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クロネコのユメ  作者: 葉山麻代
◇子供ユメ◇

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夢の蝋燭

マーレイとイリスとグランも、早くから来てくれた。


「おはようございます!ユメちゃん、おめでとうございます!」


イリスがニコッとしながら、籠入りの花と果物を渡してくれた。


「おはようございます。ユメ様、おめでとうございます」

「ユメ様、おめでとうございます」


マーレイとグランが、渡してくれた籠には、見慣れない花が入っていた。


「ありがとにゃ!おはようにゃ」


グランは、そのままベルフルールに行くらしい。


「リラによろしく言ってにゃ」

「はい!」


グランを見送ると、イリスが声をかけてきた。


「ユメちゃん、お手伝いいたしますので、どの辺に座って、皆さんをお待ちになりますか?」

「今日は、お店はしないのにゃ?」

「来客が、パラパラでしたら可能ですが、並ばれて、それどころではなくなるのではないかと思います」


そんなにいっぱい来てくれるかなぁ?


「イリスに任せるにゃ」

「でしたら、手前の大きいテーブルにユメちゃんは座っているようになさり、私が、お渡しするお菓子の数を揃えたりしましょう」

「わかったにゃ」


イリスの予想通り、このすぐあとから人がたくさん来はじめた。ユリとソウは、マーレイをつれて厨房に行ってしまったので、お店はイリスと二人きりで、てんてこ舞いになった。


「ユメ様!御生誕を心よりお喜び申し上げます!」

「ありがとにゃ」


「ユメ様、お誕生を御祝い申し上げます!」

「ありがとにゃ」


「ユメ様、この度は、」

「難しくかしこまらないでにゃ、お誕生日おめでとう!で良いにゃ」

「お誕生日おめでとうございます!」

「ありがとにゃ」


以降、難しい挨拶をする人は減り、みんな、お誕生日おめでとうございますと言ってくれるようになった。


列の人が、「どうぞ、どうぞ」と避け、誰かを先に通してきた。


「ユメ様」

「来てくれたのにゃ!」


パープル侯爵と、ローズマリーと、マーガレットだった。

律儀に列に並ぼうとしたらしい。回りが驚いて、先に行って欲しいと、通してきたのだ。この地の領主なのだから、みんなが遠慮するのも致し方ない。


「ローズマリーありがとにゃ!」

「御祝いに駆けつけるのは、当然でございます」


私は、ローズマリーとマーガレットと話し込んでしまい、イリスはてんてこ舞いなので、見ていたキボウが気にしたらしく、パープル侯爵に話しかけていた。


「どーぞー。よぶー? おめでとしたー? 」


お菓子を受け取ったパープル侯爵は、少し困っていた。


「あ、えーと、キボウ様、ホシミ様はいらっしゃいますか?」

「わかったー」


キボウは、誰かを呼びに行ったみたい。

少しして、ユリが顔を出した。


「ハナノ様」


パープル侯爵がユリに声をかけると、全員がユリの方を見て固まっていた。


「皆さん、いらっしゃいませ。私は今日は店主ですよ」


全員が頭を下げて、列に戻っていた。

パープル侯爵の事は、ユリに任せてしまおう。

ユリが何か説明しているようだった。


「え? あ、琥珀糖ね。これはお菓子ですよ」


ユリが言ったとたん、店内にいた全員から声が上がった。


「え!」「えー!」「ええー!」「食べられるの!?」


「ユメちゃんの瞳色な感じでこれは青いですが、他の色もあります。ちょっと待っていてください」


ユリが、みんなで作った琥珀糖を持ってきてパープル侯爵に見せていた。


「ユメ様、あのお菓子はたくさん種類があるのですか?」

「ピンク色のは、私が作ったにゃ」

(わたくし)も拝見させていただいてもよろしいでしょうか?」

「マーガレットと見てくると良いにゃ」


ローズマリーは、ユリのそばに行き、琥珀糖を確認していた。


「ユリ様、こちらはどのようなお色でも可能でございますか?」


ローズマリーは、これ絶対作る!との気合いが漏れ出ているように見える。たしかに、女性に評判が良いと思う。


「まあ、(おおむ)ね可能です」


そのあと、何かユリと内緒話をして、パープル侯爵一家は帰っていった。


すぐあとに、トリヤとスノードロップの夫妻も来ていた。パープル侯爵とは、別に来たらしい。


レッド公爵夫妻と、ブルー公爵夫妻と、イエロー公爵が一緒に来た。並んでいた面々が緊張し、ちょっと困ったなと思っていたら、御祝いを言って、すぐに帰っていった。ユリやソウを呼ぶ暇もなかった。


そのすぐあと、ラベンダーとスマックが来た。


「ラベンダー、ユリは厨房にいるにゃ」

「伺ってもよろしいのですか?」

「ラベンダーなら、大丈夫にゃ」

「ユメ様、ありがとうございます」


ラベンダーが、スッと厨房に行くと、ついていこうとしたスマックが、ソウの結界に阻まれたのか、立ち止まっていた。


「ユメ様、これは結界でしょうか?」

「ソウの結界だと思うにゃ」

「空気に押される感じがします!」


なんだか、結界に阻まれているスマックが楽しそうに見えた。


ラベンダーが呼んだのか、ユリとソウがお店に来た。

すると、結界を通れなかったスマックが、ハイテンションで、ソウに話しかけていた。


「凄いです!素晴らしいです!ラベンダーは素通りしたのに、私は触ることすらできませんでした!」


若干引きつって見えるソウが答えていた。


「ラベンダーは、ユリの弟子らしいからな」

「成る程!今後ともよろしくお願い致します!」


ユリとラベンダーは、にっこり笑って見ているだけだった。


「ユメ様、ホシミ様を怖がらない方もいらっしゃるのですね」


少しソウを不憫に思った。


「ソウが、怖いのは、ユリに危害を加えそうなのがいるときだけにゃ」

「ハナノ様に危害を?」

「ユリを大事にしていれば、怖くないにゃ」

「そうなのですね」


下らない話をしているうちに、ラベンダーたちは帰ったらしい。

さすがに王宮のメンバーは、直接来たりせず、手紙や、代理が御祝いに来ていた。



「12時過ぎたから、一旦閉店してご飯を食べたいんだけど、」

「無理だと思うにゃ」


ユリがお昼のお知らせに来た。まだたくさん並んでいる。ユリも列を見て、並ぶ人を気の毒に思ったらしい。


「ユメちゃん、ごはん食べながら受けとる?」

「そうするにゃ!」


ユリは、忙しそうにしているイリスに声をかけていた。


「イリスさん、マーレイさんと一緒に先に食べちゃってくれる?」

「かしこまりました。ユリ様はどうされるのですか?」

「ソウと二人で、ユメちゃんの横にいるわ。なんならそこで食べるし。うふふ」

「俺らが居れば、長居しないだろうしな!」


ユリ、一緒に食べるのかな?

イリスがいったん下がり、ユリとソウが相談しながら、色々並べてくれた。持ちきれなかったのか、イリスとマーレイも一緒に運んできていた。


「ユメちゃん、蝋燭(ろうそく)は1本で良い?」

「一歳にゃ!」


そう、私はユメ、1歳なのだ!

ユリが火をつけてくれた蝋燭を、私はフッと吹き消した。

一度やってみたかった。みんなの前でケーキの蝋燭を吹き消すのを。


「お誕生日おめでとう!」「誕生日おめでとう!」

「おめでとー、おめでとー」


ユリと、ソウと、キボウにおめでとうを言われた。なんだか泣きそう。


「初めてにゃ」

「え?」

「お誕生日を祝って貰うのは、初めてにゃ」

「そうなの!?」「そうなのか!?」

「ありがとにゃ!」


昔は、誕生そのものを祝うことはあっても、誕生した日を祝う習慣がなかったし、川井翼の時は、誰も祝ってくれなかった。私の誕生日がはっきりしていなかったのも原因にあったけど、ケーキの蝋燭を吹き消す清子(さやこ)が羨ましかった。


「お祝いできて良かったわ」


ユリから言葉をもらい、とても心が温かくなった。


「そうだな。ユメ、これ誕生日プレゼントだ」

「はい。これは、私から」

「ユメー、あげるー」


三人からプレゼントを渡された。


「ありがとにゃ!ここで開けても大丈夫にゃ?」

「俺のは大丈夫だぞ」

「私のも大丈夫よ」


早速包みを開けると、ソウのプレゼントは、天体望遠鏡で、ユリのプレゼントは、ユリが作ったらしい服だった。キボウのプレゼントは、なんと私が生まれたときの映像だった。



ご飯を食べながら、再びプレゼントを受け取り始めた。


「ユメ様!お誕生日おめでとうございます!」

「ありがとにゃ!これ、お返しのお菓子にゃ」


私が代表者に渡し、ソウが籠の人数分まとめて渡してくれていた。


「ユメちゃん、手渡しを休んでも、ちゃんとごはん食べてね」

「食べてるにゃ!」


食べる合間に、お菓子を渡していると、私のご飯を見た人が、美味しそうと言い始めた。


「ユメ様、美味しそうでございますね」

「美味しいにゃ!」

「午前中に間に合わず、ご迷惑をお掛けします」

「いっぱい並んでるから仕方ないのにゃ」


ユリも気になったのか、少し声をかけていた。


「何時ごろいらしたんですか?」

「ハナノ様! はい、10時頃に着きましたら、長蛇の列でございました」


みんな本当にありがたい。


少しして、騒いでいる人が来たみたい。


「あー、私は、来客じゃありません! ちょっと通してください!」


なんだろう?一人で来る女性は珍しい。


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