリに渡してにゃ」
「かしこまりました。必ずや、お渡しいたします。王族しか開けられない書棚に保存し、お守りいたします」
頼んだ日記は、ユメとして大きくなるまでを記した分だった。
忘れてしまった記憶の分だ。
「また、忘れた頃に、頼みに来ると思うにゃ」
なんとも痛ましそうな表情で、ハイドランジアは頷き、返事をした。
「かしこまりました。お待ちしております」
その暗い雰囲気を打ち破るかのように、キボウが転移してきた。
「ユメー! ごはんたべる?」
「キボウは、結界関係ないのにゃ?」
「キボー、けっかい、ソウかったー。キボーまけたー」
「にゃー、そんなこともあったにゃ」
「あの、ホシミ様の結界は、城の結界よりも強固なのでございますか?」
「どのくらいかは判らないにゃ。ソウが馬車に張った結界内からキボウが転移したときに、失敗したらしいにゃ」
ハイドランジアが、驚いたようにこちらを見た。
「私としてはにゃ、そういう常識を含めて、私の記憶を残すべきと考えたのにゃ。ルレーブの記憶がある頃の日記は、ユリ以外に公開できないかもしれないにゃ」
「そうしますと、先ほどのお預かりしました日記は、私も読んでも良いのでしょうか?」
「重要なことは書いてないにゃ。構わないにゃ。怠惰な猫だった日記にゃ」
ハイドランジアは、ニコニコとして、私の日記を私物の置いてあるエリアにしまいに行った。
「本当に、猫として生きるつもりだった日記にゃ。期待しない方が良いにゃ」
「はい、あ、いいえ。大事にしまっておきます」
「ハイドランジアは、ごはんどうするにゃ?」
「どうするとおっしゃいますと?」
「ユリは、みんなにお弁当を持たせているにゃ。ここで食べてよければ、ここで食べるにゃ」
「キボー、たべるー!」
「私とキボウと同じものを食べるなら、持ってるにゃ」
「ありがとうございます。是非お願い致します!」
私は、朝、キボウが受け取っていたものと同じ、ホットドックを出した。
「このまま噛りつくのにゃ。飲み物だけ用意すると良いにゃ」




